真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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恋するプリンセス ぷりんぷりんなお尻
や行
/
2017年04月10日
「
恋するプリンセス ぷりんぷりんなお尻
」(2016/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:吉行由実・北京八/撮影:小山田勝治/録音:小林徹哉/音楽:柿崎圭祐/編集:中野貴雄/助監督:江尻大/整音:西山秀明/効果:うみねこ音響/監督助手:村田剛志/撮影助手:染谷有輝/スチール:本田あきら/劇中画:小林まいこ/ポストプロダクション:スノビッシュプロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:他一社、スマイルカフェアーツ/出演:羽月希・加納綾子・ジョリー伸志・和田光沙・マサトキムラ・白石雅彦・織田歩・鎌田一利・草刈香乃、他・岡元あつこ《友情出演》・ピン希林・吉行由実・老田亮)。出演者中、ピン希林がポスターにはさらだたまこ、変名の意味ないぢやん。再度出演者中、織田歩(AYUMU ODA表記だつたかも)から他若干名までは本篇クレジットのみ、何だかんだな情報量に屈する。
アジア系民族が公用語は英語を使ふナバリア王国、国王が決めた結婚相手(鎌田一利/見合風写真のみ出演)に絶望した王妃のマルゲリータ(羽月)は入水自殺を決意、波打ち際にて、漂着した一冊のレディースコミック『堕ちてゆく私』を拾ふ。初めて触れるレディコミの甘美な世界に感銘を受けたマルゲリータは、日本へのマンガ留学を国王に直訴、娘に甘い国王が折れる一幕はマンガで処理してタイトル・イン。それにつけても「恋するプリンセス ぷりんぷりんなお尻」、担当者一世一代のピークをも感じさせる、この圧倒的な下らなさと同時の強度よ。ぴんくりんく主催により何と映画を観ずとも投票出来る、公開題が秀逸なピンク映画を決定する「ピンキータイトル賞」は今作で間違ひあるまい。実際、羽月希の尻を然程ですらなくフィーチャーしてはゐない些末如き、東の風に流してしまへ。
日本名といふか偽名の鈴木マリアで身分を隠し、『堕ちてゆく私』の作者・橘さゆり(吉行)のアシスタントに入つたマルゲリータは仕事ぶりが認められチーフに昇格、ピース出版ラブリーコミックの編集者・八木伸也(ジョリー)が担当につき、一本マンガを描いてみる運びとなる。
配役残り、事実上専属の吉行組四戦目で安定する加納綾子は、護衛役としてマルゲリータと同居する、ナバリア王国諜報機関「NIA」所属のスパイ・エミリ。俳優部以外にガンエフェクトでも活動するマサトキムラは、ファースト・カットから加納綾子が猛然と飛び込んで来る洋ピンテイストの絡みを介錯する、この人も多分「NIA」所属のアレックス、捌け際無駄にリボルバーを振り回す。白石雅彦はマリアと八木が打ち合はせするバーのマスターで、老田亮が、そこで話題に上るマルゲリータ公務の地雷撤去作業を茶化す、八木とは旧知の戦場カメラマン・西原達也。瞬間的な出番―物理的時間の比較だけでいふと、後述するピン希林よりも全然短い―を駆け抜けて行く高速濡れ場三番手の和田光沙は、かつて八木・西原と三角関係を形成した京子。メイド服よりも割烹着が似合ふピン希林は、身許バレしたマルゲリータを逃がす―マンションに詰めかける報道陣中に、EJDが見切れる―隠れ家に、エミリが用意した家政婦の吉田さん。心を込めたカレーの件は、一撃必殺の泣き処。本職演出部の織田歩は、マルゲリータの功績でマンガが浸透したナバリア王国を取材するBCN局の記者で、吉行由実とは大学の先輩後輩といふ間柄の岡元あつこと、こちらはどういつた繋がりなのかex.煩悩ガールズの草刈香乃は、街頭でマイクを向けられる鈴木マリア新作の読者。
清水大敬
のやうにど頭でクレジット大書こそしない―記念のトークショーは開いた―ものの、
荒木太郎
とともに
監督デビュー二十周年
を迎へた吉行由実の2016年第二作。一歩間違ふか気を許せば、今でもヒロインが白馬に乗つた王子様の登場を待つてゐたりなんかする類の物語を撮りかねない吉行由実の、いよいよガチお姫様が主人公の映画と来た日には、これはもしかすると、ノーマーク気味だが地味に2016年最注目の一作ではなからうかと前のめりに小屋の敷居を跨いだものである。
プリンセスの豪奢な生活の表現なり、気持ち片足突つ込みかけられなくもない、一国の王位継承者ともなるとVIP中のVIPを巡る国際サスペンスを繰り広げる袖などもとよりないことなど、この期に及ばずともいふても仕方がない。とはいへ、羽月希の確かにぷりんぷりんな裸をお腹一杯に見せるでもないまゝに、小粒な展開を堂々巡り漫然と尺を持て余したきらひは否み難く、重ねて、ただでさへ樹カズも岡田智弘も不在の脆弱な男優部だといふのに、ダーク系ライダーにでも変身しさうな大体今時のイケメンながら、ワイルドな王子様たる老田亮の、表情から欠落したレス・ザン・目力が致命傷。お姫様と王子様が、見詰め合ふショットが成立し得ないでは、満を持した吉行由実の一大直球勝負も、棒球をティー感覚でスタンドに運ばれて終りといふもの。あれだけ繰り返し繰り返し執拗にインサートしておいて、マルゲリータが『堕ちてゆく私』を読み耽り寝落ちた夜の、夢か現かなキスの主は結局ある意味綺麗に等閑視。エミリが八木を拉致る大技まで繰り出したにも関らず、スカッとスルーされる背後の黒幕。岡元あつこの公式ブログによると存在するらしい、OPP+版との兼合ひ―だとしても、何度でも繰り返すが本体ピンクが割を喰ふのは本末転倒―があるのかも知れないが、何気にでもなく粗雑な作劇も目につく。象徴的なのは、ナバリアに帰るマルゲリータと、西原の別れのシークエンス。長々と抜く西原が構へたカメラのファインダーの中のマルゲリータが、微笑みかけてゐるのか、それとも今にも泣きだしさうなのか。恐らくそれを狙つた絶妙にどつちつかずな羽月希の表情に、周年記念の勝負作を戦ひきれなかつた、撃ち抜き損なつた不覚悟を看て取つたものである。何れにせよ、あくまで個人的な希望としては、二十周年の目出度さと昨今の御時世に対するカウンター込み込みで、吉行由実には羽月希に世界の果てまで照らさん勢ひで満面の笑顔を輝かさせて欲しかつた。
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