真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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物凄い絶頂 淫辱
深町章
/
2007年12月02日
「
物凄い絶頂 淫辱
」(2007/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:後藤大輔/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:金沢勇大/撮影助手:海津真也・種市祐介/スチール:津田一郎/選曲:梅沢身知子/現像:東映ラボ・テック/協力:メイドカフェみるふぃ・新宿雑貨/出演:華沢レモン・里見瑤子・田中繭子・なかみつせいじ・久保新二)。
自称小説家の東風(なかみつ)が、如何にも訳アリな風情で物憂げに海岸に佇む。茂みの中から現れた今時で、バリッバリの俗流メイド服に身を包んだ晴奈(華沢)から、藪から棒に「お帰りなさい、御主人様☆」と声をかけられた東風は、「俺?」と面喰ふ。晴奈のニーソックスと短めのスカートとの隙間の太股に、よくいへばホーム・メイド・テイスト、直截にいへばあんまりなビデオ合成で、「ここを絶対領域と言ふ」(原文は珍かな)とのテロップが被さる。清水正二の仕業らしいが、それを許す深町章も共にいい歳をして、他愛もないおふざけが過ぎる。呆気に取られた東風に構はず晴奈は続けて、食事か入浴か、それとも私の肉体かと、かつて夢見られた輝ける未来の筈の二十一世紀も、訪れてしまへばそれまでと何ら代り映えもしない怠惰な現在に過ぎぬ、といふ枯れた現実に容赦なく直面させて呉れる切り出しを繰り出す。かと思ふと急に催したのか、今度は晴奈は草むらに駆け込むや、白い尻も露に放尿を始める。放尿しながら恨めしさうな表情で東風の方を振り向くと、「晴奈は、お漏らしなど絶対にしてをりません!」と抗弁する。そのまま晴奈は姿を消し、ロング・ショットで狐につまゝれたかのやうに呆然と海岸に立ち尽くす東風が、「宿を探すか・・・」と歩き始めてタイトル・イン。
場面変つて、色んなピンクで観た(
この辺りか
)やうな気もするペンション。食堂には、判り易く金持ちをイメージしたガウンを羽織つた作造(久保)が。猫耳メイドの玉代(田中)が紅茶を持つて来ると、作造は何のかんのと玉代を犯す。そこに宿を求め東風が訪れると、玉代は繋がつた体から作造を慌てて押し離す。実はペンションの主人は玉代で、作造は使用人であつた。メイド・プレイは夫を既に喪つた玉代と作造との、日課の情事であつたのだ。海岸で不思議なメイド服姿の女を見たといふ東風に、玉代はこの地に残る幽霊譚を語る。大正時代、夢求めて上京するも、場末のカフェーの女給に身を落とした女(華沢レモンの二役)と―推定―旧帝大学生(なかみつせいじの二役)との道ならぬ恋。行く当てを失つた二人は当地の海で心中し、以来女給姿の女幽霊が出るやうになつたといふのである。
里見瑤子は、東風の妻・光子。再び
三番手の濡れ場要員の出番を夢オチで処理する
やう見せかけて、後に実際に登場する。光子によつて、東風の本当の職業は竿竹屋である旨が明らかとされる。
要は、劇中明示される通り明確に永井荷風の『つゆのあとさき』をフィーチャーした幽霊譚は、晴奈の可笑しくも憐れな真実に思ひ至つた東風によつて、未だ想ひを残し此岸を彷徨ふ晴奈の成仏を図るといふ方向にシフトする。それはそれで、ピンク映画としてのジャンル的要請まで含め悪くはないのだが、その上でなほ、最終的にはどうにも映画が求心力を失してしまつてゐる。晴奈の問題は解決され、ついでに玉代と作造もそれぞれの道を歩き始める。そこまではいいとして。肝心の、主人公たる生活力を失ひ漂白する東風の扱ひが、如何せん軽いか。深夜の階段での晴奈との語らひでは、人間といふ生き物に対し突き放しつつも同時に温かく接するアプローチをかなりイイ線まで見せ、光子との破綻寸前の夫婦も一応は修復されはするのだが、全体的には、本来ならば端役の筈の作造が前に出過ぎてゐる。それがこの人の主力装備なので仕方のないところでもあるのだが、何時ものやうにゴーイング・久保チンズ・ウェイを驀進する久保新二を、なかみつせいじを以てしても終には御し得なかつたといふ辺りが、東風が物語の中で占めるべきウェイトが大きく削られることに影響を及ぼしてしまつてゐるのかも知れない。尤もそれは、一体誰が果たして、アクション映画に於いてスティーブン・セガールの好敵手たり得るのか、といふ議論にも似た趣さへなくはない。結局晴奈の成仏に際しても、実行を果たすのは作造であるし。要はなかみつせいじに主軸を置くならばそれが今作の難点で、逆から捉へれば、総体としての映画を壊してでも美味しいところを持つて行く、久保チンの勝利ともいへる。詰まるところは渡邊元嗣ならばまだしも、別に今時のメイド服が心の琴線に触れる訳でも特になからう深町章が、新東宝から持ち寄られた企画のまゝに撮つてみた結果、結局漫然と毎度の久保チン映画が出来上がつた、さういふ感が強い。いつそのこと、晴奈も東風も最早さて措き、久保チンの解き放たれんばかりの自由奔放な大暴れぷりを拍手喝采しながら眺めるといふのが、今作の最も正しい鑑賞法、とすらいへるのかも知れない。
映画の幕引き際、玉代が晴奈と冥土カフェを開店するまではいいとして、作造のエピソードは、あくまで主人公は東風ではないのかとするならば別に、といふかより積極的寄りに矢張り不要か。
蛇足に於いて顕著に発揮される作家性
であるのだとしたら、そんなものは犬にでも喰はせてしまへ。
ところで田中繭子とは、何回か引退と復帰を繰り返す何かとか無闇に忙しい佐々木麻由子の、改名した新しい芸名である。少なくともピンクでこの名義を使ふのは、今回が初となる。
因みに今作の公開は八月であるが、協力にクレジットされるメイドカフェみるふぃは、十月末をもつて閉店してしまつてゐる。
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