真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れやすい人妻 ド突かれる下半身」(1997『人妻の味 絶品下半身』の2007年旧作改題版/製作:シネマアーツ/提供:Xces Film/監督:中村和愛/原案:岩志歩美/脚本:五代暁子/企画:稲山悌二/プロデューサー:奥田幸一/撮影:小山田勝治/照明:津田道典/編集:酒井正次/写真:倉繁利/音楽:鳥井一広/助監督:西村和明/監督助手:石川二郎・佐々木直也/撮影助手:新井毅・木村信也/照明助手:倉橋靖/協力:シーズグループ・㈲ライトブレーン・大西裕/出演:羽鳥さやか・風間恭子・真央はじめ・青木こずえ・原美波・ジョージ川崎・樹かず)。
 “WELCOME TO THE NAKAMURA WAAI WORLD.”と大文字開巻、ラブホテルでの吉岡治子(羽鳥)と、児玉雄一郎(ジョージ川崎=リョウ=栗原良=相原涼二)の不倫の逢瀬。ルックス・演技力共に伴はぬ主演女優に、いきなり映画に暗雲が立ち込める。羽鳥さやかといふ人は、普通にしてゐれば多少以上に曲がりつつもそれなりに華のある顔立ちをしてゐるのだが、喘ぎ顔になるや途端に、何故か財津一郎にソックリになつてしまふといふ致命的な弱点を抱へてゐる。児玉と別れ、治子はトボトボ家路に着く。道すがらの自販機で、350mlの缶ビールを買ふ。ここで、仕方がないのでツッコんでおくが、どうしたらポカリスエットのベンダーで、キリンラガーが買へるのだ。中村和愛らしからぬ、粗雑な横着といへよう。待つ者も居ない暗い家に帰つた治子は、更に大量のビールを開ける。シーズグループ刊『月刊MAN-ZOKU』―あるいは『デラMAN』、ところで実際には、風俗情報誌である―雑誌編集者の治子はカメラマンの拓也(真央)と結婚したが、仕事人間の治子と家庭的な妻を求める拓也は折り合はず、拓也は治子も一緒に取材した、セクハラ被害者の神山祐子(風間、今日子ではなく恭子名義)の下へと走つてしまつてゐた。
 伊藤正治、北沢幸雄と並び当サイトが“沈黙するエクセスの宝石”と秘かに推す、中村和愛のデビュー作。丁寧な心理描写と、六十分のプログラム・ピクチャーを決して忽せにはしない至誠とが中村和愛といふ映画監督の肝である、と期待して小屋の敷居を跨いだものではあつたのだが、残念ながら、第一作といふ点も踏まへるとより一層に残念な出来栄えであつた。弱さを見せるのが下手な強くはない女と、女を捨て他所の女の所に転がり込むも、結局その女にも幻滅し妻とヨリを戻さうか、なんて調子のいい男との形式的にも内実的にも希薄なばかりのシティ・ドラマが、思ひのほか長く感じられる一時間を漫然と流れ去るばかりのルーズではないけれども凡作である。噴飯ものなのは、濡れ場での艶出、ならぬ演出に如実に表れてゐるのだが、演出のビートが終始抑へ気味である点。ただでさへ生煮えな脚本がより生温かく逆向きに加速されてしまふ以前に、ここは監督処女作である。カッコなどつけてゐる場合ではなからう、前のめりに自爆するくらゐの愚直を見せなくてどうする。アクセルの踏み込み加減を観客には感じさせないのが中村和愛の持ち味であるのかも知れないが、大いに頂けない。
 青木こずえと原美波は、正面から青木こずえが治子の左隣のデスクの稲村みかり。原美波は右隣の坂本エミ、因みに児玉は編集長。みかりも、児玉と不倫関係にある。リファインした泉由紀子に見える、原美波に濡れ場は設けられない。樹かずは、拓也と別れた半年後、治子がかつて拓也から求婚されたホテルに再び入る際のお相手・小橋晃一。この繰り返されるラスト・シーンの意味のなさも、殊更に理解に苦しむ。これだけ明確な主題もドラマ性もまるで感じさせない脚本に、敵は五代暁子とはいへ更に原案とは何事か。岩志歩美といふ人には、調べてみるとAVの監督作が数本出て来た。
 クライアントの急な倒産で祐子との新生活を断念した拓也が、柱を画面中央に挟んで治子と対峙する場面。あからさまに判り易い画面構図でそれはそれでいいのだが、偶さか夫婦が再びヨリを戻しかけた瞬間を、同じカットで画面が柱で分断されたまま撮つてしまつてゐるのも如何なものか。惜しんだ一手間で、釣り逃がした魚は予想以上に大きなものではなかつたか。

 結局物語は鮮やかに、あるいは呆れるほど一切何某の結実も果たさないままに、“Thank you for your having seen this Film.”、ではなく“完”と幕を閉ぢる。となると、第二作の「美人女将のナマ足 奥までしたたる」(1997/主演:須藤あゆみ)も“えんど”と締めてゐる為、“Thank you ~”といふ御馴染みのエンド・コメントが登場するのは第三作の「新任美術教師 恥づかしい授業」(1999/主演:小野美晴)から、といふことになる。
 2001年の第六作「三十路同窓会 ハメをはずせ!」以来沙汰のない中村和愛ではあるが、今はどうされてゐるのかと戯れに調べてみると、思ひも寄らぬところに足跡を発見。石原真理子の「ふぞろひな秘密」(2007)の助監督として、中村和愛の名前がある、一体何処で何をやつとられるのだ。


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