真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「欲しがる和服妻 くはへこむ」(2007/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:後藤大輔/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキヤビン/助監督:佐藤吏/監督助手:金沢勇大/撮影助手:関根悠太・村田千夏/照明助手:広瀬寛巳/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/出演:葉月螢・藍山みなみ・水原香菜恵・千葉尚之・川瀬陽太・牧村耕次)。
 昭和二十年・夏、「ふんはりと、あの人は空からやつて来た。鳥のやうに、蝶のやうに」。昨年夫を南部戦線で亡くした鏑木あや(葉月)は、山で山菜を採つてゐたところ重傷を負つた航空兵を発見する。帝国海軍鹿島基地所属の滝―瀧かも―勲(千葉)を、あやは自宅に連れ帰り手当てするが、勲は、練習機で軍を脱走した特攻隊員であつた。その事実を知りながらあやは勲を匿ふ一方、巡査(川瀬)を先頭とする脱走兵探査の網の目は、確実に鏑木家へも迫りつつあつた。
 今回は猟奇要素は抜きの、深町章十八番の昭和初期~戦中戦後モノ。藍山みなみは、鏑木家の女中・里子。最新型のカワイコちやんである藍山みなみは厳密には劇中世界の空気にはそぐはない、とはいへ。分け与へられた薩摩芋と引き換へに、好色な養鶏業者・蒲生(牧村)に体を易々と任せる濡れ場の、無心で芋を頬張りながら蒲生からは無性に突かれるシークエンスは、名匠清水正二の障壁物の使ひ方がダイナミックなカメラ・ワークと、獣の貪欲を感じさせる牧村耕次の熱演の力とを借り完成度は頗る高い。近年の、フィールドを選ばない牧村耕次の充実ぶりは極めて強力。頼もしい、限りである。
 純然たる濡れ場要員の水原香菜恵は、蒲生相手に作劇上の送りバントをキッチリ決める遊女・菊。この人の最終的な垢抜けなさは、自然に劇中世界にフィットする。葉月螢の和服の似合ひぶりに関しては、この期に論を俟つまい。ほかに巡査の部下と勲の山狩りに狩り出される村人役で、計六名登場。二度明確に抜かれる割に、あや亡夫の遺影が誰なのかサッパリ判らない。
 実は脚本自体は六十分の尺にすら心許ない程薄いものの、深町章の丹念かつ、いゝ意味で余裕をもたせた作劇により、充実した映画時間が流れて行く。捜索を辛くも、といふか結構余裕で逃れたのちの、締めのあやと勲のタップリ間ももたせた絡みで叙情は頂点に、達するところであつたのに。「ふんはりと、あの人は空からやつて来た。鳥のやうに、蝶のやうに」。再び繰り返される葉月螢のモノローグ、に続く後藤大輔の他愛なくすらない余計なもう一オチが、全てをブチ壊しにしてしまふ。蛇足といふ言葉さへ、最早生温い。映画の勘所の何たるかを弁へぬ、深町章でもなからう。邪魔は、バッサリと斬り捨てるべきであつた。“ふんはりと、あの人が空からやつて来る”シークエンス自体をキチンと押さへておいても欲しかつた点に関しては、バジェット上いつても詮無いノースリーブは初めから判つてゐることなので、大人しくさて措く。

 最後に、瑣末の極み。劇中時間を指し示す小道具のひとつに、四月十九日が水曜日の日めくりカレンダーが出て来る。少し気になつて調べてみると、昭和二十年の四月十九日は、木曜日であつた(笑。因みに四月十九日が水曜日なのは、直近だと2006年。今作、撮影時期は一体何時頃なのであらうか。
 更についでに、勲を人目につかぬやう匿ふため、あやは里子に暇を出す。里子が郷里へと向かふバスを待つカットは、道路の舗装が些か綺麗過ぎる。


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