真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫妻たちの週末」(2002/製作:杉の子プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/撮影:藤原千史/照明:吉田豊宏/編集:酒井正次/音楽:村田寿郎/助監督:小川隆史/撮影助手:長谷川卓也/ 照明助手:丸山和史/協力:女池充、他/出演:葉月螢・佐々木ユメカ・酒井あずさ・川瀬陽太・伊藤猛・深木勝・女池克弥・小川隆史)。出演者中、女池克弥は本篇クレジットのみで、他方小川隆史はポスターのみ。監督助手を拾ひ損ねる。
 河原に佇む斎藤宗雄(川瀬)は、父親が働いた不貞の相手方の旦那が、家に怒鳴り込んで来た幼少期の出来事を回想する。夜、床に就きながら書物を繙く宗雄を妨げ、妻・律子(葉月)の求めによる夜の営み。「抱つこ」、「うん」。抱くとそれでお仕舞といつた風情の宗雄に再び促し「チュー」、「うん」。更に促し「セックス」、「うん」。持つて回つたリズムで展開される濡れ場に、早速ジメジメとしたフラグが立つ。おかしいな、らしくないぜ。
 翌朝宗雄は、接待釣りと称して家を出る。宗雄が家を後にすると、律子は予め依頼してあつた探偵と連絡を取る。連絡を受けた川西探偵事務所所長・川西香織(酒井)は、部下の若い探偵(後述)に宗雄の尾行を指示。宗雄は山谷ルカ(佐々木)とW不倫の関係にあり、逢瀬の為に、安アパートの一室を借りてゐた。釣りを終へた宗雄が尾行にも気付かず先に部屋に入り一眠りしてゐたところ、ミルクのアイス・バー片手にルカが訪れる。アイス・バーを宗雄の口に突つ込み、ルカは尺八を吹き始める。すると宗雄は「口が冷たい」、「どつちが?」、「両方」。先に抱いた危惧が、半ば確信に変る。報告を受け宗雄の荷物の中から鍵を探し出した律子は、アパートを訪れてみる。部屋には、ビデオカメラがあつた。撮影された映像を律子が確認すると、部屋は元々、不倫の用に供する目的にではなく、宗雄が単なる休日の隠れ家として借りてゐた。偶々河原の風景にカメラを回す宗雄がその場に居合はせたルカに戯れにカメラを向け、気付かれたところから関係は始まつたものだつた。
 何故か、そこかしこの記載には竹本泰志と誤記されてゐる可哀相な深木勝は、川西探偵事務所の探偵・木田善郎。ホストにした、マンガ家のやくみつるのやうな顔をしてゐる、どんな面だ、主には酒井あずさの絡みの相手役を担当。伊藤猛はルカの夫・健一、伊藤猛?。
 ベテラン監督のルーチンワークと見紛ふ才気は欠片も感じられない作風ともいへ、あくまで個人的には奥底に穏当ながらも順当な映画的エモーションへの志向が看て取れる。といふのが、一ファンとしての杉浦昭嘉評ではある、のだが、今作は非常にらしくなく、頂けない。葉月螢はひとまづ措いておくにしても、佐々木ユメカ×川瀬陽太×伊藤猛。面子が揃つてゐると明示的なのか別に特にさうでもないのか微妙なところではありつつも、互ひの配偶者の不貞を期に奇妙に交錯する二組の夫婦の姿を、最短距離でいい加減に譬へると国映風味に面白可笑しく描、かうとした一作である。とはいへ、杉浦昭嘉といふ人にはソリッドといふ要素も映画の緊張度も凡そ皆無な為、一歩意図的に引いた、直線的な描写と展開とによつてではなく、いはば雰囲気で見せて行かうとする映画手法は、横好きあるいは余計な色気を出して採用したところで結実を果たすものではあるまい。妻の不貞を知り刃物を手にオフ・ビートに激昂する、伊藤猛が孕む狂気をまるで料理出来てゐない辺りに、杉浦昭嘉と今作の方法論との不釣合ひは最も判り易い形で表れてゐよう。初め一人秘密を握り、安アパートで自らの知らない夫のもうひとつの生活に触れてゐた律子は、やがて宗雄とルカの不倫に関する報告書を、山谷家の玄関新聞受けに投函する。最終的に対峙した二組の夫婦の問題は、呆れることに解決はおろか、一切処理すらされることもなく放置される。一応映画の締めは、といふか勿論実質的にはまるで締まつてゐないのだが、「何だか僕等は、ちよつと変な感じになつてしまつたけど」と、切り出される宗雄のモノローグに乗せられた律子と宗雄との夫婦生活。ああだかうだと同じ地点を行つたり来たりするばかりで、何処かへと着地する気など恐らくは初めからなからう宗雄の独白の果てに、エンド・マークは何と、恐ろしくも“?”。はてな?、ぢやねえよ!過てる方策に徒に漫然と転げ流れた映画は、最終的に度し難い不誠実を垂れ流す。映画を観てゐて、久し振りに本域で腹が立つた。村田寿郎の手によるものと併用される何時もの杉浦サウンドも、単にツボを外しただけでそこから何物へもの成就を果たした訳では全くない変格的で、挙句に不誠実な映画にあつてはまるで機能不全。アンニュイな色香を轟かせる酒井あずさの他には、一切取りつく島も見当たらない純然たる腹立たしい失敗作である。

 枝葉ではあるが、最後に未整理のまま残されてしまふのは。出演者中本篇クレジットにのみ名前の載る女池克弥と、逆にポスターにのみの小川隆史。一応、僅かとはいへ2カットそこそこの出番がある残る登場人物は、冒頭香織からの指示を受け、釣りに出かける宗雄の尾行を始める、若い探偵の松田クン。探偵だから松田なのか、さて措き。基本、ポスターと本篇クレジットとで齟齬が見られる場合本篇クレジットの方が当てになることが多いので、といふかピンクのポスターは堂々と当てにならないことがままあるので、松田クン役がさうなると女池充の徒な別名義(?)の女池克弥なのか。それとも、冒頭の回想と後にもう一度、宗雄に在りし日の自分の姿を想起させる風景の一部として、一人の男の子が出て来る。となると松田クンは小川隆史で、女池充の息子なり甥つ子かの女池克弥がその男児、といふ可能性もあり得る。
 と、一旦アップしたところで、それならばと女池充を画像検索してみたところ、松田クンが、矢張り女池充であつた。となると、断言し得るが小川隆史は劇中には登場しない、勿論竹本泰志も。
 ところで葉月螢の右膝裏に、あんな大きな黒子なんてあつたかな?


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