弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

日経記事「特許の侵害訴訟の件数が減っている」

2009-01-12 22:47:03 | 知的財産権
日経新聞1月12日「法務インサイド」の記事です。
「特許紛争 司法・特許庁2本立てのゆがみ 『泥沼裁判』嫌う企業多く 制度変更で侵害訴訟減」
「特許の侵害訴訟の件数が減っている。事業の生命線ともいえる発明や技術が侵害されても、『裁判での紛争解決は割に合わない』という企業の声なき声の表れとの指摘もある。政府が『知財立国』推進を宣言してから七年が経過しようとしている。迅速な訴訟の裏で、権利侵害の救済がうまく機能していないとしたら、知財立国の実現にはまだ課題山積といえるだろう。」(法務報道部 瀬川奈都子)

いろいろの論点が語られています。
まずは、「生海苔異物除去装置事件」の顛末が、松本直樹弁護士(特許権者の訴訟代理人)によって語られます。
この事件、侵害訴訟で「侵害」と確定していました。侵害訴訟の被告は、侵害訴訟の前も後も、次から次へと無効審判を請求します。私のカウントでは7回目(記事では4回目)の無効審判で、審判では「権利有効」と審決されたのに対し、知財高裁の審決取消訴訟で「進歩性なし権利無効」と審決が取り消され、判決が確定し、再度の審判で請求項1が無効となりました。その後8回目の無効審判が起こされて請求項2についても無効になり、確定していました。
すると侵害訴訟の被告は、確定した侵害判決に対して再審を請求したというのです。知財高裁において再審が認められ、以前確定した「侵害」判決が取り消されました。
記事によると、原告(特許権者)は最高裁に上告受理申し立て中とのことです。

記事の論評では、「04年の特許法改正により、侵害訴訟と特許庁無効審判の2本立てで無効を主張できるようになったので、被告側に有利」としています。

「特許権関係の民事訴訟件数は地裁レベルで減少傾向にあり、07年は156件と、3年前より3割も落ち込んだ。・・・『特許権者が特許が無効になることを恐れて訴訟を敬遠している例も少なくない』と特許訴訟に詳しい尾崎英男弁護士は背景を分析する。」

侵害訴訟で特許無効の抗弁が認められる場合についても言及します。
「訴訟での権利者敗訴率は常に8割程度と高いうえ、敗訴した場合に特許が無効になる割合もここ2-3年で、従来の3割程度から6割以上に増えている。」

異議申立制度が廃止になったことも、侵害訴訟で無効になる確率が高くなた要因である、という点も挙げています。
政府の知的財産戦略本部は08年11月の専門委員会で、異議申立制度の必要性について改めて検討を行う方針を打ち出しているそうです。

知財高裁の飯村敏明判事の意見が掲載されています。
「特許権者と第三者の利益のバランスを図って、公平なものにするには、特許庁と裁判所のダブルトラックによる紛争解決制度を見直すべきだ。例えば、①無効審決の効力は、既に確定した特許権侵害訴訟の被告には及ばないようにする②一定の期間後の無効審判請求を制限する-などの制度変更が考えられる。紛争を1回の手続で解決し、いたずらに繰り返される無効審判で特許権者を疲弊しないようにすることが必要だ」
---以上---

記事の中で、「特許の進歩性の判断基準が厳しくなった」という点が何回か語られています。平成一桁時代は特許庁の進歩性の基準が甘すぎたので、この頃に成立した特許が侵害裁判で無効と判定される場合があり得ることはやむを得ません。問題は、現在が必要以上に厳しくなりすぎているか否か、ですが、その点については私もよくわかりません。

最近の侵害裁判の傾向について、産業界がどのような評価をしているのか、という点に関しては記事に載っていませんでした。

冒頭の「生海苔異物除去装置事件」については、また別の機会に取り上げます。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする