弁理士の日々

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生海苔異物除去装置事件の全経緯

2009-01-18 15:47:39 | 知的財産権
先日、日経新聞記事の紹介として述べた中に、生海苔異物除去装置特許に関する差止請求を容認する確定判決が、再審(知財高裁)によって取り消された(最高裁に上告受理申立て中)という事件について紹介しました。

生海苔異物除去装置特許に関連する事件がどのように推移したのか、一度整理してみることにします。

「生海苔異物除去装置事件」というと、「侵害裁判において均等が認められた事件」として有名です(地裁判決高裁判決、いずれも裁判所ホームページ)。
判決では、「被告製品の構成は、本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成要件B「この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし」のうち、「環状枠板部の内周縁内に第一回転板を」「クリアランスを介して内嵌めし」という構成と異なっているが、被告製品は、本件特許発明と均等と認められる」と判断し、原告による差止請求を認容しました。
原告は特許権者である親和製作所、被告はフルタ電機です。地裁の裁判長は有名な三村量一裁判長です。

「生海苔異物除去装置」特許は特許2662538号として、親和製作所を特許権者として成立していました。
この特許に対する無効審判は、合計で7件も請求されています。そのうち、フルタ電機を請求人とする審判が4件、渡邊機開工業を請求人とする審判が3件です。
フルタ電機が請求した最初の2件と、渡邊機開が請求した最初の1件は「請求棄却」で確定し、渡邊機械が請求した後の2件は取り下げられました。
フルタ電機が請求した3件目の無効2003-035247審判(請求項1に対する)において、審決では請求棄却審決(特許は有効)がなされたのですが、知財高裁での審決取消訴訟(H16(行ケ)00214)で請求容認・審決取消(特許は無効)とされました(佐藤久夫裁判長)。特許権者は上告せずにこの判決は確定し、再度の審決で特許を取り消す審決が出されます。今度は特許権者が審決取消訴訟(H17(行ヶ)10530を提起しますが請求棄却(佐藤久夫裁判長)、上告も退けられて、請求項1の無効が確定しました。これら一連の無効審判事件について、このブログでは、06.4.1706.4.19に論評しました。
さらにフルタ電機は4件目の無効2005-080132審判(請求項2に対する)を請求し、審決・審決取消訴訟(H18(行ヶ)10392)(飯村敏明裁判長)ともに請求項2を無効と判断し、上告も退けられました。このブログでは07.4.22に話題にしています。

こうして、対象特許の請求項1、請求項2がともに無効確定したことを受け、上記差止請求を認めた侵害事件の確定判決に対し、再審が請求されました。再審事件の知財高裁判決(田中信義裁判長)において、差止請求を認めた確定判決を取り消す判決を下します。再審原告による無効審決が確定した旨の主張は権利消滅の抗弁であり、この抗弁を制限すべき理由もないので、原判決は取消を免れない、というものです。

この再審判決の結論自体は、無効審決が確定した以上は妥当だというべきでしょう。

再審判決を読むと、特許権者である親和製作所と侵害被告であるフルタ電機との間の争いのいきさつが見えてきます。
親和製作所は、フルタ電機に対して上記差止請求訴訟を起こしたのとは別に、損害賠償請求訴訟(東京地裁H13(ワ)14954)も起こしていました。地裁判決では4億2109万円の損害賠償をすべきとの判決が下っています。
これに対して被告は知財高裁に控訴していましたが、高裁で訴訟上の和解が成立していました。和解において、フルタ電機が親和製作所に和解金として2億9627万円を支払うとともに、仮に将来本件特許について無効審決が確定した場合でも、和解金を返還する義務がないことを確認する条項が合意されていました。ただし、和解の中では侵害行為の差止め等に関しては何らの合意も成立していませんでした。

以上が今までの顛末です。
再審の判決がこのままで確定すれば、差止請求についての確定判決が取り消されるとともに再審被告による本案請求棄却が確定するので、フルタ電機は自由に本件発明を実施することができるようになります。もともとこの特許権は出願から20年の2014年11月に期間満了で消滅するはずでしたから、これより数年早く、実施が可能になるということです。

損害賠償金に代わる和解金については、返還義務がないことが合意されているのでこのままです。
フルタ電機の実施が差し止められたことに起因してフルタ電機が被った損害について、損害賠償を請求するかどうか、そしてその請求が成立するか否かはこれからの問題です。通常の判断に従えば請求は成立しないでしょう。

私としては、本件特許の請求項1、請求項2を無効とした判決に納得できないところがあるので、今回の顛末は残念だと思っています。以前書いたとおり(06.4.1706.4.1907.4.22)ではあるのですが、このあと再度蒸し返そうと思っています。
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