大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年05月08日 | 植物

<2321> 大和の花 (503) イヌザクラ (犬桜)                                   バラ科 サクラ属

           

 日当たりのよい谷間などに生える落葉高木で、高さは10メートルから15メートル。ときに20メートルに及ぶものも見られる。樹皮は灰白色で、やや光沢があり、横に長い淡褐色の皮目が入る。新枝は灰白色。葉は長さが5センチから10センチの長楕円形で、先は尾状に尖り、基部はくさび形。縁は波打ち浅い鋸歯が見られる。質は洋紙質で、普通、両面とも無毛。長さが1センチ強の柄を有し、互生する。

 花期は4月末から5月ごろで、葉の展開後に開花する。前年枝の節から長さが10センチ前後の総状花序を出し、白い花を多数つける。花は直径6ミリ前後で、倒卵形の花弁が5個、雄しべは普通10数個つき、花弁より長い。よく似る同属のウワミズザクラ(上溝桜)やショウリザクラが花序の軸木に葉がつくのに対し、イヌザクラではつかないので判別出来る。実は小さな卵円形の核果で、8月から9月ごろ黄赤色から黒紫色に熟す。

 イヌザクラ(犬桜)の名は、犬が差別語として用いられている例で、犬侍と同様、役に立たたず、つまらないサクラという意。本州、四国、九州に分布し、済州島にも見られるという。大和(奈良県)では北部と南部地域に多く、中部地域に少ない傾向にあるという報告がある。花が咲いてもウワミズザクラのようなボリュウムはなく、地味である。写真はイヌザクラの花(いずれも高取町の芋峠)。   天空は自由空間蝶二つ

<2322> 大和の花 (504) ウワミズザクラ (上溝桜)                                   バラ科 サクラ属

                        

  日当たりのよい谷筋などに生える落葉高木で、高さは15メートルから20メートルほどになる。樹皮は暗紫褐色で、樹皮を傷つけると桜餅に似たクマリンの香りがする。新枝は褐色から赤褐色。葉は長さが10センチ前後の卵形から卵状長楕円形まで変化が見られ、先は尾状に尖り、基部はほぼ円形で、縁には細かく鋭い鋸歯がある。葉柄は長さが約1センチで、互生する。

  花期は4月から5月ごろで、葉の展開した後、新枝の先に長さが8センチから15センチの総状花序を伸ばし、白い花を多数つける。花は直径6ミリほどで、花弁は5個。雄しべは約30個とイヌザクラの倍近くあり、花弁より長く突き出てボリュウムがあり、花序全体ではビンを洗うブラシのように見える。また、花序の軸木に葉がつくので、つかない特徴のイヌザクラとの判別点になる。実は小さな卵形の核果で、夏から秋にかけて黄赤色から黒色に熟す。

  北海道(石狩平野以南)、本州、四国、九州(熊本県まで)に分布し、中国にも見られるという。大和(奈良県)ではイヌザクラより多く、全域的に見られ、花が咲くとよく目につく。ウワミズザクラ(上溝桜)の名は、上溝桜(うわみぞざくら)または占溝桜(うらみぞざくら)の転嫁とされ、これは『古事記』の天の岩屋戸の条に「天の香山の真男鹿の肩を内抜きに抜きて、天の香山の朱桜(ははか)を取りて、占合ひまかなはしめて、云々」とあり、この記事の朱桜(ははか)とウワミズザクラ(上溝桜)をイコールと見たことによる。実は未熟にして採取し、塩漬けにして食べる地方もあるという。

  写真はウワミズザクラ。左から枝木いっぱいに花を咲かせた成木。花序のアップ(花序の枝に葉がついている)。黄赤色の実(完熟すれば黒色になる)。 葉桜の影を頼みて乳母車