大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年11月27日 | 植物

<1794> 余聞・余話 「植物の分類について (6・勉強ノートより)」

      生きものは生きるに工夫と精進が欠かせぬ例へば花に来る蝶

 植物は葉緑素を有し、これによって光合成を行ない、有機栄養物を得て生きてゆくのが基本な仕組みであるが、すべての植物がこれに該当するわけではなく、例外がある。その例外に当たる生活方法による区分が植物の世界には見られる。寄生植物、腐生植物、食虫植物、共生植物などがこれに当たる。

         

 寄生植物(他の生きた植物の組織から有機栄養物を吸収する植物で、養分を吸収される側の植物は宿主植物と言われる。寄生植物は主に被子植物に見られ、二次的に特殊化したものと考えられる。寄生植物には芽生えのとき以外は葉緑素を持たず、全部の有機栄養物を宿主植物に頼る全寄生植物と葉緑素を有し、光合成を行ないながら宿主植物からも有機栄養物をもらう半寄生植物とがある。

  全寄生植物――――――――――ミヤマツチトリモチ、ナンバンギセル、ハマウツボ、ヤマウツボ、ネナシカズラ、マメダオシ

  半寄生植物――――――――――ヤドリギ、マツグミ、ヒキヨモギ、シオガマギク、ママコナ、ツクバネ

 腐生植物(生物の遺体または分解物から根に共生する菌根菌を通して有機栄養物を吸収し、生きて行く植物で、被子植物に限られ、二次的に特殊化したものと考えられる)――----―ギンリョウソウ、ホンゴウソウ、ヒナノシャクジョウ、オニノヤガラ、ツチアケビ、ムヨウラン、ショウキラン

 食虫植物(捕虫葉と呼ばれる変形した葉によって昆虫などの小動物を捕え、消化吸収し、有機栄養の一助にする植物で、水中、沼沢、湿原などの栄養物が少ないところに生育し、不足する窒素、リン酸、カリウムなどを虫体から補い、炭素栄養はもっぱら光合成によって得る)――---------------------------------------―モウセンゴケ類、タヌキモ類、ミミカキグサ類

 なお、捕虫の仕方にはいろいろとあり、ムジナモのような「閉じ込め型」、モウセンゴケのような「粘着型」、タヌキモのような捕虫嚢による「吸い込み型」、ウツボカズラのような「落とし穴型」などの捕虫葉がある。

  共生植物(異なる生物同士が生活を共にし、互いに生活上の不利益を被らない減少を共生と言い、植物でこうした関係性を有するものを共生植物という。こういう共生では共に利を得る場合は相利共生と言い、一方のみが利益を得る場合は片利共生と言う。菌根植物やアリとの共生が知られる。 写真は左から全寄生植物のナンバンギセル、半寄生植物のヤドリギ、腐生植物のギンリョウソウ、食虫植物のモウセンゴケ。

 


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2016年10月08日 | 植物

<1744> 大和で見かける紛らわしいアザミについて        

 四季に関わらず冬でも山野を歩いていると、どこかでアザミに出会う。花の時期はもちろんのこと、立枯れたり、根際の葉だけだったりしてもアザミ特有の棘の葉によってそれとわかる。そういう意味で言えば、アザミは特異な草花と言える。その特性からして、『万葉集』に登場しないのが不思議なほどである。棘を有する植物はほかにも見られ、木本ではイバラ(茨)の仲間がよく知られるが、棘の効用はアザミにしてもイバラにしてもこれは自身の防衛のためと考えられる。触れると棘が刺さって痛いから、動物にすれば近寄り難く、棘を有する側には食害から身を守ることが出来る。言わば、棘はアザミにとってもイバラにとっても生きるうえに必要な部位ということになる。

 スコットランドではアザミを国花にして大切に扱っているが、この国花にもアザミの棘が関わっている。その昔、隣国のデンマークと戦火を交えていたとき、城の近くに忍び込んだ斥候がアザミの棘に刺さって倒れ、捕まえることが出来た。スコットランドはこの斥候から敵の情報を聞き出し、戦争に勝つことが出来た。このためアザミは救国の花としてスコットランド国民から敬愛されるようになり、国花に選ばれた。

       

  つまり、これはアザミの棘の効用を言うものにほかならない。しかし、この棘も若葉のときは軟らかく、シカの食害に遭うという。亜高山に見られる落葉低木のハリブキ(針蕗)は大きな葉や葉柄に鋭い棘を有し、成長するとこの棘によって自分を守ることが出来る。しかし、若葉の開出時においてはまだ棘も軟らかく、シカの食害に遭う。これは自然(神)が生きもの全体のバランスのために個々の生きものに完璧を与えていないことを示すものと言ってよい。これが生きものの姿であり、生きものたちの世界に通底する厳しい様相と言ってよい。要は完璧でないところで生きものは生きている。私たち人間もこの点何ら違うところはない。

  棘から話が自然論の方へ逸れたが、スコットランドのアザミは棘の多いヒレアザミ(鰭薊)ではないかと言われている。もちろん、単にアザミと言えば、固有種に限定するものではなく、そこには総称の認識がある。単にアザミと言ってもいろんなアザミがあるわけで、判別は極めて難しく、間違いやすいところとなる。これがアザミの世界であるが、キク科アザミ属のアザミには紛れもなく棘があって、この棘をもってアザミは認識されるところがある。どのアザミであるかはさて置き、山野を歩いていてアザミと認識されるのはこのアザミ特有の棘による。

 これまで大和(奈良県)に野生するキク科アザミ属の8種のアザミを取り上げて紹介して来たが、これは私に確信が持てる範囲におけるもので、ほかにも別種か、変種か判別し難いアザミがあって、写真に収めて来たには来たのであるが、私のライブラリーには説明のつかないものが幾つかあるという状況になっている。という次第で、その写真をここに掲載したいと思いピックアップしてみた。

  思うに、同じ種であっても生える場所の環境によって変異が見られるということもある。その変異の出やすいのがアザミで、これは判別に一層の混乱を招く結果に繋がっている。日本国内に野生するアザミは約100種に上ると言われる。この多さは何を示しているかと言えば、地方(地域)によって変異が多く見られることを言っている。地域イコール環境ということを考えると、アザミは環境に敏感な草花に属する。

 写真左はスズカアザミと思われるが、はっきりしない(曽爾高原の尾根筋で)。次の写真は冬にも花を咲かせるアザミ。多分、ノアザミであろう。トゲアザミに近い仲間かも知れない(明日香村の棚田の畦で)。左から3番目の写真はヒメアザミとも思えるが、はっきりしない(大峰山脈の標高約1850メートルの弥山山頂広場で)。右端の写真はギョウジャアザミの変種か、もしくは雑種か。アサギマダラが来ていた(大台ヶ原ドライブウエイの標高1450メートル付近で)。

   それぞれに咲きゐる花はみな時の旅をしてゐる証の姿


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年09月30日 | 植物

<1736> 大和の花 (49) ノアザミ (野薊)                  キク科 アザミ属

               

  アザミはキク科アザミ属の多年草の総称で、北半球に250種以上、日本には約100種が高山から海岸域まで広い範囲に分布していると言われる。葉は大形で羽状に裂けるものが普通で、筒状花が多数集まった花は其部の総苞と合せて見ると牡丹刷毛のような感じに見えるところがある。概ね葉や総苞に棘を有するのが特徴で、アザミの名の由来には諸説あるが、「アザ」を棘の意とみるなど、棘に由来する説がほとんどである。アザミには地域的変異が見られ、今後も新しい品種のアザミが見つかる可能性が高いと言われる。

  このアザミの一つにノアザミがある。山野に生える高さが1メートルほどになるアザミで、本州、四国、九州に分布し、アザミの中ではもっともポピュラーな馴染みのアザミとして知られ、アジア一帯に多くの変種が見られるという。花は5、6月の田植え前後の時期に最もよく見られるが、秋、冬にも咲く個体があり、一年を通してどこかで見ることが出来る。花は紅紫色であるが、ときに白い花も見かける。花の其部の総苞は球形で、総苞片から粘液を出し粘着するのが特徴としてある。アザミは典型的な虫媒花で、ノアザミにはチョウやハチの類がよく訪れる。『万葉集』に登場しないのは不思議である。

  なお、アザミには夏から秋にかけて咲くものが多いが、アザミの季語は春で、これはノアザミに合せたものと思われる。 写真は左からスイバ(酸葉・酸模)などとともに棚田の畦に紅紫色の花を咲かせるノアザミ。黄色いチョウが蜜を吸いに来たノアザミの頭花。白い頭花のノアザミ。雪を被った冬のノアザミ(四国の高山に見られるトゲアザミのようなタイプか)。右端は風に吹かれて飛び立つノアザミの冠毛。中央に種子がついている。     渡り行く風がはじめにありしなり風の行方に夢は開かる

<1737> 大和の花 (50) ヨシノアザミ (吉野薊)                                            キク科 アザミ属

          

  中部地方以北に分布するナンブアザミ(南部薊)の変種で、日本の固有種として知られ、近畿から中国、四国にかけて分布する。その名にある「ヨシノ(吉野)」は地名に因むものではなく、このアザミを発見した植物学者吉野善介に因んでつけられたもの。ノアザミが平野部に多いのに対しヨシノアザミは山間地や山地に見られ、大和(奈良県)ではノアザミに次いで多く見かけるアザミである。

  高さは大きいもので人の背丈ほどになり、羽状に裂ける葉はときに白斑が入る。花は少し小振りで紅紫。生える場所によって濃淡が見られる。花の基部の総苞は鐘形に近く、ときに粘着する。総苞片の棘は母種のナンブアザミに比べかなり短いのが特徴であるが、アザミには変異が多く、ヨシノアザミも総苞片の棘に長短の変異が見られ、四国で見られる棘の長いタイプはシコクアザミと呼ばれているようである。とにかく、ヨシノアザミは大和地方の山地に多く、花は秋に見られる。 写真はヨシノアザミとその花のアップ。右端の写真は総苞片の棘が長く少し反り返ったシコクアザミタイプのヨシノアザミと見た(いずれも紀伊山地)。

  あざみ咲き蝶は花へと舞ひ来たりキスするごとく触れにけるかも

 

<1738> 大和の花 (51) キセルアザミ (煙管薊)                                     キク科 アザミ属

                                  

  湿地に生える高さが1メートルほどになるアザミで、50センチにもなる根生葉がロゼット状につき、花どきにも残る。茎葉は小さくまばらにつき、頭花は茎の先端に点頭して斜め下向きに咲く。花が終わると花は自力で上向きになり、種子をつけた冠毛が風に吹かれて飛びやすくする習性がある。キセルアザミの名はこの茎と花の姿から煙管を連想したことによる。別名はマアザミ(真薊)。

  本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和地方でもよく見かける。湿地に生え、8月の末ごろから咲き始め、茎が首を曲げて花を下向きに咲かせる特徴と花の基部にサワアザミのような大きな苞葉がない条件に照らせば、一見してキセルアザミとわかる。 写真は花を下向きに咲かせるキセルアザミ(左)、キセルアザミの花にぶら下がるキチョウ(中)、咲き終わって上向きになった花から旅立ちをする種子をつけた冠毛(右)。  真薊の花咲く湿地にぎはへり 蝶に蜻蛉に蜂なども見え

<1739> 大和の花 (52) ギョウジャアザミ (行者薊)                                        キク科 アザミ属

                                                    

  紀伊半島と四国に分布を限るナンブアザミ(南部薊)系の日本固有のアザミで、高さは80センチ前後、長楕円形の葉は尾状に細長く伸びて羽状に深く裂け、鋭い棘がある。花期は8月から10月ごろで、淡紅紫色の小さな花を点頭気味につける。花の基部の総苞は狭筒形で、クモ毛があり、指で触ると粘着するのがわかる。総苞片には棘があるが長短さまざまで変異がうかがえる。

  その名に「ギョウジャ(行者)」とあるのは、修験者が行に籠るような深山、殊に大峯奥駈道が通る山岳の一帯に生えることから修験の行者に因むと言えようか。ほかにも、名に「ギョウジャ(行者)」と見えるものにはユリ科ネギ属のギョウジャニンニク(行者大蒜)がある。こちらも深山に生える多年草で、その名は行者が食用にしたことによると言われる。 写真は左から小振りな花を咲かせるギョウジャアザミと花のアップ、枯れたギョウジャアザミの花(いずれも紀伊山地の標高1500メートル以上の高所林縁で)。        草木には草木の命 それぞれにある身のそして我が身の命

<1740> 大和の花 (53 ) ヒッツキアザミ (引っ付き薊)                                 キク科 アザミ属

                                          

  このアザミは近畿から中国地方にかけて分布する日本固有の珍しい薊で、山地の林縁や草地に生える。高さは大きいもので大人の背丈ほどになる。葉は長楕円形で羽状に裂け、棘がある。紅紫色の花は秋に咲き、穂状に固まってひっつくように開くのでこの名がある。花の基部の総苞は筒形で総苞片の棘は長めである。 2016年の奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』改定版は希少種にあげ、「確かな産地は曽爾高原だけである。大峰山脈の日本岳にも記録があるが、現状はわからない。個体数は少ない」と説明している。登山道の700から800メートル付近の道沿いに見られ、一時は増えていたが、最近、すっかりなくなり、絶滅寸前の観がある。

  これは曽爾高原がススキの名所で、大きくなるヒッツキアザミが邪魔な存在になり、処分されたと考えられる。思うに曽爾高原の現状は植生の多様性を求めるところになく、ススキオンリーの純血主義的合理主義によるところがうかがえる。この傾向は草原のほかの植生にも影響しているように思われる。 高原ではススキが第一に変わりはないが、草原はススキのみではなく、多様な植生をもって魅力ある場所になっている。この点における考察が曽爾高原のこれからには必要であると、ヒッツキアザミの状況からは思われる。 写真はススキとともに花を咲かせるヒッツキアザミとひっつくように固まって咲く花(曽爾高原で、2008年撮影)。

  秋にして秋はあるなり草木の一つ一つの姿にも見え

 

<1741> 大和の花 (54) ヒメアザミ (姫薊)                                                    キク科 アザミ属

                                                       

  本州の近畿以西、四国、九州に分布する日本固有のアザミで、山地の草地に生える。直立する茎は高いもので2メートルほどになるが、華奢なやさしい感じに見えるのでヒメ(姫)の名がある。上部でよく枝を分け、葉は長楕円状披針形の細身で、茎を抱く。花期は8月から10月ごろで、その茎や枝先などに紅紫色の花を点頭させる。花の基部の総苞は狭筒形で、総苞片には短い棘があり、クモ毛によって粘着する。総苞の付け根のところに細い苞葉があるのも特徴のアザミである。

  このアザミも奥宇陀の曽爾高原で見られるが、ヒッツキアザミ(引っ付き薊)とは生える場所を異にし、こちらはノアザミ(野薊)と同様ススキの群落に混じって生えていることが多く、花の姿は群生するススキのアンサンブルをともなって立つ感じがある。 写真は群生するススキに混じってすらりと立つヒメアザミと紅紫色の花。花のすぐ下に細い苞葉が見える。

    似て非なる花は非なれどみな同じ役目を負ひて咲きゐたるなり

 

<1742> 大和の花 (55) ニセツクシアザミ (偽筑紫薊)                                    キク科 アザミ属

           

  2006年、四国で発見された新種のアザミで、九州の山地に分布しているツクシアザミ(筑紫薊)に似るところからニセツクシアザミ(偽筑紫薊)と名づけられ発表された。この発表によって、以前、大和(奈良県)においても大台ヶ原の西大台で同じアザミが発見されていたことに気づいた。大台ヶ原のニセツクシアザミはこのような経緯によって知られるところとなった。現在では四国の山岳と奈良県の大台ヶ原に産し、大台ヶ原が北限と認識されている日本固有のアザミである。

  高さは1.5メートルほどになり、茎の下部に葉身50センチほどの楕円形の葉をつけ、しばしば群落をつくる。葉は深く裂け、鋭い棘が見られる。茎上部の葉は小さくなるが鋭い棘が生えている。花期は9月から10月ごろで、紅紫色から淡紅紫色の頭花を点頭気味につける。花の基部の総苞は筒状鐘形で、総苞片は長く伸び出し反り返ってつぼみを保護するように囲む特徴がある。

  大台ヶ原ドライブウエイの標高1500メートル付近でも見られ、一時、シカの食害などで減少が見られ、奈良県のレッドリストの絶滅寸前種にあげられていたが、シカの駆除等の効果によるものか、最近、増え、ドライブウエイ沿いでは株を張った群落も見られるほどになり、絶滅危惧種になった。なお、大台ヶ原は北限として注目種。また、奈良県の特定希少野生動植物にもあげられている 写真は大きな葉を密につけ、花を咲かせるニセツクシアザミと長く伸び出した総苞片に包まれるように見えるつぼみ。右は花(いずれも大台ヶ原ドライブウエイの道沿いで)。     知ることは思ひを開くたとふれば昨日出会ひし花のくれなゐ

1743> 大和の花 (56) アメリカオニアザミ (亜米利加鬼薊)                       キク科 アザミ属

                    

  ヨーロッパ原産の1、2年草で、帰化していた北アメリカから種子が穀物や牧草に混じって運ばれ来たったようで、最初、北海道に現れた。旺盛な繁殖力により今では全国的に広まり、大和(奈良県)でも道端などで見かけるようになった。その名にオニ(鬼)とあるように、全体に鋭く硬い棘があり、危険な外来種として国が定めた外来生物法による要注意外来生物に含まれるとして駆除が呼びかけられている。

  高さは1.5メートルほどになり、上部で枝を分け、長楕円形で羽状に裂ける葉をつけている。花期は夏から秋で、茎頂や枝先に紅紫色の頭花を点頭させる。茎は翼状になり、この茎にも葉にも花の総苞にもびっしりと鋭い棘が密生し、これが危険視され、法に照らされた次第である。舗装された道路でも少し土が見えるようなところには生え出し、群生する強さがうかがえる。言わば、嫌われものの典型のようなアザミで、見つけ次第処分される運命にある。 写真は歩道わきで群生するアメリカオニアザミとその花のアップ(奈良盆地の平野部で)。   寄る辺なき身の悲しさを思はしむ惨惨アメリカオニアザミの惨

 

 

 

 

 


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2016年09月13日 | 植物

<1719> 大和の花 (36) リュウノウギク (竜脳菊)                                            キク科 キク属

                                                                        

 秋の山野、海岸などを彩る野菊の風情は四季の国日本の草花を代表する眺めであるが、野菊には大きく三つに分けられる。観賞用に育てられているイエギク(家菊)の系統に当たるキク属の仲間、シオン(紫苑)やヨメナ(嫁菜)のようなシオン属に含まれる仲間、それにハマギク(浜菊)やミコシギク(神輿菊)などその他の属に当てはまる野菊がある。この中で大和地方における代表的で一般によく知られる野菊はキク属とシオン属のキクで、花は舌状花と筒状花からなり、みな雰囲気がよく似ている。キク属とシオン属では葉の形が異なる。キク属は大方が葉に大きな切れ込みがあるのに対し、シオン属は鋸歯があっても切れ込みがないか、あっても浅い特徴が見られ、判別出来る。

                      *                       *

  ではまず、キク属の中からキク節のリュウノウギク(竜脳菊)を紹介したいと思う。リュウノウギクは茎や葉にリュウノウ(竜脳)のような芳香があるのでこの名がつけられたと言われる多年草で、葉をちぎって嗅いでみるとわかる。本州の福島県以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、日当たりのよい林縁や崖地のようなところに生え、大和(奈良県)でもよく見かける。高さは大きいもので80センチほどになるが、倒れ伏すように枝を分け花を咲かせるものが多い。葉は卵形乃至広卵形で、おもに三中裂し、裏面は軟毛が密生して白っぽく見える。10月から11月ごろ分けた枝の先に黄色い筒状花の周りを白い舌状花が取り囲む頭花を群がり咲かせる。

 今、一般に出回っている観賞用のイエギクは中国から伝来したキクの原種にリュウノウギクを交配させたものと一説にある。とすれば、リュウノウギクの実績は大きいということになる。また、リュウノウギクはその花や芳香だけでなく、乾燥したものを風呂に入れて用いれば、冷え症、リュウマチ、神経痛などに効能があるとされる薬用植物としても知られる。なお、リュウノウは熱帯アジアに産するリュウノウジュ(竜脳樹)から採った白色の結晶で、クスノキのショウノウ(樟脳)に似て、香料や防虫剤に用いられて来た。

  菊の香や仏に見ゆる奈良大和

 

<1720> 大和の花 (37) アワコガネギク (泡黄金菊)                                      キク科 キク属

                                         

  大和(奈良県)ではこのアワコガネギクも代表的なキク属キク節の野菊である。日当たりのよい山足の斜面などに生える多年草で、本州では東北地方(岩手県)から近畿地方までと四国、九州の一部に分布し、国外では中国東北部、朝鮮半島に見られるという。大和(奈良県)では金剛山の麓に当たる五條市の山足でよく見かける。高さは1.5メートルほどになるが、茎葉がしなやかで倒れるように花を咲かせるものが多く、その黄一色の花はよく似るシマカンギク(島寒菊)よりも一回り小さく、集まり咲く姿に泡の印象があるのでこの名が生まれたという。

  江戸時代に長崎で油漬けにして切り傷ややけどなどの外傷に用いられていたシマカンギクと混同され、アワコガネギクも油漬けしてシマカンギクと同じくアブラギク(油菊)の名で薬用野菊として広まるに至った。また、京都市北山の自生地菊渓に因み、キクタニギク(菊渓菊)とも呼ばれて来た。花期は10月から11月ごろであるが、年が明けてもなお花を咲かせているものが見られ、年間で言えば、最も早く、最も遅い野生の花と言えるところがある。大和(奈良県)では減少傾向にあり、レッドリストの希少種

 写真は群がって咲く黄色い花が辺りを明るく彩るアワコガネギク(五條市久留野町で)と花のアップ(スジボソヤマキチョウが来て細く長い管の口を入れていた。御杖村で)。 野菊咲く古道ゆかしき大和かな

<1721> 大和の花 (38) シマカンギク (島寒菊)                                                  キク科  キク属

                   

  アワコガネギクとよく似るシマカンギク(島寒菊)は高さが80センチほど、黄色い花は直径2.5センチほどで、アワコガネギクの約1.5センチよりも大きく、一つ一つの花がしっかりして見えるキク節の多年草である。だが、アワコガネギクの項でも触れたが、先人はこれを混同して、花を油漬けにして切り傷や火傷などの治療に用いた。つまり、両者とも同じ薬用の効能によりアブラギクの名で広まったという次第。これは江戸時代のことである。また、島と浜の共通点によりハマカンギク(浜寒菊)の名でも知られる。

 その名にシマ(島)やハマ(浜)が用いられているので、海沿いに多く見られるのかと思いきや、本州の近畿地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国、朝鮮半島、台湾に見られ、海辺のない大和(奈良県)でも日当たりのよい山足などで見かける。花期が10月から12月とアワコガネギクとほぼ重なるので、紛らわしいく、混同されやすいため、実際、混同されたこともあるという。カンギク(寒菊)とは秋から冬に向うころ花が咲き始めることによる。

 なお、剣山(徳島県)の石灰岩地に生えるひと回り小さい黄花のツルギカンギク(剣漢菊)タイプのシマカンギクを天川村の標高1300メートル付近の石灰岩地で見かけたことがある。 写真は日当たりのよい棚田の斜面の雑草の中で多くの黄色い花を咲かせるシマカンギク(左)と天川村の石灰岩地の岩場で黄色い花を咲かせるシマカンギクのツルギカンギクタイプの花。

   野菊咲く一群落の花の色

 

<1722> 大和の花 (39) ヤマジノギク (山路野菊)                                         キク科 シオン属

                                               

  春のスミレ(菫)と同じく秋の野菊は種類が多く、その花は山野の歩きを楽しくさせてくれる。これは天地に関わる四季の国日本の多様な自然環境の一つの現れによるもので、花はその恵みの賜物、象徴であるが、スミレや野菊にはそれがまさによく現れているということにほかならない。だが、ときにはよく似たものがあって、花のフォトライブラリーに当たっている私のような身には間違いが起きないようにする努力が求められ、迷いを生じたりするようなこともある。けれども、この状況は環境の多様性を物語るものであってみれば歓迎されて然るべきと思える。

  今回はシオン属イソノギク節のヤマジノギク(山路野菊)を見てみよう。日当たりのよい草原に生える2年草で、アレノノギク(荒野野菊)とも呼ばれる。本州の静岡県以西、四国、九州から朝鮮半島、中国、アムールに広く分布し、規模の大きいススキ原が広がる草地などでよく見られる。大和(奈良県)では曽爾高原が自生地として知られるが、この高原でしか私は出会っていない。その曽爾高原でも年を追って減少している観があり、奈良県では絶滅危惧種にあげられ、大切にしたい植物として呼びかけられている。

  茎は真っ直ぐに伸びて、よく枝を分け、大きいものでは高さが1メートルほど、大人の腰くらいに及ぶが、曽爾高原に見られる個体は2~30センチと丈の低い貧弱な個体がほとんどである。これはシカの食害、もしくは強風域のためかと考えられるが、繁殖を種子に託す2年草、或いは1稔性の性質がこのような自然の中で微妙な変異に影響しているのかも知れない。

  葉は倒披針形で、上部は線形、茎や葉の縁にかたい毛が生え、見た目でも判別が出来る。頭花は直径5センチほどと他の野菊よりも少し大きく、淡青紫色の舌状花も色濃く見えるものが多い。花期は10月から11月で、秋の深まりとともに見られるようになる。このころになると、ススキの群落も銀白色の穂を靡かせ始め、高原は最も人出でにぎわう。  写真左は草原の中で花を咲かせるヤマジノギク。中は花のアップ。右はヤマジノギクの特徴を示す赤褐色の冠毛が目につく花群(いずれも曽爾高原で)。

   野菊にもさまざまありて目に楽し

 

<1723> 大和の花 (40) ヨメナ (嫁菜)                                               キク科 シオン属

                 

  シオン属ヨメナ節の代表種で、昔から野菊として最も親しまれて来た多年草である。本州の中部地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、関東地方以北にはカントウヨメナが分布する。ヨメナは古文献等により『万葉集』の2首に登場するウハギ(宇波疑・菟芽子)に当てられる万葉植物としても知られる。

  草丈が大きいもので1メートルほどになり、上部でよく分枝する。下部や中部の葉は披針形で、縁に粗い鋸歯がある。花期は7月から10月ごろで、枝先に淡青紫色の舌状花と黄色い筒状花の花を一個ずつつける。冠毛が極めて短いのが特徴で、よく似るノコンギク(野紺菊)との判別点になる。また、ノコンギクのように茎や葉に毛がないので手で触ってみるとざらつかない。

  『万葉集』の2首はともに花を詠んだものではなく、春の摘み草を詠んだ歌である。因みに巻10の1879番の詠人未詳の歌では「春日野に煙立つ見ゆをとめらし春野のうはぎつみて煮らしも」とある。これは春の若葉を採取して食用にしたことをうかがわせるもので、その名に「芽子(はぎ)」とあるのは若芽のことを意味し、ウハギは美味しい良質の若芽を出す草ということになる。この名からしても、ウハギのヨメナは秋の花よりも春の摘み草としてあったことを物語る。『万葉集』の2首は当時の庶民の暮らしの一端がよく見て取れる情景描写の歌であるのがわかる。

  ヨメナ(嫁菜)の「菜」は食べられる葉を有する植物に用いられ、菜の花のアブラナ(油菜)が典型例であるが、落葉樹のズイナ(瑞菜・髄菜)も若葉が食用にされたことで「菜」の字が用いられている。また、民間では薬用にもされ、全草を乾燥し煎じて飲めば、解熱、利尿に効くという。なお、ヨメナ(嫁菜)はシラヤマギク(白山菊)のムコナ(婿菜)に対する名である。 写真はヨメナの花群(左)と花のアップ(ヒョウモンチョウが来ていた)。ノコンギクほど花が密集しないのが特徴。  一句成る野菊の野菊たる姿

<1724> 大和の花 (41) シラヤマギク (白山菊)                                         キク科  シオン属

                                

 ヨメナ(嫁菜)に対するムコナ(婿菜)の別名を持つシオン属シラヤマギク節に属する多年草で、日本列島の沖縄を除く各地と中国、朝鮮半島、ウスリー、アムールに広く分布する。草丈は1メートル前後、葉は柄のある心形で、花はほかの野菊に比べて小さく、直径2センチ前後、白い舌状花は数が少なくまばらで、7月から10月にかけて咲く一つ一つの花は貧弱であるが、高原や山地の草原でススキやオミナエシなどに混じって咲く風情は秋の訪れを感じさせるところがある。

 大和地方では山足の草地などで見られるが、葛城山や曽爾高原ではススキが穂を出し始めるころになるとこのシラヤマギクがほかの草花を先導するようにススキの原にその白い花を見せる。野菊のいいところはこのシラヤマギクにも言えるように出しゃばらず、それかといって、控えめ過ぎず、ほかの秋草の中でアクセントになって咲く風情が感じられることである。なお、シオン属シオン節のイナカギク(田舎菊)という野菊があり、別名をヤマシロギク(山白菊)という。シラヤマギクと実に紛らわしいが、これは野菊が如何に多いかに通じる。 写真はススキと混生して花を見せるシラヤマギク(曽爾高原で)と花のアップ。  秋晴れや天高くあり子らの声

<1725> 大和の花 (42) ノコンギク (野紺菊)                                              キク科 シオン属

                 

 ノコンギクはシオン属シオン節の野菊で、本州、四国、九州に分布する日本の固有種である。スミレで言えば、タチツボスミレと同様、大和(奈良県)においては平地から山間地まで生育範囲が広く、ヨメナ(嫁菜)とともに最も親しまれている日本を代表する野菊と言ってよい。殊に山間地でよく見られ、群生することが多いので、8月から11月の花期に山間地を訪ねれば必ず出会える。それほどポピュラーな野菊であるが、生育環境によって葉や花の質を異にする変異が見られ、厳密には他種との混同が気になる野菊である。

 高さは1メートルほど、葉は卵形から広披針形まで、花は淡青紫色が主であるが、ときに赤味を帯びるものや、白色に近い舌状花を有するものも見られる。よく、ヨメナと混同されるが、葉の比較ではヨメナが滑らかな感触であるのに対し、ノコンギクは葉の両面に短毛が密生しざらつく。花で言えば、まばらに花をつけるヨメナに対し、ノコンギクは枝先に多くつくのでにぎやかに感じられる。また、冠毛の短いヨメナに対し、ノコンギクの冠毛は筆先を思わせるほど長い特徴があり、これらの点を比較すれば判別出来る。 写真は山足の草地で群生し、花を咲かせるノコンギク(左・東吉野村)と棚田の畦に咲くノコンギク(右・奈良市東部の大和高原)。

  静かなる里の棚田の野菊かな

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳 ~小筥集

2016年08月26日 | 植物

<1701> 余聞・余話 「植物の葉に寄せて」

        日の恵み掬ふ葉といふ掌を広げて木々は旺盛に立つ

 人体と植物を同一視する考えがある。人体の部位と植物の部位に同じ言い方が用いられているのがよい例としてあげられる。例えば、身と実、鼻と花、目と芽、歯と葉といった具合である。言わば、人体と植物はまこと生命的に繋がり得て似るところがあると言えるわけである。これは太陽と地球の関わりにおいて生まれた地球生命が繋がりを持ち一体のものであることを意味するものにほかならない。

 顔の真ん中に付いている鼻は顔立ちの見映えに影響を及ぼし、花は一種のアピールで表象の意味合いを持っている。これに対し、歯は食べ物を咀嚼し、栄養吸収の働きをなし、葉も同じく光合成による栄養補給の役目を担う。これはともに生命体の成長、維持に欠かせない実質の意味合いが強いということになる。こういうところをまずは念頭に置いて、植物の葉について考えてみたいと思う。

                                             

 「発芽した植物は空気、水、太陽光および土の中に含まれているわずかな量の無機物質(窒素、燐、カリ、鉄など)さえあれば、ほかの栄養物質がなくても、どんどん成長することができる。これは植物が光合成によって有機物をつくることができるからである」(瀧本敦著『ヒマワリはなぜ東を向くか』)というがごとくで、太陽光のエネルギーを炭水化物や糖質などの有機物に変えて生命の保持、成長、即ち、活動に生かしているということになる。この光合成の役割を果たすのが葉緑素による葉緑体を形成している葉である。

  思えば、花が千差万別の彩りを持っているのに対し、濃い薄いはあるものながら、葉は概ね一様に緑であるのがわかる。これは花の役割が子孫繁栄にあり、その役目として雄しべと雌しべの花粉の授受を成就させなくてはならず、これを成し遂げるため、自分で動くことの出来ない花は昆虫などの第三者にその授受を委ねる。花はその昆虫たち第三者へのアピールが必要になり、花はこの目的のため、よりよい形や彩りの工夫をするということになる。

  これに対し、葉は葉緑素を有する葉緑体によって、光合成を行ない、太陽光のエネルギーを吸収して、植物の生命を維持、成長させる目的に向って日々頑張っている。言わば、植物の個体は花がなくても生きて行けるが、葉がなくては生きて行くことは出来ないということになる。で、花は表象、葉は実質という言葉で言い表した次第である。

                                              

  よく晴れた夏の日に常緑樹や落葉樹の混淆林を訪れ、その林下を歩いてみると、緑の葉が降り注ぐ太陽光を浴びながら生き生きと輝くように見える場面に出くわす。何とも清しく美しい眺めであるが、まさにそこに見られる群がる葉は光合成の真っ最中なのである。私は山歩きをしていてよく思う。何故に木々や草々は緑に被われているのだろうかと。で、それは前述の通り光合成の働きをする葉緑素の持ち主である葉緑体の葉の群がりによると理解されるのであるが、これは葉緑素自体が緑を発しているというのではなく、光の三原色(赤、青、緑)で言えば、葉緑素は太陽光の白光の中から赤と青を吸収して植物体に取り込み、緑と合体して太陽光の白光のエネルギーを得ることになる。

  吸収されない余分な緑は反射して、私たちの目に入るということになる。こうして葉は太陽光のエネルギーを取り込んでいる理屈が成り立つ。私は光合成をこのように理解するのであるが、間違いだろうか。とにかく、山野の草木の緑という色は生命に深く関わりを持つ色ということが出来る。

  動物である人間はそうして成長した植物を直接乃至は間接に摂取することによって生命の維持を図っている。つまり、人間にとって植物は生命を維持する上に必要欠くべからざるものであると言えるわけである。花だけでなく、葉が有する緑も快く私たちの目に映るのは私たちの辿って来た生命の根源に植物が存在し、意識、無意識を問わず、この存在に触れることになるからではないか。これは地球誕生から植物の起源、動物の起源を経て私たち人間にも及んでいる地球生命を含む宇宙的メカニズムより成り立っていることが言えるように思われる。

  葉をよく観察してみると、大方の葉は広げた枝に満遍なくつき、太陽光を十分に受けるべく掌を広げたように平たくついている。広葉樹は殊にこの傾向が強く、光合成の働きを担っているのがよくわかる。太陽光の弱い北国に多い針葉樹は太陽光の当たり具合に関わらず光合成が出来るような並びの仕組みになっている。太陽光を吸収するのに、一見広葉樹の方が針葉樹よりも有効に思えるが、針葉樹の全体を見ると、針葉の侮れないところが見て取れる。果たして、植物の葉の働きがそこにも見えると言える。

 この間、よく晴れた日に大台ヶ原の樹林下を歩き、普段は花にばかり目がゆくのであるが、この日は花が少なかった所為にもより葉の美しさを見上げながら以上のようなことを思い巡らせた次第である。 写真の上段は左から、太陽光に透けて見えるヤシャブシ、オオイタヤメイゲツ、ブナの葉群。下段は左からツタウルシ、ウラジロモミ、ミズナラの葉群。