山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

瀧桜の励まし

2011-04-22 00:00:54 | その他

 

 東北地方にはたくさんの桜の名所があります。日本全国に桜の名所は多いのですが、東北の桜は特別ではないかと私は思っています。関東までの桜は慌しく咲いてサッと散ってしまう感じがするのですが、北国の桜は冬から春への季節がしっかり脱皮を終えた頃にゆっくりと咲くというのが私のイメージなのです。本当は何処も同じで、散り際の鮮やかさはどこも同じなのでしょう。でもこのような感覚を科学的に解析などするのは真に風情のない話です。

東北の桜の三大名所といえば、角館の武家屋敷と桧内川の堤、北上川展勝地、それに弘前の城跡公園の桜が挙げられますが、この他にも名所はたくさんあります。しかし、名所の多くは桜の樹の数の多さが基本になっているようで、これに何種類かの桜が混ざると、相乗効果が発揮されて、一層人々の心を惹くことになるのだと思います。その様な桜の咲き広がる世界も好きですが、私が桜を観て感動するのは、何といってもたった一本で多くの人を魅了する桜の樹です。

全国の一本桜をそれなりに観てきたのですが、私の印象としては、東北の方が、他のエリアよりも力強く生き残っている樹が多いように感じます。千年を超える樹に会いに行っても、あまりにも老衰の兆しが激しく、辛うじて僅かに花を咲かせている姿を見ると、もう頑張らなくてもいいよ、お疲れさん、と声をかけたくなってしまいます。山梨県の武川村(今は北杜市)にある神代桜は日本での最長樹齢の桜だと聞いていますが、枯れかかったのを人間が懸命に延命策を講じて、どうにか花を咲かせて貰っていますが、それが老木にとって本当にありがたいことなのかな、などと思ってしまうのは、ひねくれ根性の故なのでしょうか。

東北の一本桜といえば、数ある名木の中でも際立って圧倒されるのは、何といっても福島県は三春町の滝桜でしょう。もう何回かこの桜に会いに行っていますが、どんなに見ても飽きることが無い、本当の名木です。この桜の木の力強さは、花を見ただけでは判らないように思います。まさに滝のように花の枝が八方に垂れ下がる開花真っ盛りの風情は、これはもう感嘆以外のことばもないというほどの美しさですが、花が終わって葉桜となり、やがて濃い緑の葉が茂る頃に同じ木を訪れると、今度はその逞しさに圧倒されるのです。世の多くの人は、花だけを見て滝桜の評価をされるようですが、私は葉っぱだけのこの木の逞しさを、その素晴らしさを強調したいと思っています。

滝桜は小高い丘に囲まれた小さなすり鉢形の谷の斜面のパラボラアンテナの芯のような位置に、溢れる太陽の光を浴びながら、襲い来る風雪に耐えながら、厳しい春夏秋冬をもう千年以上も過ごしてきたのです。ここに生まれて根付いてからの長い時間の流れの中で、様々な世の中の変化をそのまま受け入れながら、同じ生命(いのち)の営みを何のこだわりもなく為し続けて来ています。当たり前といえばそれだけのことですが、生きものとしての千年を超える生命の存在感は、人間に対しても圧倒的な影響力を示しています。

 

時はめぐって今、千年に一度ともいえるほどの大地震の発生によって、この大地は揺さぶられ、新たな人災がそれに加わって、福島県の三春の地も穏やかならぬ雰囲気が漂っていることでしょう。樹木たちの記憶が確実なものならば、滝桜も千年前の大地の咆哮(ほうこう)に幼き身体を揺さぶられて驚いたことを思い出したかもしれません。今度の大地震は、千年前のその時の大きさとさして変わらなかったのに、新たに加わった人災の不気味さに、ちょっぴり不安を抱いているのかもしれません。

でも大丈夫です。滝桜の強い生命力は、大自然のもたらす無数の試練を乗り越えて来ているのです。人間どもが起こした少しばかりの悪さなどはものともしない底力のようなものが、この樹には備わっているに違いありません。そのことは人々が滝桜の前に行けば直ぐに判ることです。そしてどんな逆境にある人でも無言の大きな励ましと生きるパワーを授かることができるはずです。

今年も今頃が滝桜の花の最盛期ではないかと思います。会いに行きたいのですが、いろいろあって今年は行けそうもありません。昨年のアルバムを取り出し、あの時の感動を甦らせながら、満開の桜の声に耳を傾けたいと思います。そして、福島県初め、各地で被災された多くの方々に、その声が届くことを願っています。滝桜は話しています。

「逆境を乗り越えた時はいつも、私は自分でもほれぼれするほど美しく花を咲かせることができました。だから、皆さんも自分の花をきっと咲かせて下さい。そのために力が必要ならば、私はいつでもそれをお送りします」と。

 

     

滝桜の全景。これほどの花を咲かせる樹は見たことが無い。是非とも現地に行って、そのパワーの大きさを全身で感じ、吸収して欲しい。

  

     

滝桜の幹周辺の景観。ごつごつとした力瘤の塊が集まって、幹となっている。この力が、千年を超える生命を支えて来ている。かつて訪ねた縄文杉にもこの力瘤の集まりがあった。この力瘤のパワーが東北各地の被災された皆さまお一人ひとりに確実に届きますことを心から願っています。

 

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