サクランボといえば山形というのが、サクランボを知らない人たちの間では一般的になっている。確かに寒河江から東根あたり一帯はサクランボの一大生産地帯ではある。何度もそこを通っているけど、本気になってサクランボを買ったことは無い。本気になれないくらいに高価なのである。だから、見るだけということになる。
私の中では、サクランボといえば、青森と北海道が親しみの持てる産地として登場する。三戸や名川のサクランボは山形に引けは取らない品質なのに、値段はずっと親近感を覚えるレベルである。そして北海道は、サクランボの穴場だ。北国なので、7月に入ってもサクランボは健在なのである。
北海道では、道南の余市に隣接する仁木町のサクランボが一番有名なようだけど、私たちが訪ねるのを楽しみにしているのは、仁木町ではなく、道央の丘の町美瑛の奥まった所にある「辻サクランボ園」である。北海道を訪れるときには、特別のことが無い限り必ずここを訪ねることにしている。そして、二人別々に2種類のサクランボを1kgずつほど買い、それを口に含んで丘の中を走りながら、鳥たちになり代わって、プッ、とタネを撒き散らすのである。ゴミ問題だ、などと言う勿(なか)れ。鳥たちのまねをしているだけなのだから。
さて、そのサクランボだが、私はたくさんある果物の中で、一番瑞々(みずみず)しくて美しく可憐な夢のある果実だと思っている。普通の桜の実から見れば巨大だけど、桃や柿などと比べたら、小さく可愛らしい。そして梅などとは違って、何ともいえない優しい色合いで、光り輝いているのだ。このような果実は他には無いように思う。
サクランボは木に生(な)っているのも美しい。濃い緑の葉の中に真っ赤に輝く実は、青空を引き立たせる力がある。美味しいとかいうレベルではない美しさが、その実に詰まって輝いており、それを見ているだけで夢を見ることが出来るような気がするのである。
サクランボは、1個でも十分に美しいが、これが集まると、その輝きは益々いや増して、何だかこの世のものとは思えないほどの存在となる。サクランボの生産農家は、短期決戦で最盛期には超多忙のようだけど、この夢の果実に囲まれて作業できるというのは、幸せだと思う。樹園の売店に行くと、皆さんそのようなお顔をして仕事に従事されているように思えてくる。
昨年は、比較的安い値段で、大量のサクランボを手に入れることができた。相棒は意気込んでサクランボのジャム作りに挑戦した。半日ほどかけて出来上がったジャムは、色鮮やかで、ほんのりと夢の香りがして、良い仕上がりだったようだ。私は甘いものは苦手なので、ほんの少しパンに塗っただけで、後は相棒が口に運ぶ香りを楽しんだだけだった。
季節はずれのサクランボの話は、いかにも唐突だけど。やたらに雪などが降って、妙に寒さが居座っているこの頃には、このような話もいいのではないかと、写真を引っ張り出したのだった。
<ご案内> 拙著「くるま旅くらし心得帖」をお求めの方には、1300円(定価1,580円)にてお分けします。在庫は50冊限りです。お求めの方は、メールにてお申し込み下さい。送料込みです。お支払いは到着後に郵便振込みでお願いします。メールアドレスは、vacotsu8855@mail.goo.ne.jp です。