花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

‘On demand’化と昇華

2006-09-11 23:23:00 | Weblog
 高校の頃、防衛機制について習った憶えがある。「酸っぱい葡萄」で有名な「合理化」は防衛機制として良く知られているが、「昇華」も防衛機制のひとつに含まれている。「昇華」とは、例えば失恋した人が芸術やスポーツに専心するといった、満たされない思いを次元の高い活動の中で解消していくこころの働きである。ところで最近、この「昇華」が防衛機制として働きにくくなるような環境の変化が進行しているように思う。ここで言う環境の変化をはやり言葉を使って表せば、‘on demand’化の進行と言えるかもしれない。ひとそれぞれの欲求に応じて個別に商品やサービスを提供することを‘on demand’と呼んでいるが、この‘on demand’化が進めば進むほど、「昇華」、もっと言えば、自己の内面的価値の実現が難しくなるのではないかと思う。‘on demand’化にどっぷり浸かっていると、自分の欲求の実現は商品やサービスの消費といった形態をとることになり、どんなに‘on demand’(あなたの要求のままに)と言っても、結局商業ベースに乗ったものしか選択肢として与えられない。そして、内なる要求の実現を図るよりも、だんだん、自分の好みに合ったものを見つけることが自己実現であると思うようになる。おのれの頭脳と肉体で何かを生み出そうという姿勢からは遠く隔たり、知らず知らずのうちに「自己実現=消費」の構図の中で飼い慣らされてしまうことになる。さらに、「自己実現=消費」の構図における欲求の実現の可否は、経済力に左右されることになる。そうなると、自分の欲求が満たされない場合、自己実現を阻む要因は経済的な理由に還元され、自分の内面を見つめる契機を失うことになる。結果として、「お金さえあれば」との思いのみ残り、代償行為として芸術やスポーツに打ち込む方向へ意欲を振り向けることにはなりにくい。