shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

バイ・バイ・ブラックバード / ジュリー・ロンドン

2012-02-22 | Standard Songs
 ポール・マッカートニーが「Kisses On The Bottom」で取り上げたスタンダード・ナンバー特集の第2弾は「バイ・バイ・ブラックバード」だ。この曲は元々1926年にそこそこヒットした歌で、その後忘れられた存在だったものを1956年にマイルス・デイビスが名盤「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」で取り上げ、それがきっかけとなってジャズのスタンダード・ソングとして広く親しまれるようになったという経緯がある。
 歌詞に出てくる blackbird とは “不幸せ” の比喩みたいなモンで、 “心配事も悩みもすべてカバンに詰めて 歌いながら出かけるんだ ブラックバードよ さようなら... そこには僕を待っていてくれる人がいる 砂糖も甘いし彼女も甘い... ここでは誰も僕を愛しも理解もしてくれない... ベッドを作って明かりもつけておいてくれ... さようなら ブラックバード♪” と、自分を取り巻く悲惨な状況から抜け出して彼女が待つ幸せな場所へと向かうという内容の歌。そういう意味で、スロー・テンポであれミディアム・テンポであれ、ヴォーカル物であれインスト物であれ、前向きな明るさの中にも一抹の翳りが射すといった感じの主人公の微妙な心の綾をどう表現するかがそのシンガーなりプレイヤーなりの腕の見せ所と言えそうだ。

①Julie London
 女性ヴォーカルではヘレン・メリルやペギー・リーなど、私の好きな歌手がこぞってこの曲を取り上げているが、そんな中でも一番好きなのがセクシーな低音が魅力のジュリー・ロンドン。ヴォーカルは雰囲気を楽しむべし、を信条とする私がジャズ・ヴォーカルにハマるきっかけとなったのが彼女との出会いで、ネット・オークションなどまだ知らなかった時代にはるばる東京まで出かけて行ってジャズのレコ屋廻りを敢行、彼女の美麗オリジナル盤を根こそぎ買い漁ったものだった。特に梅ヶ丘にあったノスタルジア・レコードにはジュリーのレコードがほぼ揃っていてエサ箱の前で大コーフンし、それを見た店主の金子さんにジュリーのディスコグラフィーをコピーしていただいたのが今では良い思い出だ。
 この曲はスタジオ録音盤では「ジュリー」(←加藤茶の “ちょっとだけよ~” みたいに脚を上げてる悩殺ジャケがたまらんたまらん...)、ライヴ盤では「ジュリー・イン・パーソン」に収録されているという彼女お気に入りのナンバーで、ゾクゾクするようなハスキー・ヴォイスでジャジーに迫るジュリーにクラクラしてしまう(≧▽≦) 彼女の歌には何とも言えない気品が感じられ、それが凡百のセクシー系シンガーと激しく一線を画する要因となっているように思うのだが、そんな彼女の影響は同じ低音ハスキー系のダイアナ・クラールあたりにまで及んでいるのではないか。
 下に貼り付けたYouTubeの映像は1964年に来日した時に出演したテレビ・ショーのもので、アコベとのデュオでセクシーに迫るジュリーに目が釘付けだ。それにしてもベースのドン・バグレイ、思いっ切り羨ましいぞ!!!!!
Julie London & Bass Duet Bye Bye Blackbird Colour TV Show


②Miles Davis
 私がまだジャズ初心者だった頃、まるで歌うようにミュート・トランペットで可憐なメロディーを紡ぎ出していくマイルスのこの “卵の殻の上を歩くような” プレイを聴いて、楽器でこれほど情感を込めた吹き方が出来ることに衝撃を受け、 “歌心” という言葉の何たるかが分かったような気がした。この「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」というアルバムはモダン・ジャズを代表する屈指の名盤で、マイルス以外のメンバーも絶好調。レッド・ガーランドのコロコロと転がるような軽やかなタッチのピアノも、フィリー・ジョーの瀟洒なブラッシュも、音楽を根底からしっかりと支えるポール・チェンバースのベースも、すべてが完璧と言っていい。
 そういえば、それから何年か経って TV の CM で突然この曲が流れてきた時はビックリ(゜o゜) 確かサントリー・ウイスキーの CM だったと思うが、クレイ・アニメーションのマイルスがこの曲に合わせてトランペットを吹いている映像が雰囲気抜群で、めっちゃ粋な CM やなぁと感心したものだ。とにかく「バイ・バイ・ブラックバード」といえばマイルスのこのヴァージョンに尽きると思う。これ以上の名演があったら教えてほしい。
Miles Davis - Bye Bye Blackbird


③Ringo Starr
 リンゴの歌はヘタだという声をよく耳にするが、私はそんなに捨てたモンではないと思う。ただ、彼のちょっと鼻にかかった声質やそのすっ呆けた歌い方(笑)がロックンロールに合ってないだけの話で、要は彼に合った曲を選べばいいのだ。そういう意味で、1970年にリリースされた 1st ソロ・アルバム「センチメンタル・ジャーニー」に入っていたこの「バイ・バイ・ブラックバード」なんかリンゴにピッタリの選曲・アレンジではないか。「五匹の仔ブタとチャールストン」を想わせる陽気なブラス・アレンジはビー・ジーズのモーリス・ギブによるもので、リンゴの魅力を実に巧く引き出している。ヴォーカルをダブル・トラックにしたのも慧眼と言えるだろう。それにしてもまさかこの曲でポールとリンゴという元ビートルズ同士の聴き比べが出来るとは夢にも思いませんでしたわ。
Ringo Starr Bye Bye Blackbird ( Sentimental Journey 1970)


④Diana Krall
 今回のポールのスタンダード・アルバム成功の陰の立役者であるダイアナ・クラールはポールが「フラワーズ・イン・ザ・ダート」でコンビを組んだエルヴィス・コステロの嫁さんだが、ジャズ界では押しも押されぬスーパースターで、ナット・キング・コール・トリオの系譜を現代に受け継ぐ正統派ジャズ・ピアニスト兼シンガーだ。私は彼女の大ファンで CD もかなり持っているが、コレは知らなかった。調べてみると、映画「パブリック・エネミーズ」(2009年)の挿入歌としてサントラ盤に収録されているらしい。失速寸前のスロー・テンポで歌うダイアナ、そんな彼女に絡んでいくトランペットやテナーのオブリガート、ムードを盛り上げる瀟洒なブラッシュ... どこを切っても雰囲気抜群のジャズ・バラッドだ。
Bye Bye, Blackbird with Lyrics [Public Enemies soundtrack]


⑤Ben Webster
 ベン・ウェブスターは1930年代からビッグ・バンドのサイドメンとして活躍しているテナー・サックス奏者だが、私が好きなのは1950年代半ば以降のヴァーヴ・レーベル時代の彼の作品だ。特にスロー~ミディアム・テンポの楽曲における寛ぎと包容力に溢れたプレイは唯一無比で、その巧みなブレス・コントロールと男の哀愁をにじませたビブラート奏法はまさに円熟の境地と言っていいだろう。この曲でも名手オスカー・ピーターソンのトリオのツボを心得たバッキング(←レイ・ブラウンの剛力ベースが強烈!)を得て風格に満ちたスケールの大きいプレイを聴かせてくれる。テナー・サックスという楽器本来の低音の魅力を存分に楽しめる名演だ。
B.Webster & O.Peterson

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