shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ / ペギー・リー

2012-03-11 | Standard Songs
 それまでノーマークだった曲が何らかのきっかけで愛聴曲になることが私にはよくあるのだが、今回のポールのアルバムを聴いて改めてその良さが分かった曲が「アクセンチュエイト・ザ・ポジティヴ」である。ポールがミディアム・テンポで軽やかにスイングするこの曲は、スロー・バラッド中心の「Kisses On The Bottom」の中でひときわ輝きを放っており、曲自体は知っていたもののそれまで特に気にもせずにスルーしていた私はあわてて手持ちの CD やレコードを再チェックした。
 それにしても曲名の “Ac-Cent-Tchu-Ate” っていう単語、ハイフン3連結で初めて見た時は何のこっちゃ?と思ったのだが、よくよく考えてみると accent(アクセント、つまり強調)に -ate (~する)を足して動詞化した accentuate が口語的発音で Ac-Cent-Tchu-Ate と訛ったもののようで、直訳すれば “ポジティヴなことを強調しなさい” ということ。面白そうなので調べてみると、この曲を作詞したジョニー・マーサーがある神父さんのお説教を聞いて、その中に出てきた “You've got to accentuate the positive and eliminate the negative.”(ポジティヴなことは強調して、ネガティヴなことは取り除いてしまいなさい...)というフレーズが気に入ったのがきっかけだったという。
 後日、コンビを組んでいるハロルド・アーレンが口ずさんだメロディーに合うように “Ac-Cent-...” とハイフンを入れてブツ切りにし、 “Latch on to the affirmative, don't mess with Mr. In-Between”(しっかりと前向きに行こう、中途半端に迷っちゃダメだよ...)や “You've got to spread joy up to the maximum, bring gloom down to the minimum”(喜びは最大限にまで高めて、悲しみは最小限に抑えよう...)といった名フレーズを加えて曲を完成させたとのことだが、悩んだり苦しんだりしている人々を励ますような歌詞が軽やかなメロディーとバッチリ合っていて、思わず鼻歌で歌いたくなるキャッチーなナンバーだ。今日でちょうどあの悪夢のような震災から1年が経つが、どん底からの復興を目指す我々日本人にとってもまさにピッタリな内容の歌と言えるだろう。
 レコードでは1944年にマーサーがパイド・パイパーズと共に吹き込んだ盤が大ヒット。それを見て他の大物アーティストたちも次々とこの曲をカヴァー、1945年だけでもビング・クロスビー&アンドリュース・シスターズ、ケイ・スター、アーティー・ショウのリリース・ラッシュとなり、中でもクロスビー盤は2位まで上がるヒットになったというからこの曲のパワーは絶大だ。
 手持ちのヴォーカル盤ではペギー・リー、サム・クック、ビング・クロスビー&アンドリュース・シスターズが私的トップ3。私の好きなコニー・エヴィンソンやジョー・デリーズなんかも歌ってはいるのだが、どちらもアレンジをこねくり回し過ぎていて残念ながら全然楽しめない。今回ブログで取り上げるにあたって色々聴き比べてみて、この曲は策を弄せずストレートに歌ったものがベストというのが結論だ。尚、インスト物ではオスカー・ピーターソンのソングブック・シリーズの歌心溢れるヴァージョンが断トツに素晴らしいと思う。

①Peggy Lee
 1950年代の初め頃というのはラジオの全盛期で、多くのラジオ・トランスクリプション音源が残っているが、コレは1952年にペギー・リーが「ペギー・リー・ショー」というラジオ番組用にレコーディングしたもので、 Riff City という怪しげなレーベルから出たCD 「イッツ・ア・グッド・デイ」に収録されている。彼女が第1期キャピトル時代にレコーディングした膨大な音源で正式にレコード化されたのはLP「ランデヴー・ウィズ・ペギー・リー」で聴ける12曲だけなので、この時期の彼女の歌声が聴けるという意味でも非常に貴重な1枚だ。この曲では出だしの “ア~クセン♪” と伸ばしておいてスパッと切るところからもうペギー・リー・ワールド全開で、言葉と言葉の間の余韻を活かしたその唯一無比の歌唱法が原曲の軽やかな旋律と見事にマッチ、まるで彼女のオリジナル曲のように耳に響く。その歌声、節回し、スイング感... どれを取ってもまさにザ・ワン・アンド・オンリーだ。
Peggy Lee: Ac-cent-tchu-ate The Positive (Arlen) - Recorded ca. September 16, 1952


②Sam Cooke
 今から10年前、私は自分で直接海外からレコードを買うために不慣れなパソコンを購入して eBay オークションを始めた。おかげでオイシイ思いを一杯したが、特に嬉しかったのが 60’sオールディーズのオリジナル盤が数ドルでガンガン買えたことで、大抵の盤は送料込みでも2,000円前後で手に入れることが出来た。しかし中には競争が激しくて値段が3桁に届くような超入手困難盤があり、ロネッツやクリスタルズといったフィレス・レーベル盤と並んで入手に苦労したのがサム・クックのキーン盤だった。コレはそんなキーン・レーベルから1958年にリリースされた彼の2nd アルバム「アンコール」に入っていたもので、ゴージャスなビッグ・バンド・サウンドに乗ってアップ・テンポで快調に飛ばすサム・クックの歌声が楽しめる。彼はどちらかというとスロー~ミディアム・テンポの歌が多いが、ここで聴けるようなノリノリのサム・クックもめっちゃエエわ(^.^)
Sam Cooke - Accentuate The Positive (1958)


③Bing Crosby & The Andrews Sisters
 私はビング・クロスビーというと例の「ホワイト・クリスマス」の影響か、 “SP レコードのあのパチパチ・ノイズの向こうから聞こえてくるソフトでジェントルなヴォーカル” という刷り込みがなされていて、彼の歌声を聴くとどうしても第二次世界大戦の頃をイメージしてしまうのだが、この曲では軍服姿がトレードマークで “米軍御用達” みたいなイメージのあるアンドリュース・シスターズとの共演ということで、もうこれ以上ないくらいピッタリの組み合わせだ。もちろんイメージ面だけでなく音楽的にもお互いの持ち味が十分に活かされたコラボレーションになっており、懐古的な歌声の相乗効果で雰囲気抜群のヴァージョンに仕上がっている。
Ac-Cent-Tchu-Ate The Positive - Bing Crosby with The Andrews Sisters

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