魯生のパクパク

占いという もう一つの眼

ネギ坊主

2012年10月16日 | 話の畑

地下鉄に乗ると、優先席だけガラガラで、平服の僧侶風70才ぐらいが一人、奥に腰を掛けている。同じ駅で乗り込んだ20代のサラリーマンと女子学生風と並んで座ることになった。

次の駅で停まると、80代の、むしられたニワトリのような白髪と髭でボサボサの爺さんが乗ってきた。なにやら文句を言っている。
色白で神経質な左卜全か、ヤワラのお爺ちゃん、ヨレた猪熊滋悟郎のような顔をして、何か文句を言っていたかと思うと、
「えーっと、何処にやったかな? あ、あった、あった」
と言いながら、ポケットから、やおら、S字フックを取り出し、優先席の手すりに掛け、ビニール袋の手荷物をそれにかけると、緑のナップサックを背中にしたまま、向かいの優先席に腰掛けた。

座るなり、また何か言い始める
「人間にはな、毛が生えるもんや・・・毛が生えてどこがオカシイんじゃ。そういう当たり前のこともワカランと、そのうちケツの毛までむしられるぞ・・・」

「ケツの毛をむしられるゆうても、近頃の若いもんは、意味もワカリよらへん・・・ワカリよらへんやろなあ・・・」

「日本は、このままでは、ぜーんぶ、イカれてまうぞ・・・戦争に負けてな、なにもかも、アメリカに抜かれてもうたんや・・・」
そう言いながら、ふと頭を上げて、
「ああ、アメリカ人か・・・オカシイか? 嬉しそうにワロウとる。嬉しかったらワロウたらええ。誰にも遠慮はいらん」
上を見ると、英会話学校のポスターで白人が笑っている。

駅に着くと、優先席に座っていた他の乗客は一斉に立ち上がって行った。降りたのか席を移ったのかわからないが、爺さん一人になった。もちろん、見ているもう一人がここにいるのだが。

そこに、小綺麗にした、70代の商家のおかみさん風の人が入ってきて、爺さんの隣りに腰掛けた。
電車が走り出しても、爺さんは相変わらずしゃべっている。
隣に座ったおかみさんは、何か話しかけられたと思い
「はあ?」
と問い返すと、爺さんにエンジンが掛かった。

「そうや、おまへんか・・・日本は、このままでは、エライことになりまっせ・・・戦争は誰でもイヤや。戦争には莫大な金が掛かるよって、アメリカかて、しんどうなってしもうた。そやから、戦争を止める言うたら大統領になれたんや・・・そやのに、なんや、日本はどうするつもりなんや・・・」

事態が呑み込めたおかみさん、『えらいもんに、関わってしもうた』と思ったが、立つにも立てない。電車は走る。ただ、うなずくばかりだ。

「日本はどうなるんや。このあいだの映画は、中学生のホームレスの話や・・・ホームレス言うたら早い話、乞食や。中学生やで・・・戦争で焼け野原になってしもうて、よーけ、浮浪児ができた時代に逆戻りや・・・近頃の連中は戦争を知らん・・・まあ、ワシも行ったわけではないが・・・もう世の中ぐちゃぐちゃや・・・日本はのうなってしもうた」
「なあ、姉さんらの年なら、わかりますやろ。嫁姑の秩序っちゅうもんが。今ごろは姑の前で、昼の日中から嫁が手枕で寝てさらしよるんでっせ・・・」
おかみさんは、うなずくしかない。

「どいつもこいつも解っとらん。もう、やられっぱなしや・・・年寄りがおらんようになったら、ぜーんぶ、やられてまうぞ・・・」

電車が京都駅に着いてみんな立ち上がった。おかみさんはサッといなくなった。

人混みの中を、ヨレた猪熊滋悟郎の後を付いて歩いた。休まずしゃべっている。エスカレーターを上がると、改札を出て、JRに入り、東海道大阪方面に消えた。

一人暮らしで、テレビと会話しているのだろうか、ナップサックの緑の上で、ネギ坊主のように白いボサボサ頭が、目に焼き付いた。

このブログも、ネギ坊主のボヤキなのかも知れない


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1 コメント

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そんな皆様のお話を、毎回楽しみに拝見しておりま... (ラガブーリン)
2012-10-17 17:58:40
そんな皆様のお話を、毎回楽しみに拝見しております。私も世の中気に入らん方ですので(^^)/
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