転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



昨日(12日)は、博多座に昼の部から入って、夜まで観た。
ただし夜の部最後の「弁天」は、時間の都合その他で、観なかった。
せっかくの演目を観ないで帰るのは、とても勿体なかったが、
若いキャストだったので、また次の機会もあるだろう、ということで。

さて、昼の部最初は、『寿曾我対面』。
これでいきなり私は、近江小藤太の男女蔵に目が釘付けになった。
なぜって、敵役化粧をしたその顔は、父親の左團次の若い頃に
あまりにもソックリに見えたからだ。
父子なんだから似ていても不思議はないのだけど、
普段、輪郭以外そんなに共通点があると思っていなかったので、
これには感動に近い驚きがあった。
存在感は勿論のこと、台詞も明晰で、実に鮮やかな敵役ぶりだった。

父子と言えば、昔私がこれを観たとき、
曾我の十郎を菊五郎がしていたことがあったが、今回は菊之助。
こういう役を自然に務められる立場になったのだなと、
これまた保護者みたいな感慨があった。
ほかの演目でも思ったのだが、菊之助の魅力のひとつは、
所作のひとつひとつがとても綺麗で、きめが細かい、
ということではないだろうか。
つと、両手を揃えるだけの動きでも、菊之助がやると、
静かにあたりを払うような気品が漂って、実に美しかった。

曾我兄弟の親の敵である工藤左衛門祐経を梅玉が演じていて、
工藤はもともと敵役でも美男のつくりになっている役だが、
梅玉がやると、遺児たちの復讐を見通している聡明さは勿論のこと、
曾我兄弟の父を殺したことにも、この人なりの計算と苦悩とが
きっとあったことだろう、等々と、二重三重にドラマが感じられて、
これほどの男を相手にする曾我兄弟の復讐もさぞや劇的なものに、
………と脚本にないところまで想像させられたのが、圧巻だった。

次が『京鹿子娘道成寺』。
白拍子花子を藤十郎が務めていたのだが、
肥満体だがとても瑞々しい花子で(殴)、
これは男が放っておかないよな、綺麗だな、と思って見ていたら、
チラシの裏に「今回は喜寿を記念して」と書いてあって仰天した。
どう見ても、鴈治郎時代、いや扇雀時代よりも更につやつやして、
色気が増しているとしか思えないんですが!???

最初は冴え冴えとした風情で、現世の若者(修行中の僧)たちの前で
美しく舞い始めた花子が、だんだんとその本性を現し、
清姫の霊の顔が見え隠れし始め、
最後に鐘に向かって、するする~!とこの世のものでない足どりで
進んでいくまでの過程は、凄まじいものがあった。
生身の男性に、どうしてこんなことができるのだろう、
………といつも思うが、多分、才能のある男性だからこそ、
研ぎ澄まされた役者の目で女性を客観的に見つめていて、
こういう演じ方が可能になるのだろうな、と昨日は改めて感じた。

実は私は昔から、藤十郎・扇雀・翫雀のことを、
パタリロ一家などと呼んでいるのだが、
ホント言ってすごーくファンだったんではないかと初めて気づいた(汗)。

昼の部最後は、『髪結新三』。
音羽屋ファンの私としては、これを見るためにA席奮発したのだ。
粋で、いなせな、江戸っ子を演じさせたら、当代菊五郎は最高だ。
どうしようもない市井の悪党で、実にイイ男で、色気があって、
少年みたいな憎めなさもあって、絶妙な笑いのセンスがあって。
かどわかされた白子屋長女お熊(菊之助)は泣いて抵抗していたが、
私がオクマだったら、新三にすっかりぞっこんだっただろうと思った
(ストックホルム症候群になるのを待つまでもなく!)。
帰っていくお熊を見送るときの、あのやらし~い目つきなんか、
音羽屋でなくて、誰にできるものか!

そんな好き放題の新三が、唯一勝てないのが老獪な大家の長兵衛で、
演じていた左團次が、もうもう、最高だった。
菊五郎の、過不足無し!なテンポの良いユーモアと、
左團次の、わざと間をハズしたような独特の落とし方とが、
絶妙に絡み合って、後半はさんざん、笑わせて貰った。

ここで新三の弟子の勝奴をしていたのが松緑で、
かつて菊五郎が幾度となく、先代の辰之助と並んで
様々な名舞台を見せてくれたことを思うと、これまた感慨無量だった。
さきの男女蔵と正反対で、松緑は私の印象では全然、辰之助に似ていない。
辰之助のシャープで凄みのある色気、危険なほどのスケールの大きさは、
今の松緑からは感じない。
けれども、そのかわり松緑には舞台におさまりきらないほどのパワーと
体全体をぶつけて表現するような、圧倒的な芝居の迫力があるし、
今回のような世話物で小気味よいほどの小悪党芝居ができるのも魅力だ。
お熊を閉じこめておいて、戸棚の鍵なんか預かってないと
しらばっくれる件など、勝の気性と立場とが良く出ていて実に良かった。

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