転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 

夢闇  


私は時折、自分が全く登場しない夢を見るのだが、
今朝方の夢も、その類で、何かのドラマの序章みたいだった。
それは、最近、私の頭が歌舞伎モードになっていたせいだろう、
歌舞伎役者が主人公の、物語風の内容だった。

團十郎や菊五郎クラスではないが、それなりに古い家柄の、
役者の家に、次男坊として生まれた主人公は、
若く未熟で、かつ長子でないことの気楽さがあったために、
それまで決して芝居に真摯に取り組んだことがなかった。
また、家のしがらみの複雑さには愉快でない思い出も多く、
いずれは外の世界に出たいという欲求を持っていた。
しかしあるとき、長男であった兄が恋愛問題がもとで出奔、
父親も若くして急逝してしまい、
突然に彼は、祖父とふたりだけで、取り残されてしまった。
名跡を継がねばならぬ重責が、まだ十代の彼の上に、
一気にのし掛かって来たのだ。

……という感じの設定の夢だった。
どうしてこのような内容になったかは、およそわかっている。
昨夜、現・尾上松緑のインタビューを読んだからだ。
私は彼が左近であった時代から結構観ているのだが、
確か、二代目尾上辰之助を襲名したときには、まだ16歳だった。
その襲名披露も、私は歌舞伎座で観た。

若い身で、大きな後ろ盾を相次いで失い、
音羽屋の名跡と藤間の家元の地位を否応なしに継承した彼にとって、
以後、普通の学生ならば当然甘受している筈の、気楽な日常は、
二度と許されないものになった。
「私は、父と祖父を早くに亡くしましたので」
とインタビュー時の松緑はその間の事情を短い言葉で語っていたが、
それが役者にとってどれほど過酷な運命の転換であったか、
今の私には、ある程度、想像することが出来る。

もっとも、私の夢では、事実はややねじれた形で登場しており、
夢の中の、『恋愛問題がモトで出奔した兄』は、
現実には現・松緑の父、辰之助のエピソードだ(爆)。
真偽のほどはともかくとして、昔、彼が水谷良重(現・八重子)と
いろんなことを噂されたのを、私は夢の中で思い出していたのだ。
現実の辰之助は病を得ても最後まで歌舞伎とともにあったが、
わずか12歳の息子の前から消えてしまったという意味では、
結局は、私の見た夢と同じことだった。

私に、円地文子や皆川博子の才能のカケラ程度でもあったなら、
この夢をもとにして、「役者の業」みたいなものをテーマに
一丁、小説を書くところなのだがな~~~
現実には、勿論そのような才能も、私自身の「業」もないので、
できるのは、束の間、役者の内側を妄想することくらいだ。
惰眠の中で。

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