転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



諸般の事情でこの週末は大阪・京都へ行った。
土曜日は仕事があったので、家を出るときに荷造りし、
旅行かばんを持って職場に行った。
そして仕事が終わるや否や、会社の前からタクシーを拾って広島駅に直行、
来た新幹線に自由席で乗って、大阪に夕方着いた。
忙しかった(^_^;。

……ということで昨日うまく南座初日の昼の部を観ることができた。
南座は久しぶりに行ったのだが、今回のは演目・出演者ともに
最近の東京では望めないような面白さ(私にとって)だったので、
このタイミングで関西に出かけることができたのは本当に良かった。

最初は、昭和の作家・宇野信夫の『吹雪峠』。
最近になって繰り返し上演されているようだが、私は初めて観た。
直吉(亀三郎)・おえん(梅枝)・助蔵(松也)、
と、三角関係の三人のみが出演者という一幕もので、とても短いのだが、
私は三階から観ていたので、吹雪の演出や回り舞台の効果が
全景として非常によくわかり、興味深い箇所がいろいろとあった。
役者では亀三郎が特に、芝居の輪郭が鮮明で素晴らしかった。
そもそも、先月の歌舞伎座の忠信利平でも思ったが、
この人は声と台詞の魅力が半端ないので、役者の『声』に惚れる私としては、
二か月続けて亀三郎を観ることができたのは幸せだった。
松也の助蔵は、かつて松助の演じた役でもあり(当時のは私は観ていない)、
松助の息子がここまで成長したのだと感慨深いものがあった。

素襖落』は松緑の独壇場だった。
昨今、どんどん体型がスレンダーになっている松緑なので、
太郎冠者の扮装をしていると、ますます体の薄さ(@本人比)が目立ったが、
芝居も踊りも前にも増してパワフルで、体力的な問題は全く無さそうだった。
松緑本人は陰な魅力と野性味のある役者さんに見えるのだが、
私はしばしば、舞台での彼には陽の威力を強く感じることがあって、
今回の太郎冠者もその明るい力強さに、文句なく楽しませて貰った。
そのうえ、舞踊ものはこの人の武器でもあって、
太郎冠者の『那須の物語』にしてもそのほかの小舞にしても、
私のように素養のない者が見てもわかるほど、鮮やかな踊りになっていた。
ここでも次郎冠者には松也、三郎吾には巳之助(名代昇進 初御目見得)と、
息子さん世代が顔を揃えて活躍しており、頼もしいことだった。
また、大名某が権十郎で、1月の国立劇場や2月の歌舞伎座では、
若干、声が割れ気味かと思われたのだが、今回は良くなっていて安心した。

そして昼の部の目玉は、菊之助主演の『与話情浮名横櫛』。
音羽屋の旦那(菊五郎)さんは、与三郎とお富のどちらも演じられる役者で
(戦後、両方を演じたのはこれまで菊五郎と9代目宗十郎だけだそうだ)、
更に、近年は金五郎と蝙蝠安まで演っているので、
音羽屋ファンには、様々な意味で縁の深い芝居だと思うのだが、
若い菊之助にとっては、このたびの与三郎は初役だった。

私は菊五郎が四十代になってからの与三郎は幾度か観ているので、
どうしても内心で較べてしまい、菊之助の芝居は硬く感じられたものの、
『切られ与三』になっても以前の若旦那の品がそのままあり、
心までは損なわれていない感じが、とても良かったと思った。
近年の菊之助には、主役の華とともに「芸の筋の正しさ」が
良いかたちで発揮されていると私は感じている。
ちなみに、源氏店の見せ場「おぬしぁ おれを 見忘れたか」の台詞のあと、
パっと着物の股を割って座り直すところで、露わになった菊之助の脚を見て、
私が内心「(旦那さんに比べて)細っっっ!!」と思ったことは内緒だ(逃)。
また、これの序幕では、昨日も書いたように、
松緑が鳶頭金五郎で出ていて豪華だった

私に、時間的金銭的にもっと余裕があったら、
あの客席降りのときの通路沿いの席に座ってみたいものだと思った(笑)。

お富は梅枝
今まで、菊五郎×時蔵コンビをたくさん観せて貰ってきた私だが、
菊之助×梅枝でこんな大きな演目を観られる日が来ようとは、感無量だった。
梅枝は溜息ものの美しさだったが、赤間源左衛門の妾という設定ほどには
色っぽい感じがしなかったように思ったが、違うだろうか(^_^;。
時蔵みたいに艶っぽいところがまだないのは、無理もないか(^_^;。
しかししっとりした声は素晴らしかったし、
和泉屋多左衛門の、実は妹、という種明かしが腑に落ちるように、
お富の暮らしぶりが自然に伝わる配慮が、
2幕目の最初からされていたと思うので、きめ細かくて巧いなとも感じた。

團蔵の蝙蝠安も実はとても楽しみだった。
あの「おとっつぁん(@『魚屋宗五郎』)」が初役で挑む蝙蝠安、
もともと抽出の多い役者さんだとは知っていたが、
こんな楽しい蝙蝠安が観られるとは、予想以上だった。
ぺたりと平伏した格好が特に、私の思う通りの蝙蝠安で、最高だった。


……もしかしたら、まだいろいろ書くことがあったかもしれないが、
とりあえず今、思い出したものは、以上。
あまりに良かったので、やはりできれば夜の部も観たい。
私にチャンスがあるだろうか。
道楽の神様、舞台の神様、お願い致します<(_ _)>。

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