転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



月組ドラマシティ公演、29日12時を娘と一緒に観た。
主演がきりやん(霧矢大夢)だったので、見応えはあるだろうと思った通り、
破綻がなく随所に楽しい見どころがあって、良い舞台だった。

きりやん扮する若手ジャーナリストのホーリー・アシュレイは
温かみもあるし野性味もあるしで、男役らしい所作もごく自然だったし
なんの不安もなく観ていられた。
声も良いしダンスもキレがあるし、きりやんは本当に実力ある主演者だ。
私の思うこの人の魅力は、登場人物との距離の取り方がその都度、適切だという点だ。
ジゼルに対して徐々に接近するときの心のあり方、彼女の正体を知ってのちの気持ち、
身近にいる仲間への態度や、逆に敵対する人への向かい方、等々が、
観ていて快感があるほどよく伝わってきて、実に的確だと感じた。
きりやんの演技を観ていると、物語の中での、そのときのホーリーの立ち位置、
彼を囲む人々の動きや距離感が、本当に生き生きと表現されていたと思う。

相手役の蒼乃夕妃は女優ジゼル・モーガン役。
ブロンドの似合う大人っぽいヒロインで、
台詞声が低めなのも役柄に似合っていて良かったと思う。
少女のままの、真っ直ぐでナイーブな部分が、
これまでの苦しい日々によって、ほとんど封印されかけていた、
という現在の彼女の境遇を、大変にわかりやすく巧く演じていたと感じた。
だが最後に、ボストンに行くと言い、「さようなら」と川のほうを向いたときには、
私は『身投げか!』と誤解し、あとで娘も『死ぬんかと思った』と言っていて、
果たして問題は、演技にあったのか演出にあったのか、
それともこちらの見方が間違っていただけか(汗)。

みりお(明日海りお)くん扮する歌手Z-BOYも好演で、
冷たさや傲岸さと同時に、皆に愛される側面も良く出ていたと思うのだが、
ビジュアルが、昔の浅倉大介みたいで(爆)、娘と大ウケした。
赤いジャケットなんて本当に大ちゃんが着るようなデザインだった(笑)。
その美しいZ-BOYに絡む、ディスコSTUDIO 54の支配人スティーヴ役が、
私の大好きなコシリュウ(越乃リュウ)様だったので、もう萌え萌えだった。
なんと艶やかで妖しい大人の男性なんだろうか!
私の「余裕あるオジサマ」を好む性癖は、年々、拍車がかかっていると思った。
宝塚だから押さえてあったが、スティーヴとZ-BOYは長く深い関係にあったことが明白で、
この二人の間はかなりドロドロしていたのだろうなと想像してしまった。

相変わらず麗しい花瀬みずかがシスター・パメラを演じていて、
かつてはトップ娘役も間近かと思われた彼女が、
こんな母性のある、しっとりした大人の女性役を演じるようになるなんて、
この十年の月日の流れを、なんだか実感してしまった。

青樹泉がカメラマンのバド・ブーンをやっていて、力演だったとは思うが、
脚本的には存在感が薄く、彼がいなくては物語が動かない、
というほどの役割を与えられていなかったのが、どうも残念でならなかった。
彼女の、演技者としての力不足ではなくて、場面構成の関係上、
記者のホーリーがここぞというときに写真を自分で撮ってしまうので、
バドのほうはせっかく写真を本業にしていながら、しどころがなかったのが理由だ。

そういう意味では夏月都のアンナ・マリーも、洋風の黒柳徹子みたいだった割には、
別に物語に決定打を与えるような役柄でもなく、私は観ていて消化不良だった。
彼女はホーリーを外側から大変よく観察してくれていた人だった筈で、
夏月都の演技もそうなっていたと思うのだが、
結局のところ、物語のカギを握る人物とは関係なかった。
飼い犬も含めて、最初から最後まで、とても意味ありげな存在なのだから、
彼女のツルの一声で何かが決まるとか、運命が分かれるみたいな一瞬でもあれば、
観客として欲求不満が残らなかったのになあと思った。

HOT WEEK編集長のルーシーは憧花ゆりのが演じていたが、
私から観ると、これはまさに、デス・レコーズの社長(爆)。
『デトロイト・メタル・シティ』で煙草片手に根岸をいたぶっていた、
あの社長(映画では松雪泰子)の雄姿を、まざまざと思い出してしまった。
これまた宝塚だからこそ、ペプシコーラのラッパ飲みで代用されていたが、
本当はもっとヤバいものを愛飲していたに違いない(笑)と思った。
それにしてもクライマックスのクリスマス・パーティの登場場面での、
「待たせたな、カメラ屋!」
の一言の呼吸は素晴らしかった。私も思わず笑った。

ほか、娘が大変気に入っていたのは、そのルーシーにコキ使われる、
HOT WEEK編集部の若手三人組だった。
細かい芝居をあちこちでしていて、大変愉快だった。
それと、孤児院の子供達の縄跳び場面は、一体どれほど練習したことだろうか。
東京公演になったら更に上達して、達人の領域に達していそうだ(笑)。

全体にとても楽しく観ることができ、ラストも納得できるものだったが、
物語の舞台が1979年ということで、ショー部分の選曲が、
1979年の日本の歌謡曲中心だったのには、困った(笑)。
『ヤング・マン』と『イン・ザ・ネイビー』は洋楽から来たものだからまだいいが、
『銀河鉄道999』『美・サイレント』『ヒーロー』など純然たる日本産音楽が
何か当たり前のようにショーナンバーとして出てきたときには、
あの頃の「ザ・ベスト・テン」がいやでも蘇って、どうもこうも違和感があった。
さきほどまでNYの西54丁目の話を観ていた筈だったのに、
ここからハッキリ「昭和54年」になったものだから。

それと、そうそう、Z-BOYは全米一のロック・シンガーだった筈だが、
彼がジゼルのために作曲したという『My Little Lover』のテーマ曲は、
まさに正真正銘、くっきり宝塚調に染め上げられた一曲だった。
私はこれにも、かなりウケた。アメリカ人にこんな曲が書けてたまるか。
その曲、ニッポンの宝塚の芝居からパクって来たやろZ-BOY?と。
すみません。

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朝起きて、ホテルの部屋でヒゲを剃っていた主人が、
「……ぁ?チャリが……?」
と呟いて、手を止めた。
チャリ、とは広島弁で『もみあげ』のことだ。
見たら、主人のチャリは、右側に較べて左側だけが、
えらく短く刈り上げられていた。
主人は数日前に理髪店に行ったばかりだった。

「短いだろうが!左だけ!」
と主人は気色ばんだ。
「なんやこれ!テクノカットかよ!しかも片テクノ!」

昨日までは家で鏡をろくに見ず、ひげ剃りも電気カミソリだったので
ずっと気づかなかったそうだ。

「ちきしょー。わかっとっただろうに、金取りやがって」
もう二度とあの理髪店には行かん、と主人は怒っていた。
なんしろ、一年の締めくくりの数日、
片テクノで仕事に行ってしまったわけだし。

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