転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



昨日の記事で森雅裕氏のことを少し書いたが、
モーツァルトは子守唄を歌わない』も、
その続編『べートーヴェンな憂鬱症』も、
考えてみたら私にとっては80年代の思い出なので、
出会って既に二十年が経過した作品だった。

ベートーヴェンと、弟子のチェルニーが、
難事件に巻き込まれては、探偵よろしく謎解きをしていく話で、
出てくるエピソードには、史実とされていることもあれば、
作者の創作の部分もあるのだが、
音楽愛好家にとって実に楽しい読み物であるだけでなく、
音楽的な背景を抜きにしても、一般的な娯楽読み物として、
テンポの良い、痛快な展開で、大変面白かったと思う。

本筋とは関係ないのだが、私にとって特に忘れられないのが、
『ベートーヴェンな憂鬱症』の最初に収録されている、
短編『ピアニストを台所に入れるな』で、
何が印象的だったと言って、この中に出てくる、
『ピアノソナタ月光』創作のエピソードだ。
なんとここでベートーヴェンは、このソナタは、
「ヘタなジュリエッタでも弾けるように書いてやった」、
という意味のことを言っていたのだ。

月光、・・・・・。
確かに、第一楽章は丁寧に譜読みをすれば、
出てくる音符をその順番に押さえることは、ヘタでも出来るかもしれない。
しかし、あれほどに複雑で、テーマすらない、つかみ所のない第一楽章が、
「ヘタな」人間に弾けたりするだろうか?

第二楽章になると、リズム感だけでも相当、卓越したものが要求される。
第一楽章の終わりと、第二楽章の出だしの関係について、
いつぞや、ザラフィアンツ氏がご自身の講座で、
かなり時間を取って実演までして語っていらしたものだが、
どうやって第二楽章を始めるかだけでも、半日は考えたい問題だ。

更に、第三楽章になると、いくらアルペジオの連続だからと言っても、
あの速さで弾くのは、「ヘタな」人間には不可能と言っていいだろう。
表示速度で、譜の通りにハズさずに弾くだけでも、
技術的にかなり高いレベルだと言わねばならないと思う。
私などには勿論、弾けません(泣)。

ベートーヴェン先生の「ヘタ」の基準って、何(^_^;。
そばで天才児チェルニーが暗譜でばりばり弾いていたせいで、
その他の学習者は、どんなに上級レベルでも
全員「ヘタ」に分類されていたとしか思われない。

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