解説:ヘイトスピーチ違法性認定…法規制議論に一石
毎日新聞 2013年10月07日
京都朝鮮第一初級学校(京都市)校門前での「在日特権を許さない市民の会(在特会)」による街宣活動を7日の京都地裁判決は「人種差別に当たる」と明確に認定した。
大阪・鶴橋や東京・新大久保など多くの在日コリアンが暮らす地域で、「殺せ」「出て行け」などとコリアン排斥を呼び掛ける街頭宣伝活動が「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」として社会問題になっている。そうした中、今回の判決は画期的だ。
日本も加入する人種差別撤廃条約の第1条は、人種や民族に基づく区別や排除などを「人種差別」と定義。第4条では人種差別の根絶や、差別を扇動する宣伝活動などの処罰を加入国に求めている。日本では4条を「留保」し、この条約に基づく国内法は未整備だが、欧州を中心とした多くの国では規制法が整備され、その対象犯罪は「ヘイトクライム」「ヘイトスピーチ」と呼ばれている。
今回の判決は在特会の行為を「ヘイトスピーチ」とは表現しなかったが、「著しく侮辱的、差別的な多数の発言を伴う」として条約が禁止する人種差別と認定。公益目的も否定し違法性が阻却される余地はないと断じた。実質的にヘイトスピーチの違法性を認定したといえ、今後、国内の法規制議論が活発化することが予想される。
一方、戦前・戦中の経験から、「表現の自由」の規制に慎重な意見は多く、当局による恣意(しい)的運用による言論への萎縮を懸念した消極論も根強い。ただ、街頭で公然と繰り広げられているヘイトスピーチを放置できないのは明らかだ。東京五輪も控え、人種的・民族的差別をなくす取り組みを速やかに進めるべきだ。【松井豊】
京都朝鮮第一初級学校(京都市)の校門前で行われた学校を中傷する大音量の街頭宣伝などヘイトスピーチ(憎悪表現)で授業を妨害されたとして、同校を運営する京都朝鮮学園(京都市右京区)が、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」と元メンバーら9人を相手取り、3000万円の損害賠償と同校の半径200メートル以内での街宣活動禁止を求めた訴訟の判決が7日、京都地裁であった。橋詰均裁判長は在特会の街宣を「著しく侮蔑的な発言を伴い、人種差別撤廃条約が禁ずる人種差別に該当する」と認定した。
◇朝鮮学校周辺の街宣活動禁止
学校事業に損害を与えたとして在特会側に1226万円を支払うよう命じた。学校周辺の街宣活動についても請求通り禁止を命じた。いわゆるヘイトスピーチの違法性を認定したのは全国で初めて。裁判所が、ヘイトスピーチとして問題になっている特定の民族に対する差別街宣について「人種差別」と判断したことで、東京・新大久保や大阪で繰り返される在日コリアンを標的にした差別街宣への抑止効果が予想され、ヘイトスピーチの法規制議論を促すことになるとみられる。
判決は、2009年12月~10年3月、在特会メンバーらが京都朝鮮第一初級学校(当時。現在は京都朝鮮初級学校=京都市伏見区=に移転)に押しかけ、「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「何が子どもじゃ、スパイの子やんけ」などと拡声機で怒号を浴びせた演説について、憲法が保障する「表現の自由」の範囲内かどうかなどについて検討した。
橋詰裁判長は街宣やその映像をインターネットで公開した行為について「在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図のもとに示威活動及び映像公開をしたものと認められ、人種差別に該当」と判断した。
朝鮮学校側の「民族教育権」が侵害されたとの主張については、言及しなかった。【松井豊】
◇子どもの励みに…原告弁護団長
原告側の塚本誠一弁護団長は「同種の街宣事案について、強い抑止効果を発揮すると期待している。日本全国の朝鮮学校で学んでいる子どもたちの大きな励みになる」と話した。
◇認められず残念…在特会副会長
在特会の八木康洋副会長は「我々の行為が正当であると認められなかったのは非常に残念。判決文を精査して控訴するかどうかを考えたい」と話した。
ヘイトスピーチは人種差別 京都地裁判決を歓迎する
市田書記局長が会見
日本共産党の市田忠義書記局長は7日の記者会見で、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の街頭宣伝を「人種差別」と認定した京都地裁判決について、「この判決を歓迎する」と表明しました。
市田氏は「特定の人種や民族、国民に対する常軌を逸した攻撃(ヘイトスピーチ)は、民族差別を助長するものだ。集会結社の自由や表現の自由があるからといって、今回、問題となったような街頭宣伝は許されない」と指摘。国連の社会権規約委員会が日本政府にヘイトスピーチや憎悪表現を防ぐよう勧告したことなどもあげ、「行政当局には、しっかりとした対応が求められるし、ヘイトスピーチを許さない世論を強めることが大事だ」と強調しました。
また、市田氏は、安倍晋三首相や橋下徹大阪市長など公人による侵略戦争美化・合理化の歴史認識をあげ、「日本でヘイトスピーチが公然化する背景には、それを許す政治的土壌がある」と指摘。「こうしたことにもメスを入れる必要がある」と述べました。