北東アジア平和協力構想 緊張激化のなかで広がる共感(3)
相次ぐ多国間の平和構想 協調外交が真の“抑止力”
東アジアの平和的安全保障を模索する動きはすでに現実のものとなっています。昨年11月14~15日にブルネイで開かれた東アジア首脳会議(EAS)18カ国の高官会合で、多国間安保協力による平和を目指す二つの文書案が議題になりました。インドネシア提案の「インド・太平洋友好協力条約」構想と、ロシア、中国、ブルネイが共同提案した「アジア・太平洋安保・協力の原則枠組み宣言」案です。
不十分さ補う
「インド・太平洋友好協力条約」案は、初回で紹介したように、東南アジア友好協力条約(TAC)と同様に「武力行使の放棄」を日米中などEAS参加国の間で法的義務にする構想です。
ASEAN(東南アジア諸国連合)が締結したTACには、すべてのEAS参加国が加入済み。しかし条文上、ASEAN域外国間では武力不行使の義務がありません。
この不十分さを補うために、2011年の第6回EASは互いに戦争放棄を誓約する「バリ原則宣言」を採択。これが条約案の基礎です。
「原則枠組み宣言」は、ロシアが12年に提案した集団安保条約構想が基礎。ロシア国立アジア・太平洋安全保障評議会のトロラヤ氏は「条約締結に向けた行程表を目指す。インド・太平洋友好協力条約と本質的に同じもの」(「ロシアの声」放送、13年12月20日)と言います。
今後も二つの案について話し合い、結果は今秋の第9回EASに提出される予定です。
アイデア次々
武力に頼らずに安全保障を確保する―。さまざまな国際合意とアイデアが出ています。
◇11年7月、ASEANと中国は、紛争の平和的解決を定めた南シナ海行動宣言(DOC)「履行指針」を採択。13年9月、法的拘束力を持つ南シナ海行動規範(COC)策定の公式協議を開始。 ◇13年5月、韓国の朴(パク)槿(ク)恵(ネ)大統領が「北東アジア平和協力構想」を提唱。6カ国協議参加国(韓国、北朝鮮、日米中ロ)が信頼醸成を積み重ねた上で政治・安保協力に進む構想。 ◇同月、ベトナムが「南シナ海武力不行使協定」を提案。ASEANに加え、日米中などの参加も展望。 ◇13年8月、EASと同じ18カ国によるASEAN拡大国防相会議の共同声明が「武力行使の放棄」を明記。
武力不行使と多国間安保協力は東アジアで常識化しています。タイ紙ネーションのカビ元編集長は、「協調的な外交こそが、戦争を防ぐ本当の“抑止力”になる」と語ります。
(つづく)
北東アジア平和協力構想 緊張激化のなかで広がる共感(4)
衝突回避へ民間レベル対話 挑発の禁止・人的交流を
(写真)尖閣諸島魚釣島。奥は北小島、南小島
昨年1月末、東シナ海の公海上で中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊護衛艦に対し、射撃の前提となる火器管制レーダーを照射したというショッキングな報告が明らかにされました。
11月23日には、中国が尖閣諸島上空を含む東シナ海に防空識別圏を設定するという危険な行為に出て、緊張がいっそう激化。日本共産党は撤回を求める見解を発表し、日本の実効支配下にある尖閣諸島を包含していることや、公海上の広い空域を自国の「領空」のように扱っていることを批判しました。
元外務省高官の一人は「海上でも相互の了解がないという本質的に危険な状態だ。それが空では軍と軍の対峙(たいじ)となり、偶発的衝突を回避するための時間があまりに短い」と指摘。「最大の問題はコード・オブ・コンダクト(行動規範)ができていないという危険だ」と警鐘を鳴らします。同氏は、例えば日本とロシアの間の現場司令官レベルでは「レーダー照射は攻撃とみなす」という相互了解が存在し、そのため危険な行動は抑制されると解説します。
協議途切れる
日中政府間では、海上での偶発的衝突を回避するための海上連絡メカニズムの構築で防衛局長級の協議が昨年4月に行われたものの、成果はあがらず、協議は途切れたままです。
一方、政府間の対話が進展しないもとで、民間レベルでの対話の試みが始まっています。
笹川平和財団は「日中海上航行安全対話」の取り組みを進めています。昨年10月21日、北京で行われた第2回会合では、信頼醸成と危機管理が極めて重要だという認識で一致し、「情報の交換・相互の提供、人的交流、挑発行為の禁止、通信の改善」などで具体的に対話が進んだといいます。
間一髪の状態
同財団の日中友好基金事業室長を務める于展氏は「専門家の話や映像資料を見ると、尖閣沖では、日中の3000トン級の船が最接近距離で5、6メートルに接近している。間一髪の極めて危険な状態にある」と指摘。「緊急の“止血”と対話のチャンネルを開くのが私たちの役目」と述べます。1月に第3回会合を東京で開く予定です。
言論NPOは10月に北京で「第9回北京―東京フォーラム」を開催。「両国は戦争に道を開くどんな行動も選んではいけない」という不戦の誓いを含む「北京コンセンサス」を確認しています。
安全保障シンクタンクの日米同盟研究の専門家の一人もこう述べます。
「リアリズムの観点から見れば、どこかで規範作りをしておかないと持たない。あらゆる手段を使ってルールを作るのは非常にクレバー(賢い)なやり方だ。日中衝突を懸念するアメリカも歓迎するだろう」
(つづく)