先日、野口三千三先生と昭和35・6年ごろ、演劇の場で親しくされておられた方と、電話で話をする機会があった。
長年にわたって地方のアマチュア劇団で演出をされていて、一昨年引退された。実質、その劇団のリーダーで、その地方の文化人代表でもある方だ。
野口先生が亡くなる前に、何か困ったことがあったら、相談するといいと言われていた唯一の方だった。まさに言葉とおり、親身になって話を聞いてくださる。そしていつも厳しいご意見もいただく。
劇団を引かれてから、ご自身の最後の締めくくりの仕事にとりかかった矢先に、心臓の病を得て、最近になって手術をなさった。10月に再度入院して、術後の経過をみて、問題があれば再手術をなさると言う。
「今、執行猶予みたいな状態なのよ」
お元気な声が受話器から聞こえてくる。
「野口先生の春秋社から出た『野口体操 からだに貞く』と『野口体操 おもさに貞く』の表紙を送っていただけるかな」
野口先生と出会ったころのことから、親しく交流があった話、野口体操について文章にまとめておくことも最後の仕事一つだとおっしゃる。
そこで、2冊お贈りした。
そのお礼の電話だったのだ。
「びっくりしたよ。柏樹社の本とは印象が違ってね。で、『からだに貞く』の口絵の写真は、初版当時のものではないのに、なぜ、載せたんだろう。時期が異なるものを載せるのは間違っているんだ。記録性という大事なことをないがしろにすることだね」
「春秋社から出版されたとき、この写真を使うということは、一切聞いていませんでした。だから私もびっくりしたんです」
『おもさに貞く』の写真は、柏樹社の編集者が退社するときに整理をしていたら出てきたいうことで、私がいただいた写真があって、それを佐治嘉隆さんが見やすい状態に手をいれて元の形のまま掲載したという事情を話した。
「本からの転写では、ざらつきがひどくてどうしようもなかったんです」
「それはいいことですよ。『おもさに貞く』を書かれた当時の写真なんだから」
つまりおっしゃりたいことは、本はアーカイブスとしての重要な意味を持つもので、そこに時代がまったく違った写真入れることは、読者にとって間違った情報を与えることになると言うことだった。
欧米や韓国に比べて、日本ではアーカイブスに対する考えが甘く、学会が数年前に発足したにもかかわらず、あまり有意義な活動ができる地盤がわが国にはないというようなことを新聞記事で読んだことがある。
2・30分の話のなかで、結局、野口先生の雑誌掲載文や、その他の語録や、著作物をまとめて編集し、写真資料は年代順を追って一冊にまとめて、全体として歴史的な意味を持たせたものに作り上げる必要があると二人の意見が一致した。
「そういった認識が日本ではあまりに欠けている。演出家の岡倉さんのことにしても、まとめをしなければいけない人がやらないんだから腹立たしいんですよ」
82歳の母の世話をしながら、昨晩は眠られぬ夜を過ごした。
「いっそ、外に出る仕事は止めにして、資料の整理を本格的にする暮らしもいいかもしれない。でもすぐにはそうはいかないわね~」
電話の主も母と同い年の82歳・丑年である。
長年にわたって地方のアマチュア劇団で演出をされていて、一昨年引退された。実質、その劇団のリーダーで、その地方の文化人代表でもある方だ。
野口先生が亡くなる前に、何か困ったことがあったら、相談するといいと言われていた唯一の方だった。まさに言葉とおり、親身になって話を聞いてくださる。そしていつも厳しいご意見もいただく。
劇団を引かれてから、ご自身の最後の締めくくりの仕事にとりかかった矢先に、心臓の病を得て、最近になって手術をなさった。10月に再度入院して、術後の経過をみて、問題があれば再手術をなさると言う。
「今、執行猶予みたいな状態なのよ」
お元気な声が受話器から聞こえてくる。
「野口先生の春秋社から出た『野口体操 からだに貞く』と『野口体操 おもさに貞く』の表紙を送っていただけるかな」
野口先生と出会ったころのことから、親しく交流があった話、野口体操について文章にまとめておくことも最後の仕事一つだとおっしゃる。
そこで、2冊お贈りした。
そのお礼の電話だったのだ。
「びっくりしたよ。柏樹社の本とは印象が違ってね。で、『からだに貞く』の口絵の写真は、初版当時のものではないのに、なぜ、載せたんだろう。時期が異なるものを載せるのは間違っているんだ。記録性という大事なことをないがしろにすることだね」
「春秋社から出版されたとき、この写真を使うということは、一切聞いていませんでした。だから私もびっくりしたんです」
『おもさに貞く』の写真は、柏樹社の編集者が退社するときに整理をしていたら出てきたいうことで、私がいただいた写真があって、それを佐治嘉隆さんが見やすい状態に手をいれて元の形のまま掲載したという事情を話した。
「本からの転写では、ざらつきがひどくてどうしようもなかったんです」
「それはいいことですよ。『おもさに貞く』を書かれた当時の写真なんだから」
つまりおっしゃりたいことは、本はアーカイブスとしての重要な意味を持つもので、そこに時代がまったく違った写真入れることは、読者にとって間違った情報を与えることになると言うことだった。
欧米や韓国に比べて、日本ではアーカイブスに対する考えが甘く、学会が数年前に発足したにもかかわらず、あまり有意義な活動ができる地盤がわが国にはないというようなことを新聞記事で読んだことがある。
2・30分の話のなかで、結局、野口先生の雑誌掲載文や、その他の語録や、著作物をまとめて編集し、写真資料は年代順を追って一冊にまとめて、全体として歴史的な意味を持たせたものに作り上げる必要があると二人の意見が一致した。
「そういった認識が日本ではあまりに欠けている。演出家の岡倉さんのことにしても、まとめをしなければいけない人がやらないんだから腹立たしいんですよ」
82歳の母の世話をしながら、昨晩は眠られぬ夜を過ごした。
「いっそ、外に出る仕事は止めにして、資料の整理を本格的にする暮らしもいいかもしれない。でもすぐにはそうはいかないわね~」
電話の主も母と同い年の82歳・丑年である。