まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

鐙瀬溶岩海岸と五島の塩

2019年05月18日 | 旅行記H・九州

だいぶ昔に読んだ紀行文で、作家・池澤夏樹の『南鳥島特別航路』というのがある。「大自然の厳かな営みを、鋭利な科学の眼と真摯な感受の視線で綴る」(背表紙の紹介文)紀行文で、文化や歴史というよりは自然、地学をテーマに各地を巡ったものである(現在は『うつくしい列島』に収録されている)。手にしたのは表題でもある南鳥島やサハリンという、なかなか紀行の対象になりにくいところを巡った話や、私が読んだ当時に行く予定にしていた対馬の話が面白そうだったからだが、その他の文についてもさまざま学ぶことがあり、今でも折に触れ読み返すことがある。

その初めに収められているのが「五島列島のミニ火山群」という文である。五島列島を「小さな日本列島」「日本列島の模型」と見立て、火山活動でできた島々を観察して回るという内容のものだ。その最後に、大昔に大陸や南方から渡って来た人が最初に見た島影が五島列島で、まず島の一つ一つに入植して一族の数を増やし、そしてその先にある大きな島の九州に渡ったのではないかとしている。普段の目から見れば五島は列島の最果て(「辞本涯」)のように見えるが、大陸から見れば列島の玄関口とも言える。

五島に来るのだからその本を持って来ればよかったなと残念がる。そこは頭からスッポリ抜けていた。

バスは福江島の東海岸を走る。遠くに浮かぶのは「さざえ島」。島の名前になるくらいだからサザエも獲れるし、釣りの名所でもある。なぜか車内ではガイドSさんと客との間で「サザエのワタ(肝)を食べるか否か」の話題になっている。Sさんが「五島ではワタを食べない」と言うのに対して、「あのワタの部分が美味いんやろ」という返しが来る。どちらが主流なんだろうか。最後はSさんが、「じゃあ一度食べてみます」と折れていたが。

遠くの沖合いに1台の風車が見える。2016年から稼働している洋上風力発電設備で、海底ケーブルで島内に電力を供給している。タワーを海底に固定するのではなく、水中に浮く構造なのだそうだ。将来的には10基の建設を目指すそうで、これも五島の活性化につながると期待されている。

アメリカヤシやフェニックスの木が生える一帯に来て、鐙瀬(あぶんぜ)溶岩海岸に到着。鬼岳の火山から流れ出た溶岩が海岸に広がっている。全長7キロもあるという。海岸を見下ろす展望台から、鬼岳のこんもりした姿と、荒々しい海岸の景色を見る。前日訪ねた高浜海水浴場の紺碧の海とは対照的な景色だ。

遠くにいくつか島影が見える。人が住むのが赤島、黄島、黒島とある。ただ住むといっても赤島が19人、黄島が47人で、黒島にいたってはたった2人という。その2人というのが御年99歳のお婆さんとその70代の娘だとか。2人といっても最初から2人だけだったわけではなく、半世紀前は200人以上が住んでいたそうだ。ただ島を離れる人が相次ぎ、最後に残ったのが1世帯だけという。黒島へのアクセスは富江から船が週1便あるだけで、電気は通っているが水道は雨水を溜めて・・というところ。どのような暮らしぶりなのだろうか。Sさんは一度訪ねてほしいと勧めていたが・・。

鐙瀬海岸のビジターセンターがあるので見学する。五島の自然について紹介するスポットで、『南鳥島特別航路』の中でも触れていた火山としての五島の成り立ちについても解説されている。

火山が噴火して溶岩が流れ出るが、その破片も各地に放出される。それが大きさによって「火山弾」とか「火山涙」と呼ばれる。それがいくつも展示されている。火山弾はラグビーボールとかレモンに似た形をしたものがあり、火山涙はそれよりも小さいものだが、こうしたものが島内のあちこちで採取されるのも不思議に思う。そこらへんが、日本列島の模型と言われる所以なのだろうが。

椿物産館に着く。こちらで土産物タイムとなるが、その前に併設する塩工房「つばき窯」を見学する。大きな釜にちょうど薪が焚かれていて、作業をしているところだ。塩を一つまみ舐めさせてもらいながら製塩の説明を受ける。昔ながらの海水を煮詰めるやり方で、3~3.5%の塩分濃度が17%くらいになるまで煮たてる。

その後は余熱を利用して水分の蒸発を促し、21%くらいになると結晶化した塩分の上澄みができる。最後は30%くらいの結晶となり、その溶液としてにがりも取る。最後は自然の風に当てて乾燥させる。

こちらのご主人は「塩匠」と称されているそうで、「海の結晶は今や芸術の域に達している」と寄せられた賞賛文も掲示されている。 袋詰めの塩そのものを買ってもいいのだが使うのが難しいかと思い、小瓶に入った焼き塩や昆布塩などを買い求める。ちょっとした味付けにいいだろう。

2日目の観光はここで折り返しとなり、福江の市街地に戻る。午前中最後の時間、そして最後の観光スポットは五島観光歴史館の見学である・・・。

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