夜を走る/佐向大監督
スクラップ工場で働く人たちの人間模様が先ずある。主人公らしい一人は、営業に回ってはいるものの、なかなか仕事を取ってくることができず、いわば上司からいじめられている。そういうある日、この工場に営業にやって来た若い女がいたが、その上司の男がスケベ心を出して飲みに誘う。それはそれで済んだのだが、その女をめぐって、その夜にちょっとしたいざこざが起きて……。
そこで一旦物語が様変わりして、お話は意外な展開を見せ、新興宗教が混ざった妙なことになっていく。いったいどうしてそんなストーリー展開をするのか観ているものは混乱するが、これがまた妙にそのいびつな人間関係を如実に表してもいて、人間が壊れていく様子というか、そういうものが見て取れる。新興宗教がどうだというよりも、いわば何かよりどころの必要な人というのは、そうしたものに頼りながら、自分なりの精神性を保っているのかもしれない。そうしてそれは、今の日本の社会の暗部をあぶりだしているのかもしれない。
この教祖様というのが、また変なリアリティがあって、無茶なことをしているにもかかわらず、迫力があり説得力がある。そうしてこの人物に皆は支配され、しかし同時に頼り切るようになる。ものすごく恐ろしいのだが、逃れられなくなっていくというか……。なるほど、そういう風にして、人々は新興宗教にハマりこんでいくものなのか。しかし宗教でも男を救うことはできないようで……。という展開もあって、そうして映画はどういう答えなのかよく分からないまま終わってしまう。僕らは放り出されてしまうというか。おそらくそういうものを含めて、監督は僕らに問うているのかもしれない。当初の事件があったものの、それはそれでトリガーが引かれるきっかけであり、そうして人々の内面が、どろどろとあふれ出してしまうような、そういう物語なのかもしれない。妙な話を見せられたものだけれど、その変な映画を観たという印象は、強く残るのであった。
低予算というのはよく分かるし、物語の流れも不穏なもののままである。少しは著名な俳優も出ているものの、基本はそういうもので売られている映画ではない。死んでしまった人もいるが、その謎解きさえメインではない。そういう不思議さと付き合えるならば、それなりに見ごたえのある映画なのではなかろうか。