タルト・タタンの夢/近藤史恵著(創元推理文庫)
これはドラマを観て、原作も、ということで買ってあった。何故か読まずにいて(ちょっと読んでいたかもしれない)、改めて手に取った。短編集になっていて、小さなビストロ店の中で起こる、ちょっとした謎解きミステリである。一品一品料理との絡みなどがあって、うまい仕掛けが施されている。探偵は出てこないが、シェフの三舟の洞察力が、そうした謎を解き明かしていく。
出てくる人々にも、ちょっとしたミステリが隠されている感じがする。それはドラマも見ているので知っているはずだが、ドラマのキャストとは、なんとなく違った印象もある。そこのところはあえて変えてあるということかもしれない。もちろんこちらが原作で、これはドラマ化したくなるのもよく分かる。食べ物は旨そうだし、設定も、よく考えると無いのかもしれないが、なかなかによく出来ているとも思う。なるほどと思う仕掛けと、しゃれた文章に唸らされるという塩梅かもしれない。
東京地方なら存在しうる店かもしれなくて、常連の様子も分かるが、なかなかこういう店というのは、見当たらないとも思う。そういうあたりも一つのミステリかもしれなくて、続き物を意識して作られているのかもしれない。いろんな客にいろんな事情があるものである。ソムリエがいて、ひとり一万円以下の店というのもあり得ない気もするが、フランス料理に興味の無い人間でも、こんな店があれば、絶対に通うはずである。フランスにはあり得るのかもしれず、そういう店だからこそ日本にあって欲しいところかもしれない。
まだ続刊があるようで、気になるが、どうしたものだろう。軽いミステリだが、中毒性はありそうなのである。