変身/佐野智樹監督
最初に断わっておくと、特に見る必要のない愚作だと思う。前評判が凄く悪かったので、あまのじゃくな僕は観てみようと思った訳だが、まったく馬鹿げた考えだった。まあ、ひどい作品というのは、機嫌の悪くなるほど頭に来ることもあるんだが、これは途中でダメだと早々に諦めることが出来たので、気楽に馬鹿にしながら観ていたら、最後まで観てしまった。どうしてダメなんだろうとか、哲学的な気分にもなるし、出演している人たちも気の毒で、観ている人はそういうことを楽しむより無いのかもしれない。
原作は東野圭吾の小説。未読だが原作の評判はまずまずで、これが原因ではないのだろう。
主人公は脳移植手術で命が助かったらしい青年。可愛く献身的な彼女がいて、絵画を趣味にしている。平凡ながらやさしい性格の男らしく、何か事件に巻き込まれたらしいことは分かるが、その前はしあわせに暮らしていたのだろう。しかしながら手術の影響があるのは明らかで、何か性格が二重になっていくようで苦しむ。やさしい彼女への愛情も消えていくようで、さらに何か内から湧き上がる凶悪な自分の方が、日に日に強くなっていくのだった。そういう中で、巻き込まれた事件の真相が徐々に明らかになっていくのだが…。
移植された脳が悪さをしているらしいのはすぐに分かるものの、それが何故隠されなければならないのかはよく分からない。このような患者は追跡して調査する必要があるようにも思うが、あんがい医者たちは無頓着だ。さらに周りの人間だって、これだけおかしくなることに、手術による疑問を、もっともっていいように思う。愛する彼女に関しては、立場上恋愛が絡んでいるので、自分を責めるのは分からないではない。しかし相当に可愛い女性なので、執着する理由が今一つ分からない。何か弱すぎるのか、それとも逆に執着する性格が悪いのか、いろいろと疑問だった。不幸な偶然がいろいろ重なるが、そのような人間関係の必然様なものがなんとなく弱く、今一つ感情が乗れないという演出に思えた。まったく残念なことだった。