ザ・タワー 超高層ビル大火災/キム・ジフン監督
題名通りそのまんまの作品。一応群像劇になっているが、それぞれの話に深みがあるわけではない。ひねりもほとんどない。後に死んだりする人もだいたいわかる。そういう意味では驚くべき演出と言えるかもしれない。そのような分かりやすさでストレートにパニック映画をつくったということなんだろう。特撮も迫力あるし、娯楽映画としては楽しめる人も多いだろう。
ツインタワーの高層ビルの火災ということと、クリスマスのパーティの演出として本物の雪を降らせることにこだわった為に大きな事故が起きてしまったという展開になる。いろいろ思うことはあるのだが、これが韓国映画であるために、近隣の国である日本人には、この精神性というものが、なんとなく分かる、ということもある。アメリカをはじめとする近代国家の象徴のような建物があって(実際には無いが)、特撮ではあるが雪を降らせるようなハイテクのような設備を付けたヘリを飛ばして楽しいイベントを盛り上げようとすることが可能であるという設定(実際はどうなんだろう)と、実にハリウッドが作りそうな映画を自国でも、ほとんど同じように作ることが出来るという(日本だと、たぶんこんなつくりには確かにならないだろう。映画的には韓国はある意味で確かに日本より進んでいるように見える技術もたくさんあるようだ)自負があってこの企画が通ったのだろうと思われる。笑いのツボは、かなり妙な具合の仕上がりになっているし、繰り返すが、物語に驚くほど深みが無いつくりも、ハリウッドの娯楽的な感じとあいまっている。似たような思考が、彼らの共通意識としてあるのかもしれない。大衆的には及第作なんだろうけど、そういう訳で個人的には、かなり残念な感じの映画だった。得意とする韓国的な血縁のしがらみなんかを物語に絡ませた方が、よっぽど面白くなったのではなかろうか。
しかしながらこれは、別段韓国が悪いせいではない。そのような思想に絡められてしまった社会が悪いということだろう。おそらく他の国だって、このような映画の方が企画が通りやすくなっているのではなかろうか(予算もあろうが)。日本映画で多くなった内向きなものがいいとは思わないまでも、韓国には、実に個性的で魅力的な映画をたくさん作る底力があるはずである。そういう映画ばかりではないのは当然であっても、こういうものが量産されてしまうようになると、かなり残念なことだと思うのである。