カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

劇薬だが飲んでみるべし   聲の形

2016-12-22 | 読書

聲の形/大今良時著(講談社)

 全7巻。漫画。前にも書いたと思うが、地元の弁論大会の休憩時間に、この原作をもとにした短時間ドラマの放映があった。僕はそれで初めて見たのだが、ひどく感情を揺さぶられる思いがした。たぶんそれがきっかけで買っておいたのだと思う。あらためて手に取って、また引き込まれて読んだという訳だ。
 漫画なので、必ずしもリアルな描写ということでは無く、デフォルメした極端さはあるのかもしれないが、むしろそのために、やはりひどく感情が揺さぶられる。いわゆる学校のいじめ問題を正面から取り上げていることと、障害児統合教育問題にも踏み込んで描いている。やはり極端だとは思うが、障害児と家庭問題、いじめと自殺についても、真正面から切り込んでいると思う。そのストレートさがこの漫画の一番の持ち味で、しつこいくらいに行ったり来たりの葛藤があって、その原因と結果である二人が、改めて恋愛を通じで悩むところに、物語の可能性があるようにも思う。よく考えると、やはりあり得そうには無いのに目をつぶるとしても。
 確かに冷静になって考えてみると、物語のエピソードには、小さいながら様々なあり得なさというのは散見される。しかし、それをも問題にしない真実がここに描かれていることが、何より凄い力になっている。いじめ問題はありふれているが、突き詰めて個人に還元して考えていくと、このような地獄絵図の世界であろうことが目の前に提示されているのだ。これが現実世界で、そしてよく見ないと見えない世界なのだ。みんな知っていたはずなのに…。
 主人公たちの考え方そのものは、多かれ少なかれ誰もが心の中で考えたことがあるだろうことだと思う。一方の聴覚障害の少女も、普通はここまではあり得なさそうだが、しかしもとになっているだろう感情は、理解できなくはない。そのように生きたい人間がいてもおかしくは無い。さらにそうだったからこそ、物語はきっかけをつかんで進むことが出来たのかもしれない。また、主人公の少年を好きな、過去の加害者の女の子においても、いつまでも自分のおかしさに気付けない葛藤を、荒削りに露出させている。それはそれで人間らしいともいえるかもしれない。
 この物語にはいくつもの可能性があるように思う。ひねた人間ばかり出てくるようで、ストレートで正直だし、地獄絵図ながら、本当に救われないままでお話が終わるわけではない。しかしただの楽観主義でもない。それぞれの立場の人も、ある意味でちゃんと描かれているし、ぶつかり合いは激しいにしても、逃げてばかりでない希望が見える。思うに、基本的にそういうことから避けてばかりいる現実が、いじめ問題そのものの根本的な問題だったのかもしれない。そうして多様な、気持ち悪さを隠さない、いろんな人を描き分けている。
 やはりこれは、現物を多くの人に見てもらうより他に無いと思う。非常に可能性の高い、劇薬的な漫画ではないだろうか。
コメント
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