風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「わりなき恋」

2017-11-14 | 読書


テレビでも紹介されたらしく、いろんな意味で話題になった本。
悪い方では、不倫に否定的な方々からの「倫理的にどうなのか」とか
「セレブな生活をひけらかしているだけで非現実的」だとか
若い読者からは「還暦間近の男と古希間近の女の醜悪な関係」だとか
果ては、実話が元になっているらしく
モデルとなった男性を推測したゴシップだとか・・・(^^;
まぁ版元との絡みで、いろいろ裏ではあったようだけど
そんなことはどうでも良いし、興味もない。

純粋に小説の1作品として気になり、手に取ってみた。
有名女優である作者がどんな小説を書いたのかという興味だった。
まぁ純粋な小説の作品としてはそれほどでもない感じ。
読み始めてすぐに結末が予測できる展開。
実話が元だからなのか、客観的な表現というよりは感情が先に立ち、
作品の世界に作者自身が酔ってしまっているような描写。
恋する相手の(だからこそか?)過剰なまでの美化。

とはいえ、
この作品の存在意義はそういうところにあるのではないと思った。
誰しもがそうだと思うが、
いくら歳を重ねても、いくつになったとしても、
さまざまな経験を積み重ね、体は衰え、分別がわかるようになっても、
生まれた時からその人自身の意識は変わらない。
私だって、心の中は高校生の頃や20歳ぐらいと何も変わっていない。
人は見た目で存在するわけではなく、ひとりの人格として存在している以上、
その瞬間、瞬間の行動はおそらく若い頃と何も変わらない。
50を過ぎようと、還暦を過ぎようと、80を過ぎようと。
ただ少しずつ捨て去るものが増えてきて、諦めに支配されるだけだ。

だから、「落ちる」ものである恋に年齢は関係ない。
もちろんメンタルな恋も、フィジカルな恋も。
この作品の読むべきところは、
そういう描写から一切逃げていないことだと思う。
歳を重ねたのちの恋物語などいくらでも書くことができるだろう。
しかしここまで書ける人はどれほどいるだろう。
女性として持ち続けている少女のような心と、
相反して衰えてしまった体とのギャップ。
主人公はそれに悩み、とうとう病院にまで通うのだ。
そんな心の内の描写に、この作品の存在意義はあると思う。

男は衰え枯れる。
いかに艶やかな気持ちだけ持ち続けたとしてもそれが現実だ。
だが女はいくつになっても女なのだなと
改めて本作を読んで実感。

「わりなき恋」岸恵子:著 幻冬舎文庫
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