風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「さいはての二人」

2015-03-09 | 読書
帯には「今、ふたたびの鷺沢萠」のコピー。
そう、自分にとってもひさしぶりだ。
忘れていたわけじゃない。
初めてデビュー作「川べりの道」を読んだ時の驚き。
その後続けて作家読みしたのは
ワタシが女流作家を読みはじめたきっかけとなった。
若いのに老練な文章と深い心象風景は
本作も期待を裏切らない。

 「だから、つまり、実験だったワケだよねぇ」
 「実験?」
 「うん。
  ただ単に日本をヘコませて戦争を終わらせたいっていうだけなら
  同じものを使ったっていいワケじゃない?
  リトル・ボーイがどれだけの威力持ってるかは
  三日前にもう判ってるんだし。
  もっと言えば、二発目は使わなくて良かったかも知れない。
  降参しなきゃ二発目落とすぞ、って、
  言って脅すだけで済んだかも知れない」
 「ああ、そういう意味で実験・・・」
 「うん。それに、やっぱり人間だからさぁ。
  せっかく二種類のモノができたんだから、
  両方使ってみたい、っていうような気持ち、
  どっかに必ずあったはずだと思うよ」

静かな語り口と深い洞察、地に足がついた安定感。
そして底辺を流れる悲しみと哀愁。
そこには半島にある自らの出自と
それを受け入れる絆や人間愛があると思うんだ。
デビュー時の彼女に貼られた
「美人女子大生作家」というレッテルは
少なくても彼女にはお門違いの下世話なイメージを植え付け
売らんかなという出版社の思惑を外れて
逆にマイナスに作用したのではないかと思う。

「さいはての二人」鷺沢萠:著 角川文庫
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