風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「若くなるには時間がかかる」

2016-04-14 | 読書

男でも、女でも
若い頃よりある程度歳を重ねた後の方が
味がある良い顔になる人がいる。
男なら、最近大河ドラマで再ブレイク中の草刈正雄さんや
コミカルな役で新境地を開いた佐藤浩市さん、阿部寛さんなど。
女なら小泉今日子さんや風吹ジュンさんかな。
個人的には吉永小百合さんや石野真子さんなんかも
若い頃より今の方がいい顔してると感じる。
そしてその代表格が火野正平さんだと思うんだ。

本書の中で自ら語っているけれど
若い頃は数々のスキャンダル(笑)で注目浴びる以外は
はっきり言って役者としてはバイプレイヤーだよね。
キャーキャー騒がれる存在でも、
ブロマイド(古っ)がばかすか売れる存在でもなかった。
でもNHK-BS「ニッポン縦断こころ旅」で見る火野さんは
本当に味のあるいい顔をしている。
やんちゃな「男の子」のままいい感じの爺さんになったような
まだまだ危険な香りを漂わせつつ
どこか肩の力が抜けたノーテンキさがとてもいい。
こちらまでふーっと張り詰めた息を吐き出したくなる存在。

「若くなるには時間がかかる」
とはご本人が気に入ったピカソの言葉なのだとか。
その流れで、本書では章が変わるたびに
有名な方々のいい感じの言葉をピックアップしている。
第1章の終わりに書いてある、ジョージ・バーンズの言葉
「年を取るのは仕方ないが年寄りになる必要はない」
は、まさしくこの人の座右の銘みたいな言葉だし
「恋とスキャンダル」と銘打たれた第7章の最後にあった
「愛情をケチってはいけない / ジークムント・フロイト」
には思わず笑ってしまった(^^;
でも一番心に響いたのは、
「俺って、こんな商品です」というタイトルの第9章あとにあった
「人生とは自転車のようなものだ。
 倒れないようにするには走らなければならない
               / アルバート・アインシュタイン」
この人の、一見テキトーに見えるポーズや生き方は
「それでいいんだよ」と我々を励ましてくれているのかも。
子役時代から芸能界という厳しい世界で生きてきて
様々な逆風(時には突風や嵐も)にも倒れず
いい歳の取り方をしている火野さんは
それなりに(見えないところで)自転車をこぎ続けてきたのかもね。

聞き書きのような本書の内容は、
いかにもこの人らしく飄々とした言葉ばかりだけど
章末のこれらの言葉が火野さんの裏側を言い表しているようで
本書全体を引き締めるとても重要な役目を果たしている。
なるほど、こんな編集の仕方もあるんだな。
勉強になる。

自分には火野さんのような生き方はできないけれど、
最後の章の「これからのこと、死に様」は心から同意。
足るを知りながら、体が丈夫ならなんとかなるという気持ち。
そして死んだ後は散骨してくれという。
「そこに骨を撒いてもフヮ~ッとどっか行っちゃうんだからさ」
うん。それもいいな。
でもそこはまともに答えない火野さん。
今の「母ちゃん」や戸籍上の「母ちゃん」や他の女性たちに
骨をみんなで分けてもらってもいいよと宣う。
「それを分骨払いという」
そこか(笑)

「若くなるには時間がかかる」火野正平 講談社
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