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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

サイマル演劇団×コニエレニ『狂人と尼僧』

2019-08-22 | 舞台

日本・ポーランド国交樹立100周年記念事業 スタニスワフ・イグナツ・ヴィドキェーヴィチ(通称ヴィトカツ)作 関口時正翻訳 赤井康弘演出 公式サイトはこちら シアターバビロン流れのほとり 25日まで
 
サイマル演劇団1,2,3)とコニエレニ1のコラボ公演である。作家のスタニスワフ・イグナツ・ヴィドキェーヴィチ(以下通称のヴィトカツィ)は、1885年ワルシャワに生まれた劇作家、画家、哲学者である。彼が生涯の大半を過ごしたというポーランド南部の小さな町、ザコパネは、Wikipediaを見ると、多くの芸術家を魅了した町であるとのこと。ヴィトカツの父はザコパネ・スタイルという木造建築の創始者で、「息子のヴィトカツィは画家として活躍した」と控えめに記されている。公演チラシには、「現実からの解放を目指す「純粋形式」を提唱。1939年ソ連軍のポーランド進攻の報に接して自殺」と紹介されている。関口時正の新訳による本邦初上演となる初日を観劇した。

 本作は約100年前に発表され、のちのイヨネスコやベケットにも影響を与えたとのこと。当日リーフレットには「不条理演劇の走りとも言える作品」とあり、やや気構えながらの観劇となった。

 精神病院の隔離室に収容されているのは、かつて人気を博した詩人のヴァルプルク(山本啓介)。彼の命運は医師のブルディギエル(竹岡直記)とグリン(気田睦)が握っており、精神医学をめぐる医師たちの権力闘争も絡み、2年以上も自由を奪われているヴァルプルクのもとへ、若く美しい尼僧アンナ(赤松由美)が遣わされる。狂ってしまった人を魂の救済に導くためではなく、ブルディギエルからの「病人のコンプレックスを突き止めよ」の命を受けてのことである。

 冷静、冷徹に接するアンナであるが、目の前の狂人(とされている)が、かつて婚約者とともに愛読していた詩の作者であると知ってにわかに心が騒ぐ。狂人と尼僧の関係はどう変化するのか、二人はこの病室から脱出できるのか。

 次第に捻じれ、中盤からまさかの展開になり、そこからさらに奇想天外な終幕まで、1時間の短編でありながら、台詞ひとつで人物の関係性が変容し、力関係が逆転する緊張感漲る舞台である。本作は「不条理演劇の走り」とのことだが、丹念に台詞を重ね、劇空間が周到に構築された作品だ。しかし、開幕前から客席に後姿を見せるだけだった老医師のヴァルドルフ(田村義明)が最後に炸裂気味に登場するところなど、「シュール」と言ってよいものか、自分の感覚がわからなくなる体験であった。もちろんいい意味で。

 なかなか出会う機会のない作家の作品であり、今後も違う劇場で、違う切り口の上演が試みられることを願っている。8人の俳優は、自分の持ち場を的確に捉えた造形で、この厄介だが底知れぬ魅力をもった戯曲へ熱意をもって取り組んだことが伝わる。ただ時計の振り子音を終始流す趣向については、俳優の台詞が客席に確実に届くことに対する妨げも何らかの劇的効果として捉えるべきなのか、演出の目指す地点がわかりかねるところがあった。

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