
*公式サイトはこちら 歌舞伎座 27日まで
5月の團菊祭に続いてこの月も襲名披露が行われた。
【昼の部】
☆「元禄花見踊」・・・出雲阿の国(尾上右近)、名古屋山三(中村隼人)を軸に、元禄の男女が華やかに踊る一幕。尾上眞秀があるバラエティー番組で「(右近は)顔(化粧)がすごくうまい」と言っていた通り、顔はもちろん、すがたや踊りの所作に見惚れる。女形も立ち役も何でもこなす人なのだ。
☆「菅原伝授手習鑑」より
「車引」・・・梅王丸の六代目尾上菊之助、桜丸の上村吉太朗、松王丸の中村鷹之資いずも初役とのこと。菊之助は小さなからだを精一杯拡げて見得を切る。母方祖父の二代目吉右衛門が得意としていた梅王丸、これから何度も演じる機会があるだろう。杉王丸役の9歳・中村種太郎もよく頑張った。中村又五郎の藤原時平が引き締める。おお、この方も初役であった。
「寺子屋」・・・八代目尾上菊五郎が2度めの松王丸に挑んだ。八代目は「同時解説イヤホンガイド」のインタヴューで、寺子屋の子どもたちを父親たちが迎えに来る場面のことを語っている。わが子が菅秀才の身代わりにされては一大事と必死の思いで駆けつける場面である。父と子の素朴で温かな愛情の場における松王丸の気持ちを考えるのだと。この場は劇中で唯一ほっとできる場面であり、自分は毎回涎くりと父親のやりとりに心を奪われて、松王丸の辛い心象を考えたことはなかった。この時点で松王丸の息子・小太郎は寺子屋の奥で、まだ生きているのだ。八代目は物語をここまで細やかに捉える人なのか。小太郎が母・千代(中村時蔵)に連れられて登場する「寺入り」の場は今回初めて観たのではないか。この場があって、終幕の「いろは送り」の場の悲しみが一層深まる。
☆「お祭り」・・・片岡仁左衛門の鳶頭は、粋でいなせで男前。まさに江戸一の男ぶりである。芸者おやすの片岡孝太郎も色香たっぷりで美しい。しかしふたりが頬を寄せ合う場面で、舞台が放つ超絶の幸福感はやはり仁左衛門と玉三郎ならではのもの。1本めの「元禄花見踊」に出演した尾上右近が、ここでは清元栄寿太夫として清元の立唄をつとめる。兄の清元斎寿が三味線をつとめ、きょうだい共演となった。劇中では音羽屋の襲名を言祝ぐ台詞のやりとりがあり、当人方が出演していない舞台にも喜びと祝福が溢れる。
【夜の部】
☆歌舞伎十八番の内「暫」・・・もしかするとこの演目を観るのはこれが初めてではないだろうか。團十郎白猿の大音声の迫力が舞台を統べる。
☆「口上」・・・前列に菊五郎ふたり、菊之助、左右に幹部俳優ふたりずつ、後列に音羽屋一門が座すかたちは先月と同じ。片岡仁左衛門の口上は意外と危なっかしいところがあるが、それすら魅力である。菊之助のことを、「最初はこの坊やだいじょうぶかと思いましたが・・・」と言葉を濁すあたりも。菊之助は喉の調子が少し心配である。
☆「連獅子」・・・舞踊は物語であることを改めて感じさせる。八代目菊五郎が、蹴落とした子を見守る表情のなんと温かく優しいこと。しかしながら、このところ子の年齢が低くなっていることが気がかりだ。このたびの菊之助、中村勘太郎、長三郎のきょうだい(2024年2月猿若祭二月大歌舞伎)、尾上眞秀(2024年9月第八回「研の會」)いずれもしっかり踊っているが、もう少し骨格がしっかりしてからでも良いのではないか。
☆「芝浜革財布」(しばはまのかわざいふ)・・・中村萬壽は華やかな姫君、たおやかな奥方などの美しい役柄のイメージが強いが、たとえば「お江戸みやげ」で演じたお辻もいい。地方色丸出し、吝嗇で鳴らしながら、一目惚れした役者に一肌脱ぐ。客席を大いに沸かせながら、最後はほろりとさせる人情噺にもぴたりと嵌まる。今回は愛情深い世話女房役で、亭主役の尾上松緑との息も合って味わい深い。できれば年の暮に観たいもの。


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