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Milton, Paradise Lost (9: 896-916)

ジョン・ミルトン (1608-1674)
『楽園は失われた』 (9: 896-916)
(アダム 「君なしでは生きていけない」)

この世でいちばんきれいな君・・・・・・神が最後に、いちばん
いいものとしてつくった君・・・・・この世で見えるもの、
頭に浮かぶもの、そのいちばんいいものを集めたかのような君・・・・・・
清らかで、神々しくて、善良で、やさしくて、そして美しかった君!
君が堕ちてしまうなんて、こんなに急に堕ちてしまうなんて、どういうことなの?
美しさを失って、花を失って、死ぬ人、滅びる人となってしまうなんて?
ねえ、君はどうして背いてしまったの?
あの厳しい禁止の命令に? どうしてあの神聖な、
禁じられた果実に手をつけてしまったの? よくわからないけど、
邪悪な敵の策略か何かにだまされたんだよね?
君といっしょに、ぼくも、もうおしまいだね。だって、
ぼくも死ぬんだから・・・・・・。もう決めてる。
ぼくは君なしじゃ生きられない。君と話すこと、愛しあうことなしでは
生きられない。あんなに楽しかったんだから。幸せだったんだから。
この誰もいない森でひとりで生きていくなんて、もういやだよ。
たとえ神がもうひとりイヴをつくってくれても、あばらを
もう一本とるだけだとしても、君のことは
忘れられない。絶対に無理。ぼくと君は、
もともとつながってるんだ。君はぼくの肉から、
ぼくの骨からできてるんだ。だから、ぼくは君と
絶対に別れない。幸せなときも、そうでないときも、だよ。

* * *
John Milton
Paradise Lost (9: 896-916)

O fairest of Creation, last and best
Of all Gods works, Creature in whom excell'd
Whatever can to sight or thought be formd,
Holy, divine, good, amiable, or sweet!
How art thou lost, how on a sudden lost, [900]
Defac't, deflourd, and now to Death devote?
Rather how hast thou yeelded to transgress
The strict forbiddance, how to violate
The sacred Fruit forbidd'n! som cursed fraud
Of Enemie hath beguil'd thee, yet unknown, [905]
And mee with thee hath ruind, for with thee
Certain my resolution is to Die;
How can I live without thee, how forgoe
Thy sweet Converse and Love so dearly joyn'd,
To live again in these wilde Woods forlorn? [910]
Should God create another Eve, and I
Another Rib afford, yet loss of thee
Would never from my heart; no no, I feel
The Link of Nature draw me: Flesh of Flesh,
Bone of my Bone thou art, and from thy State [915]
Mine never shall be parted, bliss or woe.

* * *
人間すべての原罪が(ほぼ)確定する場面だが、
ミルトンは、この場面を美しく、そしてある意味
人として正しいものとして描いている。

キリスト教倫理的にいちばん悪い場面が、
いちばん美しく、そして正しい、という。

(サタンの描写についても同様。キリスト教
倫理的にいちばん悪い存在が、ある意味、
いちばん魅力的な存在、となっている。)

キリスト教における教義・神話・世界観・倫理などを
聖書や各種神学思想にのっとってきちんと描き切り、
かつ同時に、キリスト教倫理とは齟齬する、きわめて
人間的な価値観を軸に心ゆさぶる物語をつくっている
ところに、ミルトンの視野の広さ、社会や人に対する
洞察や深さ、思考の幅や奥行、のようなものを見るべき
だろう。

『楽園は失われた』は、極端な宗教性(急進的な
プロテスタント思想、いわゆるピューリタニズム)と、
極端な世俗性(ルネサンス的、古典文学的な、
人間的、世俗的で、時として非道徳的な思考)を、
等しくあわせもっている。つまり、そこに含まれるのは、
16-17世紀イギリスの思潮における両極端であると同時に、
いわばヨーロッパのキリスト教文明における過去と
未来のすべてである。

(上の場面のようなアダムを、たとえば、信仰のために
家庭を棄てることを当然のこととして描く--というか、
家庭をほとんど描かない--バニヤンの『巡礼の旅』
(『天路歴程』)と比べてみる。ミルトンが現代の側に
いることがよくわかるだろう。)

* * *
英語テクストは、以下のものを使用。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
reading_room/pl/book_9/index.shtml

* * *
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参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
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Milton, Paradise Lost (9: 780-833)

ジョン・ミルトン (1608-1674)
『楽園は失われた』 (9: 780-833)
(イヴが禁断の木の実を食べる)

・・・・・・軽はずみにもイヴは、禁断の木の実に手をのばし、
それをもぎとり、そして食べた。運命の瞬間であった。
大地は傷つき、自然が
生んだすべてのものも嘆き、ため息をつき、こういっているかのようであった、
すべてが失われた、と。罪深いヘビはこそこそと
茂みに戻っていった。これにイヴは気づかなかったが、それはしかたがない。
果実の味に夢中になっていて、他のことなど目に入らなかった
からだ。彼女は思った、これほどおいしい果実なんて
食べたことない、と。本当にそうなのか、知恵が手に入るという期待から
そう妄想したのかは、怪しいところだ。神になる、という夢想も忘れてはいなかった。
イヴはその実を頬ばり、むしゃむしゃと食べた。止まらなかった。
〈死〉を食べているとも気づかずに。やがて満足し、
ワインに酔っているかのように、陽気に、楽しげに、
彼女はひとりで話しはじめた。
「うわ、もう、最高! 効きすぎ! この木が
いちばん! 賢くしてくれるなんて、
まさに神さまの力ね。これまで知らなかったし、悪いものだと思ってた。
この実、わたし、ほったらかしにして、役立たずみたいに
見てた。でも、これから毎朝、ちゃんと世話するわ。
歌でたたえて、賛美して、
そして実りの重荷をおろしてあげる。
みんなにどうぞって、枝がさし出されてるんだから。
毎日この実を食べて、わたし、もの知りに
なるの。何でも知ってる神さまたちみたいに。
あ、そうそう、知識をひとり占めしたがる神さまたちもいるようね。そんなこと、
無理なのに。知識がそんな神さまたちのものだったら、こんなふうに
ここに知識の木なんか生えてるはずないもの。それから、〈経験〉って
大事よね。最高の道しるべだわ。〈経験〉を恐れていたら、
わたし、バカなままだった。〈経験〉することで〈知恵〉が
手に入ったのよね。それまで隠れていたような〈知恵〉が、よ。
うふ、たぶん、わたし、ばれてないわ。天国は高くて、
高くて遠くて、地上のことなんか
はっきり見えるわけないし。それから、いろいろ忙しいはずだから、
あの、ダメっていってた神さま? も、ずーっとこっちなんか
見てるはずないわ。スパイにいろいろ任せっきり
なんだし。・・・・・・でも、アダムには
なんていおう? わたしが変わったことを
ちゃんと教えてあげて、この幸せを
半分こしようかな? それとも、やめとく?
知識でリードしたんだから、そのままで
いてもいいよね? そしたら、女に足りない部分が
補えて、アダムもわたしのこと、もっと好きになってくれたりなんかして?
彼と対等になって、で、もしかしたら、
ちょっとうれしいかもなんだけど、ときどきわたしのほうが
上になったり、しちゃうかも? だって、下にいたら自由なんてないんだし。
でも、それはいいとして、もし、わたし、神さまにばれてて
死ぬことになっちゃったらどうしよう? わたしがいなくなったら、
アダムは別のイヴと結婚するのかな?
そして末永く幸せになっちゃったりするのかな? わたしなしで・・・・・・。
うわ、そんなの、考えただけで死にそう! 絶対無理! うん、決めた!
アダムにも知識の幸せをわけてあげる。それか、死をわけてあげる。
わたし、アダムが好き。あの人がいれば
死も平気。あの人がいなかったら、わたし、死んじゃう。

* * *
John Milton
Paradise Lost (9: 780-833)

. . . her rash hand in evil hour [780]
Forth reaching to the Fruit, she pluck'd, she eat:
Earth felt the wound, and Nature from her seat
Sighing through all her Works gave signs of woe,
That all was lost. Back to the Thicket slunk
The guiltie Serpent, and well might, for Eve [785]
Intent now wholly on her taste, naught else
Regarded, such delight till then, as seemd,
In Fruit she never tasted, whether true
Or fansied so, through expectation high
Of knowledg, nor was God-head from her thought. [790]
Greedily she ingorg'd without restraint,
And knew not eating Death: Satiate at length,
And hight'nd as with Wine, jocond and boon,
Thus to her self she pleasingly began.
O Sovran, vertuous, precious of all Trees [795]
In Paradise, of operation blest
To Sapience, hitherto obscur'd, infam'd,
And thy fair Fruit let hang, as to no end
Created; but henceforth my early care,
Not without Song, each Morning, and due praise [800]
Shall tend thee, and the fertil burden ease
Of thy full branches offer'd free to all;
Till dieted by thee I grow mature
In knowledge, as the Gods who all things know;
Though others envie what they cannot give; [805]
For had the gift bin theirs, it had not here
Thus grown. Experience, next to thee I owe,
Best guide; not following thee, I had remaind
In ignorance, thou op'nst Wisdoms way,
And giv'st access, though secret she retire. [810]
And I perhaps am secret; Heav'n is high,
High and remote to see from thence distinct
Each thing on Earth; and other care perhaps
May have diverted from continual watch
Our great Forbidder, safe with all his Spies [815]
About him. But to Adam in what sort
Shall I appeer? shall I to him make known
As yet my change, and give him to partake
Full happiness with mee, or rather not,
But keep the odds of Knowledge in my power [820]
Without Copartner? so to add what wants
In Femal Sex, the more to draw his Love,
And render me more equal, and perhaps,
A thing not undesireable, somtime
Superior: for inferior who is free? [825]
This may be well: but what if God have seen
And Death ensue? then I shall be no more,
And Adam wedded to another Eve,
Shall live with her enjoying, I extinct;
A death to think. Confirm'd then I resolve, [830]
Adam shall share with me in bliss or woe:
So dear I love him, that with him all deaths
I could endure, without him live no life.

* * *
ミルトンは、かわいい、愛すべき女性として
この場面のイヴを描いていると思う。

* * *
英語テクストは、以下のものを使用。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
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* * *
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Milton, Paradise Lost (9: 679-732)

ジョン・ミルトン (1608-1674)
『楽園は失われた』 (9: 679-732)
(サタン 「禁じられた木の実なんて食べても平気」)

「うん、君は聖なる木、知恵ある木、そしてその知恵を与えてくれる、
知識の母のような木だね。今、ぼくは君の力を感じるよ。 680
はっきりとね。ぼくには見えるんだ、
原因のうちに結果が。それから、いちばんかしこい神々の
考えるようなことも読める。どんなに難しいことでもね。
ねえ、あなた、この世の女王さま、信じなくてもいいですよ、
死についてのあの恐ろしい脅しなんか。だって死なないんですから。
死ぬ、ですって? この実で? むしろ命が手に入るんですよ、
知識だけでなく。脅してくるあの彼の手で死ぬ? ぼくを見てくださいよ。
あの実をとって食べたのに、まだ生きてるし、
運命で決まってた以上の完璧な生きかたが
できるようになってます。上をめざすことによって、です。690
ぼくみたいな動物に許されることが人間に禁じられるなんて、
ありえます? 神が怒りに燃えあがったりしますか?
こんなささいな過失で? むしろほめてくれるんじゃないですか?
何ものも恐れることなく、いいことをするんですから。
死刑という脅しにも屈せず(そもそも死ってなんでしょう?)、
より幸せな生、善悪についての知識を
もたらす行為を貫くのですから。
善についての知識を手に入れるって、いいことですよね? 悪についても、もし
悪が本当にあるのなら、知っているべきでしょう? うまく避けるために。
つまりです、神はあなたに危害を加えたりしません。そんなことをしたら、もはや神は 700
正しくないですよ。そして、正しくない神なんて、もう神じゃありません。恐れることも従うことも
ないんです。ほら、死はこわいから、逆に死は恐れなくていい、ということになりました。
さて、では、なぜこの木の実は禁じられてるのでしょう? たんにこわがらせるためだけ、
あなたを無知で下等にしておくためだけなんじゃないですか?
そのほうが、彼を崇拝させるために都合がいいんです。彼は知っています。
この木の実を食べたら、澄みわたっているようで
実は曇っていたあなたの目がぱっちりと
開いて透明になり、そして神々のようになれるのです。
彼らと同じように、善と悪についてわかるようになるのです。
ぼくが人間のように、少なくとも内面的には人間のようになったのだから、710
あなたが神々のようになるということは、まさに当然ですよね。
ぼくは獣から人間になって、あなたは人間から神になる。
そう、だから、いいかたによっては、あなたは死ぬ、ということになるんでしょう。
人間の特徴を棄てて、神々の能力を身につけるのですから。すばらしいじゃないですか、
まるでこわいもののようにいわれてますが、こんなことが死だったら。
それから、そもそも神って何なんでしょうね? 神と同じものを
食べてたら、人間だって神になれるんじゃないですか?
それから、神々はぼくたちよりも前からいて、そのことをうまく利用して
ぼくたちに信じさせてます、彼らがすべてのものをつくった、って。
それはどうかな、と思うんですよ。だって、この美しい大地とか、見てください。720
太陽にあたためられて、あらゆるものを生み出してますよね。
これに対して、彼らが何かつくったのを見たことありますか? もし彼らがすべての
ものをつくったというのなら、誰がこの木に善と悪の知識を閉じこめたんでしょうね?
だって、この木の実を食べたら、彼らの許可もないのに
知恵が手に入るんですよ? それから、何がいけないんでしょうね?
人間が知識を得たとしても、ね? あなたが知識を得て、
神が困ることなんてないでしょう? そもそもこの木に、神が禁じている知識を
与える力なんてあるんでしょうか? すべてが神の思うがままだとしたら?
あ、もしかしたら、神がただ人間に対して意地悪をしてる、ってことでしょうか?
でも、神の胸に意地悪な考えが浮かぶなんて、ま、まさか・・・・・・・ねえ・・・・・・。730
こんなことをいろいろ考えると、やっぱりあなたはこの木の実を食べなくてはなりません。
人間である女神さま、ほら、手をのばして、ご自由にお召しあがりくださいませ。」

* * *
John Milton
Paradise Lost (9: 679-732)

O Sacred, Wise, and Wisdom-giving Plant,
Mother of Science, Now I feel thy Power [680]
Within me cleere, not onely to discerne
Things in thir Causes, but to trace the wayes
Of highest Agents, deemd however wise.
Queen of this Universe, doe not believe
Those rigid threats of Death; ye shall not Die: [685]
How should ye? by the Fruit? it gives you Life
To Knowledge, By the Threatner, look on mee,
Mee who have touch'd and tasted, yet both live,
And life more perfet have attaind then Fate
Meant mee, by ventring higher then my Lot. [690]
Shall that be shut to Man, which to the Beast
Is open? or will God incense his ire
For such a petty Trespass, and not praise
Rather your dauntless vertue, whom the pain
Of Death denounc't, whatever thing Death be, [695]
Deterrd not from atchieving what might leade
To happier life, knowledge of Good and Evil;
Of good, how just? of evil, if what is evil
Be real, why not known, since easier shunnd?
God therefore cannot hurt ye, and be just; [700]
Not just, not God; not feard then, nor obeyd:
Your feare it self of Death removes the feare.
Why then was this forbid? Why but to awe,
Why but to keep ye low and ignorant,
His worshippers; he knows that in the day [705]
Ye Eate thereof, your Eyes that seem so cleere,
Yet are but dim, shall perfetly be then
Op'nd and cleerd, and ye shall be as Gods,
Knowing both Good and Evil as they know.
That ye should be as Gods, since I as Man, [710]
Internal Man, is but proportion meet,
I of brute human, yee of human Gods.
So ye shall die perhaps, by putting off
Human, to put on Gods, death to be wisht,
Though threat'nd, which no worse then this can bring. [715]
And what are Gods that Man may not become
As they, participating God-like food?
The Gods are first, and that advantage use
On our belief, that all from them proceeds;
I question it, for this fair Earth I see, [720]
Warm'd by the Sun, producing every kind,
Them nothing: If they all things, who enclos'd
Knowledge of Good and Evil in this Tree,
That whoso eats thereof, forthwith attains
Wisdom without their leave? and wherein lies [725]
Th' offence, that Man should thus attain to know?
What can your knowledge hurt him, or this Tree
Impart against his will if all be his?
Or is it envie, and can envie dwell
In Heav'nly brests? these, these and many more [730]
Causes import your need of this fair Fruit.
Goddess humane, reach then, and freely taste.

* * *
神はアダムとイヴに、知識の木の実を食べることを禁じている。
サタンは、彼らにこの禁を犯すよう仕向けたい。なぜなら、
神の意に反するということは、それまでにサタンがしてきたこと
であり、こうすることによって人間がサタンの仲間、神の敵と
なるから。

上の一節は、イヴに禁断の木の実を食べさせようとする
(ヘビに化けた)サタンの誘惑の言葉・議論。思うに、ポイントは、
支離滅裂とはいわないまでも、この議論が一貫していないこと。
もっともらしい議論の寄せ集めであること。しかし、イヴは
これに屈して禁断の木の実を食べる。(人類最初の罪=原罪を犯す。)

679-92 (日本語訳上の行数)
禁断の木の実を食べると善悪の知識が手に入る。

685-86
禁断の木の実を食べても死なない。

688-97
脅しに屈せず上をめざすのはいいこと。

698-99
善悪の知識は望ましいもの。

700-2
禁断の木の実を食べることは正しいことで、
これを禁じる、あるいは罰するような神は神ではないから、
従う必要もない。

703-5
人間に知識を禁じることは、神の支配にとって都合がいい。

706-15
死とは神と同等の知恵を手に入れること。望ましいこと。

716-17
神と同じものを食べれば神になれる。

718-22
神がすべてのものをつくった、というのは嘘。

722-25
神がすべてのものをつくったのなら、神の許可がなければ、
禁断の木の実も、それを食べた者に知識を与えることが
できないはず。

725-27
人間が知識を得ても、神は困らないはず。

727-28
神が禁じているような知識を与える力は、
知識の木の実にはない。

729-30
神が知識の木の実を人間に禁じているのは、
神が意地悪だから。そして、意地悪な神など、
本当の神ではないはず。

(夢の論理に関してフロイトが提示した「やかんの議論」を
思い出す。やかんを借りて穴をあけて返した人の言い訳--
1. 穴は直したはず、2. 穴なんてあいていない、3. やかんなんて
借りていない。)

いずれにせよ、一気にたたみかけるように語ることにより、
サタンの議論はある種の説得力をもつように見え、また
イヴが誘惑に屈することも、ある種やむをえないように
感じられるようになる。

これはある種のリアリズム。日常生活における会話・対話は、
往々にして少なからぬ矛盾をはらむが、しかし話す人によって、
また話しかたによって、説得力があったりなかったりする。
往々にしてそのような観察眼がミルトンの作品には感じられる。

(探偵小説的な厳密な論理性やそういう意味での完成度
のようなものは、そもそも17世紀の作品には存在しない。)

* * *
英語テクストは、以下のものを使用。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
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Milton, Paradise Lost (4: 8-113)

ジョン・ミルトン (1608-1674)
『楽園は失われた』 (4: 8-113)
(サタン 「オレの存在が地獄そのもの」)

・・・・・・今、
サタンが、怒りの炎に燃えてやってきた。
人間を糾弾するのではなく、誘惑するために、である。
まだ罪を知らぬ、しかし罪を犯しうる人間に対して、天国での
敗北および地獄への逃亡の腹いせをしよう、というのだ。
勇敢で気高いサタンに、恐れるものなどない。
が、今の彼は、首尾上々、と得意げなようすでもない。
彼がはじめようとしている恐ろしい企てが、
頭をかけめぐり、また乱れる胸のなか沸騰しているのだった。
それは、まるで、悪魔の兵器の
自爆・・・・・・。恐怖と疑念で
思考が荒れる、乱れる。内なる地獄が
底から沸きたつ。そう、地獄は、
彼のうちにあった。また、彼をとりかこんでもいた。だから、サタンは、
地獄から一歩も抜け出せない。どこに行こうと
自分から逃げられないのと同じように。今、良心が、眠っていた
絶望を揺りおこす。苦い記憶を呼びさます。
過去の自分の姿、今の姿、そして未来の姿・・・・・・今より
さらに堕ちているに決まっている! 悪事を重ねれば苦しみも重なるのだ。
時おり、目の前に広がる楽しげな
エデンの園を、サタンは悲しげにじっと見つめる。
時おり、空、そして熱く燃えさかる太陽を見つめる。
今は正午--太陽はそびえたつ塔の上にあるかのよう。
そして、深く思い悩みつつ、彼はため息まじりに、こう話しはじめた--
「おい、おまえ、おまえは何よりも輝く冠をのせて、
神みたいな支配の座からこの世を
見下ろしている・・・・・・おまえがいると、星たちはみんな光を失い、
隠れてしまう・・・・・・そう、おまえだ、オレはおまえを呼んでいるんだ。
友だちだから、じゃないけどな。そうだな、名前で呼んでやろう、
おい、聞け、太陽、オレはおまえの光が大嫌いだ。
思い出してしまうからな。どんな高い地位から
落ちたか、をな。昔のオレは、おまえより輝いてた。
でも、オレは傲慢になって、いけない野心にかられて、落ちてしまった。
天国を支配する最強の王と戦って・・・・・・
うおおおおお! なんということを!? あんなこと、オレは
やっちゃいけなかった。あいつはオレをつくり、
輝く高位につけてくれた。やさしいから、
誰かを責めたりしなかった。あいつに仕えるのなんて、まったく楽なことだった。
あいつを称えることくらい楽な仕事なんてあるか?
ないよな? あいつに感謝することだって、
あたりまえだよな? でも、あいつが善良だから、オレが悪くなってしまった。
悪いことを考えるようになってしまった。高い地位についたから、
服従するのが嫌になった。もう一歩のぼれば
最高の地位につける、一瞬にして
膨大な、無限の感謝の借りをチャラにできる、と思った。
実際、こいつは重荷だった。払っても払っても負債が増えてくんだから。
あいつからいつもどんな恩恵を受けてるか、とか忘れてたし、
わかってなかった、感謝する者は
借りをつくると同時に返済しているのだと、感謝の
借りと返済は実は同じことなのだと。重荷なんて、はじめからなかったんだ。
なあ、あいつが強力な運命で定めて、
オレがもっと身分の低い天使だったらよかったのにな。そしたら、
オレ、幸せだったかもな。身のほど知らずな望み、
野望なんて抱かなかっただろうな。いやいやいや、そうでもないか。誰か、
オレくらい身分の高い奴が同じ野望を抱いて、身分の低いオレを
仲間に引き入れてたかもしれないしな。でも、オレくらい身分が高くても
堕落しなかった天使もいるよな。自分から悪いこと考えたり、
外から誘われてフラフラしたりしないでさ。誘惑なんて寄せつけません、ってな。
オレにもそういう自由な意志や、誘惑に耐える力がなかったのかな?
いや、あったよな。・・・・・・じゃ、誰のせいだ? 何がいけなかったんだ?
もちろん、誰にでも等しく与えられる天からの愛だよな。
あいつの愛を呪ってやる。だってよ、愛も憎しみも、
オレにとっては同じこと、この先、永劫につづく不幸をもたらしやがったんだからな。
・・・・・・バカいえ、おまえ自身を呪え、オレ! あいつの意に反して、自分の意志で
自由に選んで、今嘆いている状況に陥って・・・・・・
うおおおおお! バカなオレ! どこに逃げればいい?
永遠につづく怒りから? 永遠につづく絶望から?
どこに逃げたって、そこに地獄がある! だってオレが地獄そのものだから!
深い地獄の淵の底にいるのに、さらに深い淵が
口をあけてオレを飲みこもうとしている。
これに比べたら、オレたちが落ちてたあの地獄なんて、まるで天国だな。
・・・・・・はあ、もうお手上げだ。まだ間にあうかな?
悔いあらためたりしたら、さ。許してもらえるかな?
ま、あいつの支配下に入れば、ってことだよな。でも、敗北を認めるなんて、
オレのプライドが許すわけないし、恥ずかしいよな、
地獄に落ちた天使たちになんていえばいいんだろ? オレが誘ったんだもんな。
いろいろ約束して、偉そうなこといって、
まさか降伏だなんてな。全能者とやらを征服してやる、とか
いっちゃったもんな。はああ、あいつら、知らないんだよな。
あんな大嘘のおかげで、オレがどんだけつらいことになってるか、ってな。
オレは、心のなかで拷問に泣いてる、ってのによ。
地獄の王とかいってあいつらがオレを崇めたてまつって、
冠やら笏やらあてがってもちあげてても、
でも、オレは落ちつづけてる。最高の地位にいて、
そして、最高に悲惨・・・・・・。野望を抱いたごほうび、ってことだな。
でも、もし、オレが悔いあらためて、もし
特赦によって前の地位に戻れたとしたら、どうかな? いや、高い地位に
戻れば、すぐに傲慢な考えが復活するに決まってる。降伏なんて
嘘でした! っていうに決まってる。苦痛がなくなれば、苦痛のなかで
誓ったことなんて無効、暴力によっていわされた、って取り消すに決まってる。
本当の和解なんて無理なんだ、
殺したいほどの憎しみが深い、消えない爪跡を残してるんだからな。
結局、オレは、より悪い罪を犯し、
より深く堕ちて、そしてより重い罰を受けるだけなんだ。高い代償を払って、
しばしの息抜きと、そして二倍の苦痛と苦悩を買うだけなんだ。
今、オレを罰しているあいつも、これを知ってる。だから、オレと和解する気なんて
あいつにはないし、オレも和平なんて求めない。
さて、これでもう希望なんて絶滅だな。追い出されたオレたちのことなんて
もういいから、新しくつくられて、今、あいつに大事にされている
人間と、そいつのためにつくられたこの世界のことを考えよう。
さらばだ、希望! 希望といっしょに消えろ、恐怖心!
さらばだ、良心! もうオレに善はいらない!
悪、これからはおまえがオレの善だ! おまえとともに、
オレは天の王とこの世の支配権を
分けあうんだ。たぶん、この世の半分以上はオレのものになるはずだ。
遠からず、人間やこの新しい世界にも思い知らせてやるからな。」

* * *
John Milton
Paradise Lost (4: 8-113)

. . . now
Satan, now first inflam'd with rage, came down,
The Tempter ere th' Accuser of man-kind, [10]
To wreck on innocent frail man his loss
Of that first Battel, and his flight to Hell:
Yet not rejoycing in his speed, though bold,
Far off and fearless, nor with cause to boast,
Begins his dire attempt, which nigh the birth [15]
Now rowling, boiles in his tumultuous brest,
And like a devillish Engine back recoiles
Upon himself; horror and doubt distract
His troubl'd thoughts, and from the bottom stirr
The Hell within him, for within him Hell [20]
He brings, and round about him, nor from Hell
One step no more then from himself can fly
By change of place: Now conscience wakes despair
That slumberd, wakes the bitter memorie
Of what he was, what is, and what must be [25]
Worse; of worse deeds worse sufferings must ensue.
Sometimes towards Eden which now in his view
Lay pleasant, his grievd look he fixes sad,
Sometimes towards Heav'n and the full-blazing Sun,
Which now sat high in his Meridian Towre: [30]
Then much revolving, thus in sighs began.
O thou that with surpassing Glory crownd,
Look'st from thy sole Dominion like the God
Of this new World; at whose sight all the Starrs
Hide thir diminisht heads; to thee I call, [35]
But with no friendly voice, and add thy name
O Sun, to tell thee how I hate thy beams
That bring to my remembrance from what state
I fell, how glorious once above thy Spheare;
Till Pride and worse Ambition threw me down [40]
Warring in Heav'n against Heav'ns matchless King:
Ah wherefore! he deservd no such return
From me, whom he created what I was
In that bright eminence, and with his good
Upbraided none; nor was his service hard. [45]
What could be less then to afford him praise,
The easiest recompence, and pay him thanks,
How due! yet all his good prov'd ill in me,
And wrought but malice; lifted up so high
I sdeind subjection, and thought one step higher [50]
Would set me highest, and in a moment quit
The debt immense of endless gratitude,
So burthensome, still paying, still to ow;
Forgetful what from him I still receivd,
And understood not that a grateful mind [55]
By owing owes not, but still pays, at once
Indebted and dischargd; what burden then?
O had his powerful Destiny ordaind
Me some inferiour Angel, I had stood
Then happie; no unbounded hope had rais'd [60]
Ambition. Yet why not? som other Power
As great might have aspir'd, and me though mean
Drawn to his part; but other Powers as great
Fell not, but stand unshak'n, from within
Or from without, to all temptations arm'd. [65]
Hadst thou the same free Will and Power to stand?
Thou hadst: whom hast thou then or what to accuse,
But Heav'ns free Love dealt equally to all?
Be then his Love accurst, since love or hate,
To me alike, it deals eternal woe. [70]
Nay curs'd be thou; since against his thy will
Chose freely what it now so justly rues.
Me miserable! which way shall I flie
Infinite wrauth, and infinite despaire?
Which way I flie is Hell; my self am Hell; [75]
And in the lowest deep a lower deep
Still threatning to devour me opens wide,
To which the Hell I suffer seems a Heav'n.
O then at last relent: is there no place
Left for Repentance, none for Pardon left? [80]
None left but by submission; and that word
Disdain forbids me, and my dread of shame
Among the Spirits beneath, whom I seduc'd
With other promises and other vaunts
Then to submit, boasting I could subdue [85]
Th' Omnipotent. Ay me, they little know
How dearly I abide that boast so vaine,
Under what torments inwardly I groane:
While they adore me on the Throne of Hell,
With Diadem and Sceptre high advanc'd [90]
The lower still I fall, onely Supream
In miserie; such joy Ambition findes.
But say I could repent and could obtaine
By Act of Grace my former state; how soon
Would higth recall high thoughts, how soon unsay [95]
What feign'd submission swore: ease would recant
Vows made in pain, as violent and void.
For never can true reconcilement grow
Where wounds of deadly hate have peirc'd so deep:
Which would but lead me to a worse relapse [100]
And heavier fall: so should I purchase deare
Short intermission bought with double smart.
This knows my punisher; therefore as farr
From granting hee, as I from begging peace:
All hope excluded thus, behold in stead [105]
Of us out-cast, exil'd, his new delight,
Mankind created, and for him this World.
So farewel Hope, and with Hope farewel Fear,
Farewel Remorse: all Good to me is lost;
Evil be thou my Good; by thee at least [110]
Divided Empire with Heav'ns King I hold
By thee, and more then half perhaps will reigne;
As Man ere long, and this new World shall know.

* * *
20
The Hell within him, for within him Hell
鏡構造の行。地獄--彼のうちに--彼のうちに--地獄

25-26
Of what he was,
what is,
and what must be Worse;
[W]asとWorseの意地悪な音あわせ。
20世紀的な言いかたをするなら、「不完全なパラライム」。

75
Hell; my self am Hell
ふたたび鏡構造--is ではなく am なのは、
my と音をあわせるため。

* * *
英語テクストは、以下のものを使用。
http://www.dartmouth.edu/~milton/
reading_room/pl/book_4/index.shtml

* * *
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Milton, Paradise Lost (1: 84-124)

ジョン・ミルトン (1608-1674)
『楽園は失われた』 (1: 84-124)
(サタン 「負けるもんか!」)

おまえ、か? フッ、落ちたもんだな。
変わっちまったな・・・・・・。幸せだったよな、あの光の国で、おまえ、
みんなよりもキラキラしてた、輝いてた、よな。
もちろん、みんなキラキラしてた・・・・・・。オレたち、誓ったよな。
ふたりで考えて、心を決めて、希望を抱いて、
危険を冒したよな。あの輝かしくもやばい仕事で、な。
オレたち、いっしょに戦って、そして、今、いっしょにどん底だ、
なかよく破滅だ。なんて深いところによ、
なんて高いところから、落ちたものか・・・・・・。あいつ、思ったより強かったからな、
雷なんか使いやがって。戦うまでは誰も知らなかったよな、
あのひどい武器の破壊力なんてよ。でもな、そんなん知るか、ってもんだ。
あいつが怒って、また攻めて
きたとしても、オレは悔い改めない。オレは変わらない。
見かけは変わっても、輝きをなくしちまっても、オレはオレだ。あの決意、
あいつを見下す気高い心・・・・・そもそもちゃんと認められなかったから、
最強のあいつと戦ったんだろ?
あの誇り高き戦い・・・・・・
他の天使のやつらもたくさんついてきたよな。武器もって、さ。
みんな、あいつの支配よりもオレのほうがいいっていってたぜ?
あいつ、神のくせに全力出して、オレたちも押し返して、
あの天の戦い、いい勝負だったよな。あいつの王座だって、
ぐらついてただろ。勝ち負けなんて関係ないぜ。
負けて全部失ったわけじゃない。心はまだ折れてない。
復讐だぜ。あいつへの憎しみは絶対に消えないし、
オレたち勇敢だから絶対降伏なんてしないよな。ゴメンナサイ、とかいわないよな。
つまりさ、オレたち、負けてない、ってことだ。
あいつがどれだけ怒り狂っても、あいつがどれだけ強くても、
オレを負かす、なんて栄誉はやらん。
頭下げて膝ついて、どうかお許しを、とか
いって一回勝っただけのあいつを神と認めるなんて、
(ついさっきまであいつ、オレにびびって、
国がやべえ、とかいってたんだからな)、そんなの、ダサすぎだろ。
まさに不名誉、恥ずかしいよな。
地獄落ち以下だ。〈運命〉ではじめから決まってるだろ、
オレたち神だから、力は衰えないし、からだも傷つかない、ってさ。オレたちは死なないんだ。
一回やらかしちまった後でも、オレたちの
戦闘能力は落ちてないし、むしろ読みは鋭くなってる。
だからよ、前よりいい結果めざして、やってみようぜ。
武器を使ってもいい、策略を使ってもいい、死ぬまで戦うんだ。
和平なんて無理だ、あいつは最大の敵だから。
今ごろ大喜びで勝利に乾杯してやがって、
天で独裁して、好き放題やってるあいつと戦うんだ。

* * *
John Milton
Paradise Lost (1: 84-124)





* * *
天国での戦いにおいて神(と神の子)に敗れ、地獄に落とされたサタンが、
炎の湖のほとりで、かつての仲間のビエルゼバブ(と思しき堕天使)を見つけ、
話しかける場面。

サタン(悪に走る前の名はルシファー)が堕天使のトップで、
ビエルゼバブがナンバー2。

* * *
以下、訳注と解釈例。

84-92
構文は、次のようなかたち。

If thou beest he . . . (条件節),
if [thou beest] he. . . (条件節のくり返し)
into what Pit fallen? (帰結節)
「もしおまえがわたしの知っている彼なら・・・・・・
なあ、オレたち、どれだけ落ちてきたんだ?」

But O how fall'n! から四行、Myriad though brightまでは
挿入された節。口語的/会話的に、連想が飛んで、大枠の構文からは
独立して発展して、という感じ。

なお、本来、92行目のfall'nの後にピリオドがあるべきだが、
口語的/会話的に話がつづいていることを示すために、
コンマで次の文へとつなげられている。

84 thou
二人称単数の代名詞の主格。話しかけている相手をあらわすもの。
主として自分より地位が低い相手に対して使う。

84 beest
Beの仮定法二人称単数形。Thouに対応してbeが活用している。
If thou beest he = If you should/could be he

84 fallen
(過去分詞、形容詞)
高い場所から降りて/落ちてきた(天国から地獄へ--OED, "fallen" 1)
高い地位から落ちて/堕ちてきた(天使から堕天使へ--OED, "fallen" 5)。

加えて、受け身の構文(how thou art fallen)でもあるので--
(神に)「落とされた」(過去に落とされた、というだけではなく、
過去に落とされて、現在落ちている状態である、ということ。)

85 Realm[s]
王国(kingdom)(OED 1-2a)。"the Realms of Light" は天国のこと。
「王」国なのは、天国(実際この世すべて)を、
神が王として支配しているから。領域、場所(OED 2b-c)。

86 transcendent
形容詞。他の同種のものより勝る(OED 1)。

87 If he
If [thou beest] he. . . .

86 outshine
動詞。他のものより輝く(OED 1)。輝いているのは、天使だから。
同じ行のtranscendentと不必要に意味が重なっている。が、このように、
特に地位的なことがらについて、他の者と自分(ここでは自分の舎弟的な
ビエルゼバブ)を比べたがり、そして自分(たち)が上にいないと
気がすまないのが、ミルトンの描くサタン。いつでも地位にこだわる。

88 counsel[s]
決意、目的、意図、計画、企画、陰謀(OED 4)。

91 ruin
建物などが、崩れ、倒れること(OED 1a)。
社会的破滅(財産、地位などを失うこと)(OED 6a)。
絶望的にみじめな状態(OED 7)。

91 Pit
地面に掘られた穴(OED 1)。地獄(OED 4)。

91 thou seest
現代英語のyou see--「わかるだろ」、「な?」、「ね?」、
というニュアンスの挿入句--のようなかたちでここに入っている。
散文的に直すと、ここは、次のような間接疑問の構文。
Thou seest into what Pit [and] from what highth
[thou art / we are] fall'n.

92-93
「神は雷をもっていて、だからその分強かった」
=「雷がなければ、オレたちが勝っていたはず」

たとえ神に雷がなくても、本来サタンらは神に敵わないはずなのだが、
その事実を認めようとしていないことをあらわす。そこが、まさにサタン的。

92 the stronger
ここのtheは定冠詞ではなく副詞。次の行のwith his Thunderと
対応して、「だからますます」。

以下の言葉からもわかる通り、サタンにとっては、
強いかどうかがほとんど唯一の価値基準。

93 He
神のこと。サタンは「神」ということばを使わない。
神を唯一絶対的な神と認めていないから。
(表向きに強がっていて。)

93 Thunder
ギリシャ/ローマ神話における最高神ゼウス/ユピテルの武器。
聖書においても神(イエス・キリストではなく、父なる神、主)の武器
(出エジプト記9:23など)。

98 merit
高い評価や褒賞や感謝に値すること(OED 3a)。
称賛や高い評価に対する要求、またこれらを要求する
権利や資格(OED 4a)

99 the mightiest
神のこと。通常、Mightiestと大文字で表記して、
神をあらわす固有名詞とするところだが、そうしていない。
サタンは、神=最強の者、と認めていないから。
たまたま、結果的に、今回はヤツがいちばん強かったが、
次の戦いがあったら違う結果もありうる、というような意識があって。

99 fierce
気高く勇敢な(OED 2, 古語)。誇り高き、傲慢な(OED 3, 古語)。
野獣のように暴力的で激しい(OED 1)。

サタンと神との戦いは、自分を美化したがるサタンの視点から
見れば「気高く勇敢な」もの。しかしキリスト教的な価値観において、
それは、「傲慢な」もの。(「傲慢」prideとは、中世以来の神学に
おける「七つの大罪」のうち、もっとも大きな罪。) さらに、
ゲンコツや、弓や、銃や、せいぜい大砲程度の武器による
人間の戦いにくらべて、神や天使など霊的な存在による戦いは、
はるかに「暴力的で激しい」。

---
キリスト教的道徳における「傲慢」(pride)とは、神によって
与えられているもの(地位、性質、能力、外見など)以上のものを
求める、あるいはそれに値すると考える、人間の心や意識を指す。

「傲慢」から「妬み」(envy)が生まれる--
ホントはオレのほうが高い地位に値するはずなのに、
なんであいつが・・・・・・。

「傲慢」から「怒り」が生まれる--
なぜオレが認められない? なぜオレに地位がない?
金がない?

「傲慢」から「怠惰」(sloth)が生まれる--
オレには能力があるはずだから、コツコツとケチな努力なんか
する必要ない。そんなことしなくても、高い地位につけるはず、
なんでも手に入るはず。

「傲慢」から「貪欲」(greed/avarice/covetousness) が
生まれる--
地位をくれ、金をくれ、みんなくれ。

---
103 utmost
最大限の。サタンを倒すために、全力を出して、本当に
懸命になって、神は戦った、ということ。あくまで、これは、
サタンの妄想。実際は、

サタン率いる堕天使軍 VS 善良な天使軍
=引き分け

サタン率いる堕天使軍 VS 神の子
=神の子の完勝、まったくお話にならないくらいの圧勝。
(神自身は戦いに出てきてすらいない。)

これを「惜しい戦いだった」、「ヤツも必死だった」というところが、
サタンの欺瞞。人間くさいところ。

104 Plains
広がる空(OED 1c)。戦場(OED 2)。

105 study
目的達成のために向けられる思考や努力(OED 4a)。
夢想、実のともなわない思考(OED 3b)

110 Glory
栄誉や名声をもたらすもの。自慢の種(OED 3)。

116 by Fate
神ではなく、「運命」が、この世に存在するものすべてを
支配している、というサタンの考えがあらわれている。
(これはあくまで対外的な見解で、心の底ではサタンも、
神の支配を理解し、また認めている。第四巻の独白参照。)

なお、「運命」は、ギリシャ/ローマ神話では女神として
神格化されている。ここの発言においてサタンは異教的
(異教的な運命の神 > キリスト教の神)。

116 Gods
天使たちのこと。その対外的発言において、サタンは、
神と天使たちのあいだの違いを認めない。

117 fail
不足する、なくなる、消える、力を失う、死ぬ(OED I)。

122 grand Foe
Grand=もっとも位の高い、最大の(OED 2-3)。Foe=敵。
普通、「最大の敵」(arch enemy, arch foe) といったら
サタンのこと。(Satanとは、ヘブライ語、ギリシャ語、ラテン語などの
「敵」、「敵対する」ということばから由来。)

* * *
上の英文テクストは、John Milton, Paradise Lost (1674) より。
以下は、Milton Reading Roomのもの。

If thou beest he; But O how fall'n! how chang'd
From him, who in the happy Realms of Light [85]
Cloth'd with transcendent brightness didst out-shine
Myriads though bright: If he Whom mutual league,
United thoughts and counsels, equal hope
And hazard in the Glorious Enterprize,
Joynd with me once, now misery hath joynd [90]
In equal ruin: into what Pit thou seest
From what highth fall'n, so much the stronger prov'd
He with his Thunder: and till then who knew
The force of those dire Arms? yet not for those,
Nor what the Potent Victor in his rage [95]
Can else inflict, do I repent or change,
Though chang'd in outward lustre; that fixt mind
And high disdain, from sence of injur'd merit,
That with the mightiest rais'd me to contend,
And to the fierce contention brought along [100]
Innumerable force of Spirits arm'd
That durst dislike his reign, and me preferring,
His utmost power with adverse power oppos'd
In dubious Battel on the Plains of Heav'n,
And shook his throne. What though the field be lost? [105]
All is not lost; the unconquerable Will,
And study of revenge, immortal hate,
And courage never to submit or yield:
And what is else not to be overcome?
That Glory never shall his wrath or might [110]
Extort from me. To bow and sue for grace
With suppliant knee, and deifie his power,
Who from the terrour of this Arm so late
Doubted his Empire, that were low indeed,
That were an ignominy and shame beneath [115]
This downfall; since by Fate the strength of Gods
And this Empyreal substance cannot fail,
Since through experience of this great event
In Arms not worse, in foresight much advanc't,
We may with more successful hope resolve [120]
To wage by force or guile eternal Warr
Irreconcileable, to our grand Foe,
Who now triumphs, and in th' excess of joy
Sole reigning holds the Tyranny of Heav'n.

http://www.dartmouth.edu/~milton/reading_room/
pl/book_1/index.shtml

* * *
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Spenser, From The Faerie Queene, 1.1-3

エドマンド・スペンサー
『妖精の女王』 1巻1-3歌より

(アーキメイゴーの魔術により、レッドクロスとユーナが
離れ離れになる場面)

* * *
(登場する人物など)

The Redcross Knight:
主人公の騎士。一応、アレゴリーとしてはイングランド、
イングランド国教会、信仰(holiness)をあらわす。

Una:
レッドクロスとともに旅をする高貴な女性。
最終的には彼と結婚する。
名前の意味は、「一」=真理。

Archimago:
名前の意味は、「大魔術師」

悪霊二人:
アーキメイゴーの手下

Morpheus:
夢の神

ライオン

* * *
1.1.29
(レッドクロスとユーナたちは、アーキメイゴーに出会う。
アーキメイゴーは善人のふりをしている。)

1.1.33
(レッドクロスたちは、アーキメイゴーの家で一晩泊まることになる。)

1.1.36
(レッドクロスたちが寝た後、アーキメイゴーはよからぬ魔術に
とりかかる。)

1.1.38
(アーキメイゴーは、幻を見せる二人の悪霊を呼び出す。)

1.1.43-44
(アーキメイゴーの指示により、悪霊のひとりは夢の神
モルペウスのところに行き、悪夢を手に入れてくる。)

1.1.45
(その間、アーキメイゴーはもうひとりの悪霊を
偽のユーナに仕立てあげる。)

1.1.46
(アーキメイゴーは、眠るレッドクロスのところに
二人の悪霊を送りこむ。)

1.1.47
このように指示されて、悪霊二人は仕事に急ぐ。
騎士が眠っているところにつくと、
ひとりは強靱な騎士の頭のところに行き、
愛やみだらな遊びの夢を見させた。
男らしい彼の心は、まさにとろけんばかりで、
いやらしい幸せ、邪悪なよろこびに浸ったのであった。
彼は夢に見た、彼の貴婦人ユーナが隣に寝ていて、
彼にこう訴えている場面を。こんなふうにいいながら--
羽の生えたあの嘘つき、愛の神クピドが、
まじめだったあたしの心を征服しちゃったの・・・・・・
快楽の神ウェヌスのいやらしい遊びを習っちゃったの・・・・・・。

1.1.48
かくして、すべての頂点に立つ美の女王であったユーナを、
夢のなか、美しいウェヌスが、騎士のベッドに連れてきた
のであった。目が覚めているときにはいつも、
清らかな花、この世の枝に咲いた花のよう、
であった王女ユーナが、今、
ふしだらな愛人として、彼にいやらしい奉仕をしようとしている。
まわりでは、美の三姉妹たちが
踊りながら、婚礼の讃歌を歌っていた。
若々しい花の神フローラが、つたの冠をユーナの頭にのせていた。

1.1.49
このようになじみのない欲情にひどく苛まれ、
また、いつものように、誤ったことをすることをひどく恐れ、
騎士はとびおきる。何か秘密の攻撃か?
敵が隠れているのか? と警戒しながら。
すると、見よ、彼の目の前にいるのは、彼の貴婦人ユーナだ。
黒いストールの下に餌つきの釣り針を隠している、偽のユーナだ。
彼女は顔を赤らめて、彼に口づけしようとする。
かわらしい表情で愛をささやく。
まさに、彼を騎士に選んだあの時の姿、汚れを知らぬ少女というようすで。

1.1.50
(レッドクロスは愕然とし、また半ば怒りにかられ、
そして強い軽蔑の念から偽のユーナを殺そうとするが、
思いとどまる。偽のユーナはつらそうに両手を握り、
そして泣きはじめる。)

1.1.51
そしていった、「ああ、あなた、わたしはあなたの虜、あなたが大好き。
これは、ふしぎで残酷な運命のせいなのかな?
神さまたちが天で決めてることのせいなのかな?
それとも、あの盲目の愛の神がわたしに意地悪してるのかな?
愛されたいのに、わたし、確実に憎まれてる・・・・・・。
でも、これは愛の神の命令なの。したがわないと死んでしまうの。
わたしなんて死ねばいい・・・・・・でも、かわいそう、って思って、
ね。まるで運命の嫌がらせ、ひどすぎだわ。
わたしが死ぬも生きるも、あなたの思うがままなの。」

1.1.52
(偽ユーナ--「レッドクロスのために父の国を
棄ててきたのだから、悲しみと涙のなかで死ぬのはいや。」
レッドクロス--「なぜそんなにとり乱しているのですか?」)

1.1.53
(偽ユーナ--「あなたのことを思って・・・・・・。」
レッドクロス--「つらい思いをさせていたら申し訳ない。」)

1.1.54
(レッドクロス--「あなたは大切な人です。
心配はご無用、ゆっくりお休みください。」
こうして偽ユーナは引き下がる。)

1.1.55
(レッドクロスはユーナの変貌ぶりに思いをめぐらすが、
疲れていたのでふたたび眠りに落ちる。
みだらな夢がふたたび彼を襲うが、通用しないので、
二人の悪霊は退却する。)

1.2.2
(二人の悪霊はアーキメイゴーに失敗を報告。
アーキメイゴーは二人をののしり、そしてさらなる策略にとりかかる。)

1.2.3
アーキメイゴーは、ふたたび美しい偽のユーナを呼び、
また夢を偽るもうひとりの悪霊には、霊妙な空気で
からだをつくって与えた。
こうしてこの悪霊は、恋する若い男、愛のなか、お楽しみのベッドのなかで、
無駄にみだらな日々を過ごす男に変身した。
武具や命がけの戦いなどには見向きもしない類の者である。
アーキメイゴーは、これら二人の悪霊を人目につかないベッドに
連れて行き、闇、人の目をあざむく夜でつつみ、
そして、不毛な楽しみに耽らせたのであった。

1.2.4
こうしておいてアーキメイゴーは、大まじめなふりをして、また大あわてで、
レッドクロスのところに飛んでいく。心乱れるできごとと
夢の後、ぐっすり寝はじめていた彼のもとに、である。
アーキメイゴーは彼をおこす。恐怖・驚愕、
悪霊や地獄の霊を目撃して顔面蒼白、というふりをしつつ。
彼はレッドクロスに呼びかける--「おきなされ、旅の者、
死ぬまで寝ているおつもりか? 邪悪な者たちは、
恥ずべきウェヌスの契りを結んでひとつになっておる。
行って見るのじゃ、そなたの不貞な女がおのれを汚しているところを。」

1.2.5
レッドクロスは仰天して飛びあがり、
剣を手に、老人について行った。
二人が秘密の場所に着くと、
悪霊のカップルは、まさにぴったり密着して、からみあっていた。
欲望むき出しで、いやらしく抱きしめあっていたのである。
これを見たレッドクロスは、激しい怒りの炎に燃えた。
理性の目があるはずだったが、その力も怒りで失われていた。
怒りに怒って二人をその場で殺しかねない勢いだったが、
これはなんとか老人が押しとどめた。

1.2.6
(ベッドに帰ったレッドクロスは、そのまま眠れぬ夜を
過ごす。夜が明けると、彼はすぐにユーナの従者の
小人とともに発つ。ユーナは置き去りにして。)

1.2.7
今、バラ色の指をした美しい朝の女神が、
老いたティトーヌスのサフラン色のベッドなんかもううんざり、とばかりに、
深紅のドレスを投げかけて、露にしめった空に広げる。
太陽の神も高い丘から顔を出す。
王家の少女ユーナも、眠たげに頭をふりつつ目を覚ます。
そして、高貴な彼女にはそぐわぬ部屋から出て、
彼女の騎士レッドクロスを探す・・・・・・が、彼はもう遠くに逃げてしまっていた。
彼女の小人の従者を探す・・・・・・いつもそばにいたはずなのに。
そして彼女は悲しみ、涙を流す。そんなの、ひどすぎる・・・・・・。

1.3.1
(この世でもっとも同情を誘うのは、美しい女性が
いわれのない不幸に苛まれる、ということである。)

1.3.2
(何も悪いことをしていないのに、魔法使いの策略によって
レッドクロスかと離ればなれになったユーナのことを書いていると
涙があふれてくる。)

1.3.3
(気丈にもユーナは、日々レッドクロスを探しつづけていた。)

1.3.5
あるとき、深い森から、
後ろ足で立ちあがって、ライオンがいきなり飛び出してきた。
飢えに飢えて、野生の動物を血を求めていたのである。
この王家の少女を見つけると、彼はすぐに
彼女に向かい、飢えた口を大きく開けて走ってきた。
その若いからだを、ひと口でむさぼり、のみこむ勢いであった。
しかし、獲物に近づいたとき、
血に対する彼の激しい飢えは、あわれみで和らいだ。
ユーナの姿に、おのれの力も忘れるほど圧倒されてしまったのである。

1.3.6
むさぼり食うかわりに、このライオンは、ユーナの疲れた足に口づけし、
ゆりのように白い彼女の手をやさしくなめた。
まるで彼も、罪もないのに疑われた彼女の境遇を知っているかのようであった。
おお、美しいものが強いものを支配するとは、まさにこのこと!
表裏のない真実が不正義を打ち負かすとは、まさにこのこと!
誇り高きライオンが降伏するようすを、
死を恐れつつ、ユーナはじっと見つめていたが、
彼と深く心が通いあうのを感じてやさしい気持ちになり、
そして偽りのない愛情から、雨のような涙が
あふれんばかりに流れ出したのであった。

1.3.7
(ユーナはいう、「百獣の王たるライオンですら、
わたしの窮状を見てあわれんでくれた・・・・・・
なのに、なぜあの人はわたしを憎むのかしら?
わたしはあの人を愛しているのに・・・・・・。」)

1.3.9
ライオンは、けっしてユーナをひとりにはしなかった。
いつも彼女のそばにいた。強力な護衛として、
汚れのない彼女の身を守り、また忠実な友として、
悲しみと大きな不幸のなかで彼女を支えた。
ユーナが眠るとき、いつも彼が彼女を見張り、守っていた。
彼女がおきているとき、いつも彼は忠実に仕えた。
どんなことであれ、いつでも彼女の望みをかなえる用意をしていた。
ユーナの美しい目から指示を読みとり、
その表情から彼女の気持ちを理解したのであった。

* * *
Edmund Spenser,
From The Faerie Queene, 1.1-3

Book I, Canto i, Stanza 29
At length they chaunst to meet upon the way
An aged Sire, in long blacke weedes yclad,
His feete all bare, his beard all hoarie gray
And by his belt his booke he hanging had;
Sober he seemde, and very sagely sad,
And to the ground his eyes were lowly bent,
Simple in shew, and voyde of malice bad,
And all the way he prayed, as he went,
And often knockt his brest, as one that did repent.

33
Then with the Sunne take Sir, your timely rest,
And with new day new worke at once begin:
Untroubled night they say gives counsell best.
Right well Sir knight ye have advised bin,
(Quoth then that aged man;) the way to win
Is wisely to advise: now day is spent;
Therefore with me ye may take up your In°
For this same night. The knight was well content:
So with that godly father to his home they went.

36
The drouping Night thus creepeth on them fast,
And the sad humour° loading their eye liddes,
As messenger of Morpheus° on them cast
Sweet slombring deaw, the which to sleepe them biddes.
Unto their lodgings then his guestes he riddes:
Where when all drownd in deadly sleepe he findes,
He to this study goes, and there amiddes
His Magick bookes and artes° of sundry kindes,
He seekes out mighty charmes, to trouble sleepy mindes.

38
And forth he cald out of deepe darknesse dred
Legions of Sprights,° the which like little flyes
Fluttring about his ever damned hed,
Awaite whereto their service he applyes,
To aide his friends, or fray his enimies:
Of those he chose° out two, the falsest twoo,
And fittest for to forge true-seeming lyes;
The one of them he gave a message too,
The other by him selfe staide other worke to doo.

43
The Sprite then gan more boldly him to wake,
And threatned unto him the dreaded name
Of Hecate°: whereat he gan to quake,
And lifting up his lumpish head, with blame
Halfe angry asked him, for what he came.
Hither (quoth he) me Archimago sent,
He that the stubborne Sprites can wisely tame,
He bids thee to him send for his intent
A fit false dreame, that can delude the sleepers sent.

44
The God obayde, and, calling forth straightway
A diverse dreame out of his prison darke,
Delivered it to him, and downe did lay
His heavie head, devoide of carefull carke,
Whose sences all were straight benumbed and starke.
He backe returning by the Yvorie dore,
Remounted up as light as chearefull Larke,
And on his litle winges the dreame he bore
In hast unto his Lord, where he him left afore.

45
Who all this while with charmes and hidden artes,
Had made a Lady of that other Spright,
And fram'd of liquid ayre her tender partes
So lively, and so like in all mens sight,
That weaker sence it could have ravisht quight:
The maker selfe, for all his wondrous witt,
Was nigh beguiled with so goodly sight:
Her all in white he clad, and over it
Cast a black stole, most like to seeme° for Una fit.

46
Now when that ydle dreame was to him brought,
Unto that Elfin knight he bad him fly,
Where he slept soundly void of evill thought,
And with false shewes abuse his fantasy,
In sort as he him schooled privily:
And that new creature, borne without her dew,°
Full of the makers guile, with usage sly
He taught to imitate that Lady trew,
Whose semblance she did carrie under feigned hew.

47
Thus well instructed, to their worke they hast,
And coming where the knight in slomber lay,
The one upon his hardy head him plast
And made him dreame of loves and lustfull play,
That nigh his manly hart did melt away,
Bathed in wanton blis and wicked joy:
Then seemed him his Lady by him lay,
And to him playnd, how that false winged boy,
Her chast hart had subdewd, to learne Dame Pleasures toy.

48
And she herselfe of beautie soveraigne Queene,
Fayre Venus° seemde unto his bed to bring
Her, whom he waking evermore did weene,
To bee the chastest flowre, that ay did spring
On earthly braunch, the daughter of a king,
Now a loose Leman to vile service bound:
And eke the Graces° seemed all to sing,
Hymen Iö Hymen° dauncing all around,
Whilst freshest Flora° her with Yvie girlond crownd.

49
In this great passion of unwonted lust,
Or wonted feare of doing ought amis,
He started up, as seeming to mistrust
Some secret ill, or hidden foe of his:
Lo there before his face his Lady is,
Under blake stole hyding her bayted hooke;
And as halfe blushing offred him to kis,
With gentle blandishment and lovely looke,
Most like that virgin true, which for her knight him took.

50
All cleane dismayd to see so uncouth sight,
And half enraged at her shamelesse guise,
He thought have slaine her in his fierce despight:
But hasty heat tempring with suffrance wise,
He stayde his hand, and gan himselfe advise
To prove his sense,° and tempt her faigned truth.
Wringing her hands in womans pitteous wise,
Tho can she weepe,° to stirre up gentle ruth,
Both for her noble bloud, and for her tender youth.

51
And said, Ah Sir, my liege Lord and my love,
Shall I accuse the hidden cruell fate,
And mightie causes wrought in heaven above,
Or the blind God,° that doth me thus amate,
For hoped love to winne me certaine hate?
Yet thus perforce he bids me do, or die.
Die is my dew; yet rew my wretched state
You, whom my hard avenging destinie
Hath made judge of my life or death indifferently.

52
Your owne deare sake forst me at first to leave
My Fathers kingdome―There she stopt with teares;
Her swollen hart her speech seemd to bereave,
And then againe begun; My weaker yeares
Captiv'd to fortune and frayle worldly feares,
Fly to your fayth for succour and sure ayde:
Let me not dye in languor and long teares.
Why Dame (quoth he) what hath ye thus dismayd?
What frayes ye, that were wont to comfort me affrayd?

53
Love of your selfe, she saide, and deare constraint,
Lets me not sleepe, but wast the wearie night
In secret anguish and unpittied plaint,
Whiles you in carelesse sleepe are drowned quight.
Her doubtfull words made that redoubted knight
Suspect her truth: yet since no' untruth he knew,
Her fawning love with foule disdainefull spight
He would not shend; but said, Deare dame I rew,
That for my sake unknowne such griefe unto you grew.

54
Assure your selfe, it fell not all to ground;°
For all so deare as life is to my hart,
I deeme your love, and hold me to you bound:
Ne let vaine feares procure your needlesse smart,
Where cause is none, but to your rest depart.
Not all content, yet seemd she to appease
Her mournefull plaintes, beguiled of her art,
And fed with words that could not chuse but please,
So slyding softly forth, she turned as to her ease.

55
Long after lay he musing at her mood,
Much griev'd to thinke that gentle Dame so light,
For whose defence he was to shed his blood.
At last, dull wearinesse of former fight
Having yrockt asleepe his irkesome spright,
That troublous dreame gan freshly tosse his braine,
With bowres, and beds, and Ladies deare delight:
But when he saw his labour all was vaine,
With that misformed spright he backe returnd againe.

Book I, Canto i, Stanza 2
When those accursed messengers of hell,
That feigning dreame, and that faire-forged Spright°
Came to their wicked maister, and gan tell
Their bootelesse paines, and ill succeeding night:
Who all in rage to see his skilfull might
Deluded so, gan threaten hellish paine
And sad Proserpines wrath, them to affright.
But when he saw his threatning was but vaine,
He cast about, and searcht his baleful bookes againe.

3
Eftsoones he tooke that miscreated faire,
And that false other Spright, on whom he spred
A seeming body of the subtile aire,
Like a young Squire, in loves and lustybed
His wanton dayes that ever loosely led,
Without regard of armes and dreaded fight:
Those two he tooke, and in a secret bed,
Coverd with darknesse and misdeeming night,
Them both together laid, to joy in vaine delight.

4
Forthwith he runnes with feigned faithfull hast
Unto his guest, who after troublous sights
And dreames, gan now to take more sound repast,
Whom suddenly he wakes with fearfull frights,
As one aghast with feends or damned sprights,
And to him cals, Rise, rise, unhappy Swaine
That here wex old in sleepe, whiles wicked wights
Have knit themselves in Venus shameful chaine,
Come see where your false Lady doth her honour staine.

5
All in amaze he suddenly upstart
With sword in hand, and with the old man went
Who soone him brought into a secret part
Where that false couple were full closely ment
In wanton lust and leud embracement:
Which when he saw, he burnt with gealous fire,
The eye of reason was with rage yblent,
And would have slaine them in his furious ire,
But hardly was restreined of that aged sire.

6
Returning to his bed in torment great,
And bitter anguish of his guiltie sight,
He could not rest, but did his stout heart eat,
And wast his inward gall with deepe despight,
Yrkesome of life, and too long lingring night.
At last faire Hesperus° in highest skie
Had spent his lampe and brought forth dawning light,
Then up he rose, and clad him hastily;
The Dwarfe him brought his steed: so both away do fly.

7
Now when the rosy-fingred Morning° faire,
Weary of aged Tithones° saffron bed,
Had spread her purple robe through deawy aire,
And the high hils Titan° discovered,
The royall virgin shooke off drowsy-hed;
And rising forth out of her baser bowre,
Lookt for her knight, who far away was fled,
And for her Dwarfe, that wont to wait each houre:
Then gan she waile and weepe, to see that woefull stowre.

Book I, Canto iii, Stanza 1
Nought is there under heav'ns wide hollownesse,
That moves more deare compassion of mind,
Then beautie brought t' unworthy wretchednesse
Through envies snares, or fortunes freakes unkind.
I, whether lately through her brightnesse blind,
Or through alleageance and fast fealtie,
Which I do owe unto all woman kind,
Feele my hart perst with so great agonie,
When such I see, that all for pittie I could die.

2
And now it is empassioned so deepe,
For fairest Unaes sake, of whom I sing,
That my fraile eyes these lines with teares do steepe,
To thinke how she through guilefull handeling,
Though true as touch,° though daughter of a king,
Though faire as ever living wight was faire,
Though nor in word nor deede ill meriting,
Is from her knight divorced in despaire,
And her due loves° deriv'd to that vile witches share.

3
Yet she most faithfull Ladie all this while
Forsaken, wofull, solitarie mayd
Far from all peoples prease, as in exile,
In wildernesse and wastfull deserts strayd,
To seeke her knight; who subtilly betrayd
Through that late vision, which th' Enchaunter wrought,
Had her abandond. She of nought affrayd,
Through woods and wastnesse wide him daily sought;
Yet wished tydings° none of him unto her brought.

5
It fortuned out of the thickest wood
A ramping Lyon° rushed suddainly,
Hunting full greedy after salvage blood;
Soone as the royall virgin he did spy,
With gaping mouth at her ran greedily,
To have attonce devourd her tender corse:
But to the pray when as he drew more ny,
His bloody rage asswaged with remorse,
And with the sight amazd, forgat his furious forse.

6
In stead thereof he kist her wearie feet,
And lickt her lilly hands with fawning tong,
As he her wronged innocence did weet.
O how can beautie maister the most strong,
And simple truth subdue avenging wrong?
Whose yeelded pride° and proud submission,
Still dreading death, when she had marked long,
Her hart gan melt in great compassion,
And drizling teares did shed for pure affection.

7
The Lyon Lord of every beast in field,
Quoth she, his princely puissance doth abate,
And mightie proud to humble weake does yield,
Forgetfull of the hungry rage, which late
Him prickt, in pittie of my sad estate:
But he my Lyon, and my noble Lord,
How does he find in cruell hart to hate,
Her that him lov'd, and ever most adord,
As the God of my life? why hath he me abhord?

9
The Lyon would not leave her desolate,
But with her went along, as a strong gard
Of her chast person, and a faithfull mate
Of her sad troubles and misfortunes hard:
Still when she slept, he kept both watch and ward,°
And when she wakt, he waited diligent,
With humble service to her will prepard:
From her faire eyes he tooke commaundement,
And ever by her lookes conceived her intent.

* * *
英語テクストは次のものより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/15272

* * *
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Pound (tr.), Li Po, "The Jewel Stairs' Grievance"

エズラ・パウンド (訳)
李白、「玉階怨」
(「宝石で飾られた階段の嘆き」)

宝石で飾られた階段が、もう夜露で真っ白。
すっとここにいたから、絹の靴下はもうびしょ濡れ。
わたしは、ひとり、水晶のように透きとおった帳(とばり)をおろして、
澄みわたる秋の夜空の月を見る。

註:
宝石で飾られた階段、つまり、これは宮殿。
嘆き、つまり、何か満たされないことがある、ということ。
絹の靴下、つまり、高貴な女性(召使いではない)が不満をいっている。
澄みわたる秋の空、つまり、彼女の恋人が来ないのは天気のせいではない。
また、彼女のほうは早くから来て待っている。だから階段だけでなく、
靴下までが夜露で濡れている。
この詩が特に優れているのは、彼女が直接恋人を責めていないこと。

* * *
Ezra Pound (tr.)
Li Po (Rihaku), "The Jewel Stairs' Grievance"

The jewelled steps are already quite white with dew,
It is so late that the dew soaks my gauze stockings,
And I let down the crystal curtain
And watch the moon through the clear autumn.

Note.--Jewel stairs, therefore a palace. Grievance,
therefore there is something to complain of.
Gauze stockings, therefore a court lady, not a
servant who complains. Clear autumn, therefore
he has no excuse on account of weather.
Also, she has come early, for the dew has not
merely whitened the stairs, but has soaked
her stockings. The poem is especially prized
because she utters no direct reproach.

* * *
英語テクストはCathay (1915) より。
https://archive.org/details/cathayezrapound00pounrich

* * *
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Herrick (tr.), Horace, Ode 3.9

ロバート・へリック (訳)
ホラティウス、オード3.9
「ホラティウスとリディアの会話」

ホラティウス
リディア、君に愛されていたとき、
ぼくがいちばん、って君がいってくれていて、
君の白い首がぼくのものだったとき、ぼくは
ペルシアの王さまなんかよりも幸せだったな。

リディア
あなたがわたしだけを好きでいてくれて、
クロエなんかよりわたしを大事にしてくれて
いたとき、わたしの評判は本当によくって、
ローマのイリアですら眼中にないくらいだったわ。

ホラティウス
でも、今、ぼくはトラキアのクロエの虜なんだ。
あの人はハープも歌も上手だし。
あの人に好かれるためならね、リディア、ぼくは
命を投げ出すよ。あの人を守るためにね。

リディア
私の心も燃えてるわ。
オルニテスの家の子、あの若いカレーの人が好きなの。
あの人もわたしに燃えるような思いを抱いてくれるなら、わたし、ここで
二回死んでもいいわ。本望よ。あの人の命を守るためなら。

ホラティウス
でもさ、もし最初の恋がよみがえって、一回別れたにしろ、
もう一度真鍮のきずなでぼくらが結ばれる、なんてことがあったとしたらどう?
ぼくの心にクロエはもういない、
一度棄てたリディアをやっぱり愛してる、とかって信じてくれる?

リディア
私の彼氏が星より輝いていたとしても、
あなたの気持ちがコルクよりはるかに軽かったとしても、
あなたがアドリア海のように乱暴だったとしても、でも、わたし、
あなたと生きていきたいわ。それか、あなたのために死にたい。

* * *
Robert Herrick (tr.)
Horace, Ode 3.9
"A Dialogue betwixt Horace and Lydia"

Hor.
While, Lydia, I was loved of thee,
Nor any was preferred 'fore me
To hug thy whitest neck, than I
The Persian king lived not more happily.

Lyd.
While thou no other didst affect,
Nor Chloe was of more respect
Than Lydia, far-famed Lydia,
I flourished more than Roman Ilia.

Hor.
Now Thracian Chloe governs me,
Skilful i' th' harp and melody;
For whose affection, Lydia, I
(So fate spares her) am well content to die.

Lyd.
My heart now set on fire is
By Ornithes' son, young Calais,
For whose commutual flames here I,
To save his life, twice am content to die.

Hor.
Say our first loves we should revoke,
And, severed, join in brazen yoke;
Admit I Chloe put away,
And love again love-cast-off Lydia?

Lyd.
Though mine be brighter than the star,
Thou lighter than the cork by far,
Rough as the Adriatic sea, yet I
Will live with thee, or else for thee will die.

* * *
17世紀にもっとも頻繁に英語訳された作品。

* * *
英語テクストは次のURLのもの
http://www.gutenberg.org/ebooks/22421

* * *
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『四神の書』 (書道展)

『四神の書』
(上田桑鳩 手島右卿 金子鷗亭 桑原翠邦)


釧路(終了)
http://www.pekita.net/shijin.html

春日井(8/30-10/13)
http://www.kasugai-bunka.jp/2014/08/post_1099.html

唐津(10/18-11/23)
http://tosyokan.karatsu-city.jp/hp/cnts_hole/b_hole_p2014.html

* * *
ご紹介まで。お近くの方はぜひ。


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夏休みの宿題 2014

夏休みの宿題 2014

考えること。

1.
ウェブ上に(しばしば匿名で)記される攻撃的なコメントの社会的地位
- (質)井戸端会議や居酒屋での愚痴以上のものかどうか
- (数)ウェブ上で攻撃的なコメントをする人としない人の比は

2.
(匿名で)他人を攻撃する、ということの意味

3.
「報道」(という名の娯楽)のありかた

4.
ラカンのことばの意味--
「人はいつでも楽しんでいる」
(人によっては、不本意ながらも「楽しまさせられている」)

* * *
以下、私見など。

5.
「コミック雑誌なんていらない」--本当か?
いらないのコミック雑誌(フィクション)ではなく、
むしろワイドショー的なゴシップ文化(ノンフィクション)。
創造的なものである点、傷つく生身の人間が
(基本的には)いない点で、フィクションのほうが
娯楽として優れている。

6.
社会の世俗化(非宗教化)がもたらしたもの--
現実にはありえないような理想的な人物像を
著名な人物に見る、という風潮。神や仏に、ではなく。
(その反対は、「人間だもの」。)

7.
社会の世俗化(非宗教化)および科学の進歩が
もたらしたもの--
数字・統計的なものが人のくらしや社会を支配する、
という風潮。つまり、数字・統計的なものが神のように
扱われる、ということ。

* * *


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From Shelley, The Cenci, 5.4

パーシー・B・シェリー
『チェンチ一族』 5幕4場より

ベアトリーチェ:
[とり乱したようすで]
ねえ、神さま! おかしいですよね?
こんなにすぐわたしは死ななくてはならないの?
まだ若いのに、暗くて冷たい土のなかに埋められて、
うじ虫に食べられて腐っていくなんていやよ!
せまい棺桶に釘つきのふたでとじこめられて、
もう輝く太陽も見れない、
生きものの楽しい声も聞けない、なんて、そんなのいや!
あたりまえないろんなことを考えることもなくなって、
悲しいことすらもう頭に浮かばないなんて、絶対にいやよ!
ひどすぎる! こわい! わたしが消えてなくなるなんて!
どうなっちゃうの? え? あれ? ここは・・・・・・どこ・・・・・・?
もういや! 頭がおかしくなりそう!
やさしい神さま、わたし弱くてごめんなさい!
でも、どうすればいいの? もしこの空っぽの世界には
神さまなんていなくて、天国もなくて、この世も実は嘘だったとしたら?
広くて、灰色で、あかりもなく、底なしに深いこの世界で、
わたし、ひとりぼっちだったとしたら?
この世のものはみんなお父さまの霊が化けたもので、
お父さまの目、声、手が、わたしをとりかこんでいるとしたら?
生きながらにして死んでいるわたしのまわりにの空気みたいに?
わたし自身の息みたいに? もし、お父さまがこの世に
いたときのような姿で、わたしを苦しめたときのようなあんな姿で、
灰色の髪、しわだらけの顔、なんて仮面をつけてやってきて、
悪魔のような腕でわたしをつつんで、わたしの目を
じっと見つめて、そして下に、下に、下に、引きずり落ろそうとしたら?
だって、まるで神さまみたいに、あの人にできないことは
なかったのですもの! あの人はどこにでもいたのですもの!
だから、死んでも、あの人の魂は、生きて息をしている
すべてのもののなかで生きていて、前と同じように、
わたしや大事な人たちの破滅をたくらんでるんじゃないかしら!
わたしたちがあざけられて、苦しみ、そして絶望するように!
誰か、生き返った人っているのかしら? 誰も行ったことのない
死の王国の法律を教えてくれるような人は?
でもそれも、たぶん正しくない法律のはず。
今わたしたちを追ってくる法律と同じくらい、まちがってる。
追いかけられて、わたしたちどうなるの? ねえ、どうなっちゃうの?

ルクレティア:
やさしい神さまの愛を信じるのよ。
やさしい救い主の約束を信じるの。
夜が来るころには、わたしたち、天国にいるはずよ。

ベアトリーチェ:
そんな話、もう聞きたくない!
これから何がおこるかわからないけど、もうわたしはどん底。
これ以上落ちこむことはないくらい。
でも、よくわからないけど、天国の話とか、心がもっと凍りそうなの。
時間の無駄で、インチキで、そして冷たいわ、何もかも。
わたし、本当にひどい目にたくさんあってきた。
神さまにも、人にも、それから、
わたしの運命を悲惨な方向に導いてきた星とかにも、
区別がついてなかったんじゃないかしら。
何が善で、何が悪か、っていう、ね。本当にそうよ。
だから、わたしの世界に、もうわたしはいないの。
光と命と愛の世界から追い出されちゃったの。こんなに若いのに。
今さら神を信じてっていわれても困っちゃう。
信じたい、とは思うわ、もちろん。
他に信じられるものなんてないもの。
でも、もうわたしの心は冷たくなってしまってるのよ。

[ベアトリーチェが話している途中から、ジャコモは
下がってカミルロと何かを話す。カミルロは舞台から去り、
ジャコモは前に出る。]

ジャコモ:
ご存知ですよね、お母さま。ベアトリーチェ、知ってるよね?
ベルナルドが今、教皇に会いに行っています。
わたしたちの恩赦を求めて、です。

ルクレティア:
そうね、たぶん、
恩赦がいただけるわ。わたしたちみんな死刑にならずにすむのよ。
そして何年か経ったら、この苦しみも昔話みたいになるわ。
ああ、本当にそうなったらいいのに! 心が熱くなるわ。
まるであたたかい血が入ってきたかのよう。

ベアトリーチェ:
いいえ、心も血もすぐに冷たくなるわ。
ねえ、そんな考えは踏みつぶしてしまって!
絶望よりも悪いのは、つらい死よりも悪いのは、希望よ。
あと少ししか生きられなくて、めまいと痛みに襲われてて、
もうふらふらで今にも倒れそうなのに、
それでも心に忍びこんでくるんだから!
あっという間に襲ってくる霜に、
春の最初に咲いた花を枯らさないで、ってお願いしたほうがましよ。
それか、目を覚ましてしまった地震にお願いしたら?
その上にある強く、美しく、そして自由な都市を助けてあげて、って。
黒くて嫌なにおいのする大地の口を開いてのみこまないで、って。
そうよ、飢餓や、風にのってくる疫病や、
盲目の稲妻や、耳の聞こえない海にお願いしたほうがまし。
人間なんかよりね! 残酷、冷酷で、
かたちだけのルールにしばられてるんだから。
いうことはりっぱでも、やることはカインと同じなの。
そう、お母さま、わたしたちは死ぬのよ。
正しく生きてきたら、そういうごほうびがもらえるの。
そうして最悪の不幸から解放されるの。
逆に、わたしたちを殺す殺し屋たち、頑なで冷たいあの人たちは、
泣いてる人々のなかでニコニコしながら長生きして、
そしてまるで眠るかのように死んでいくの。
わたしたちにとって、お墓がちょっと楽しいところだったらいいのにな。
さあ、よくわからないけど、〈死〉よ、来て。
すべてを抱きしめるその腕でわたしをつつんで!
やさしい母のように、わたしを胸に抱いて隠して。
そして揺らして、わたしが眠るまで。そしたらもう起きないから。
生きていられる人は生きればいいわ。たがいに支配し、支配されながら。
わたしたちもそうだったけど、でも、もう・・・・・・。

[ベルナルドが走って登場]

ベルナルド:
ああ、ひどすぎる!
祈りながら希望が注ぎ出した涙、そしてまなざし、
それで心が空っぽになり、希望もなくなってしまったというのに、
これがみんな無駄だったなんて! 死神の手下が
ドアのところで目を光らせてる。奴らのうちのひとりの顔には、
たぶん血がついていた・・・・・・。気のせい、かな?
でも、もうすぐ、ぼくの大切な人すべての血が
奴にふりかかるんだ。そして奴は、それをぬぐい落とすんだ、
ただの雨粒みたいに! ああ、この命! この世界!
ぼくを覆い隠して! もう消えたい!
まさに純粋さそのものであるような姉さん、
姉さんを見てたからぼくは幸せだった、いい人になれた、
そんな姉さんがこなごなの塵にかえっていくなんて!
ベアトリーチェ姉さん、
姉さんに見つめられたものは何でも美しくなった、
姉さんは命のあかりだった。
なのに死ぬなんて! 暗くなってしまうなんて!
姉さん、って呼んだときに、
おまえに姉さんなんかいない、といわれるようになってしまうなんて!
それから、母さん、母さんのやさしさがぼくたちみんなをつつんできてくれた、
そんな母さんも死ぬなんて! 大事な絆が壊されてしまうなんて!

[カミルロと護衛が登場]

あの人たちだ!
姉さん、そのあたたかい唇にキスさせて。
すぐにその真っ赤な花びらは、病んで枯れて、
白くなるのだから・・・・・・冷たくなってしまうのだから。
さよならをいって!
もうじき死神に首を絞められて、そのやさしい声も出なくなってしまうのだから!
ねえ、何かいって! 声を聞かせて!

ベアトリーチェ:
さようなら、ベルナルド。こんなふうに死ぬのは悲しいけど、
でも、とり乱したらダメよ。
ひどい、かわいそう、って思うくらいならいいけど、
でも、悲しくてもがまんするのよ。絶望して荒れたりしたらダメだからね。
泣いて、そして耐えるの。
あと、もうひとつ、お願い、
わたしたち家族を思う気持ちを忘れないで。
そして信じて、
変な雲みたいな罪と恥にまみれてしまったけど、
わたしはいつも清らかに、汚れなく生きてきた、って。
たぶん、口の悪い人たちが、わたしのこと、ひどくいうと思うわ。
わたしの家族だから、罪のないあなたも額に烙印が押されて、
後ろ指をさされることでしょうね。
でも、ごめんなさい、がまんしてね。
わたしたちのこと、悪く思わないで。
お墓に入っても、あなたを愛してるんだから。
死ぬまで安らかに生きていくのよ。
恐怖と悲しみに打ち勝つの。今のわたしみたいにね!
さようなら・・・・・・さようなら!

ベルナルド:
いやだよ! さよならなんて!

カミルロ:
ベアトリーチェさま!

ベアトリーチェ:
悲しんでいただくことなんてないわ、枢機卿さま。
お母さま、この帯を結んで。
それから、髪もあげてくれる? かんたんでいいからね。
・・・・・・ありがと、これでいいわ。
お母さまの髪も落ちてきてるわよ。
よくふたりでこんなふうにしてたよね・・・・・・
でも、今日が最後だわ。
さあ、枢機卿さま、準備ができました。行きましょ。

[おわり]

* * *
(英語テクストどおりの改行で)

ベアトリーチェ:
[とり乱したようすで]
ああ、
神さま! おかしいですよね? こんなにすぐ
わたしは死ななくてはならないの? まだ若いのに、暗くて
冷たい土のなかに埋められてうじ虫に食べられて腐っていくなんていやよ!
せまい棺桶に釘つきのふたでとじこめられて、
もう輝く太陽も見れない、生きものの
楽しい声も聞けない、なんて、そんなのいや! あたりまえないろんなことを
考えることもなくなって、悲しいことすらもう頭に浮かばないなんて、絶対にいやよ!
ひどすぎる! こわい! わたしが消えてなくなるなんて! どうなっちゃうの?
え? あれ? ここは・・・・・・どこ・・・・・・? もういや! 頭がおかしくなりそう!
やさしい神さま、わたし弱くてごめんなさい! でも、どうすればいいの? もし
この空っぽの世界には神さまなんていなくて、天国もなくて、この世も実は嘘だったとしたら?
広くて、灰色で、あかりもなく、底なしに深いこの世界で、わたし、ひとりぼっちだったとしたら?
この世のものはみんなお父さまの霊が化けたもので、
お父さまの目、声、手が、わたしをとりかこんでいるとしたら?
生きながらにして死んでいるわたしのまわりにの空気みたいに? わたし自身の息みたいに?
もし、お父さまがこの世にいたときのような姿で、
わたしを苦しめたときのようなあんな姿で、
灰色の髪、しわだらけの顔、なんて仮面をつけてやってきて、
悪魔のような腕でわたしをつつんで、わたしの目を
じっと見つめて、そして下に、下に、下に、引きずり落ろそうとしたら?
だって、まるで神さまみたいに、あの人にできないことはなかったのですもの!
あの人はどこにでもいたのですもの! だから、死んでも、
あの人の魂は、生きて息をしているすべてのもののなかで生きていて、
前と同じように、わたしや大事な人たちの破滅をたくらんでるんじゃないかしら!
わたしたちがあざけられて、苦しみ、そして絶望するように! 誰か、生き返った人って
いるのかしら? 誰も行ったことのない死の王国の法律を教えてくれるような人は?
でもそれも、たぶん正しくない法律のはず。今わたしたちを追ってくる法律と同じくらい、
まちがってる。追いかけられて、わたしたちどうなるの?
ねえ、どうなっちゃうの?

ルクレティア:
やさしい神さまの愛を信じるのよ。
やさしい救い主の約束を信じるの。夜が来るころには、
わたしたち、天国にいるはずよ。

ベアトリーチェ:
そんな話、もう聞きたくない!
これから何がおこるかわからないけど、もうわたしはどん底。これ以上落ちこむことはないくらい。
でも、よくわからないけど、天国の話とか、心がもっと凍りそうなの。
時間の無駄で、インチキで、そして冷たいわ、何もかも。わたし、
本当にひどい目にたくさんあってきた。
神さまにも、人にも、
それから、わたしの運命を悲惨な方向に導いてきた星とかにも、
区別がついてなかったんじゃないかしら。
何が善で、何が悪か、っていう、ね。本当にそうよ。
だから、わたしの世界に、もうわたしはいないの。
光と命と愛の世界から追い出されちゃったの。こんなに若いのに。
今さら神を信じてっていわれても困っちゃう。
信じたい、とは思うわ、もちろん。他に
信じられるものなんてないもの。でも、もうわたしの心は冷たくなってしまってるのよ。

[ベアトリーチェが話している途中から、ジャコモは
下がってカミルロと何かを話す。カミルロは舞台から去り、
ジャコモは前に出る。]

ジャコモ:
ご存知ですよね、お母さま。ベアトリーチェ、知ってるよね?
ベルナルドが今、教皇に会いに行っています。
わたしたちの恩赦を求めて、です。

ルクレティア:
そうね、たぶん、
恩赦がいただけるわ。わたしたちみんな死刑にならずにすむのよ。
そして何年か経ったら、この苦しみも昔話みたいになるわ。
ああ、本当にそうなったらいいのに! 心が熱くなるわ。
まるであたたかい血が入ってきたかのよう。

ベアトリーチェ:
いいえ、心も血もすぐに冷たくなるわ。
ねえ、そんな考えは踏みつぶしてしまって! 絶望よりも悪いのは、
つらい死よりも悪いのは、希望よ。
あと少ししか生きられなくて、めまいと痛みに襲われてて、もうふらふらで
今にも倒れそうなのに、それでも心に忍びこんでくるんだから! あっという間に
襲ってくる霜に、春の最初に咲いた花を枯らさないで、ってお願いしたほうがましよ。
それか、目を覚ましてしまった地震にお願いしたら? その上にある
強く、美しく、そして自由な都市を助けてあげて、って。
黒くて嫌なにおいのする大地の口を開いてのみこまないで、って。
そうよ、飢餓や、風にのってくる疫病や、
盲目の稲妻や、耳の聞こえない海にお願いしたほうがまし。人間なんかよりね!
残酷、冷酷で、かたちだけのルールにしばられてるんだから。いうことはりっぱでも、
やることはカインと同じなの。そう、お母さま、わたしたちは死ぬのよ。
正しく生きてきたら、そういうごほうびがもらえるの。
そうして最悪の不幸から解放されるの。
逆に、わたしたちを殺す殺し屋たち、頑なで冷たいあの人たちは、
泣いてる人々のなかでニコニコしながら長生きして、
そしてまるで眠るかのように死んでいくの。わたしたちにとって、
お墓がちょっと楽しいところだったらいいのにな。さあ、よくわからないけど、
〈死〉よ、来て。すべてを抱きしめるその腕でわたしをつつんで!
やさしい母のように、わたしを胸に抱いて隠して。
そして揺らして、わたしが眠るまで。そしたらもう起きないから。
生きていられる人は生きればいいわ。たがいに支配し、支配されながら。
わたしたちもそうだったけど、でも、もう・・・・・・。

[ベルナルドが走って登場]

ベルナルド:
ああ、ひどすぎる!
祈りながら希望が注ぎ出した涙、そしてまなざし、
それで心が空っぽになり、希望もなくなってしまったというのに、
これがみんな無駄だったなんて! 死神の手下が
ドアのところで目を光らせてる。奴らのうちのひとりの顔には、
たぶん血がついていた・・・・・・。気のせい、かな?
でも、もうすぐ、ぼくの大切な人すべての血が
奴にふりかかるんだ。そして奴は、それをぬぐい落とすんだ、
ただの雨粒みたいに! ああ、この命! この世界!
ぼくを覆い隠して! もう消えたい! まさに
純粋さそのものであるような姉さん、
姉さんを見てたからぼくは幸せだった、いい人になれた、
そんな姉さんがこなごなの塵にかえっていくなんて! ベアトリーチェ姉さん、
姉さんに見つめられたものは何でも美しくなった、
姉さんは命のあかりだった、なのに死ぬなんて! 暗くなってしまうなんて! 姉さん、って呼んだときに、
おまえに姉さんなんかいない、といわれるようになってしまうなんて! それから、母さん、
母さんのやさしさがぼくたちみんなをつつんできてくれた、
そんな母さんも死ぬなんて! 大事な絆が切れてしまうなんて!

[カミルロと護衛が登場]

あの人たちだ! 姉さん、そのあたたかい
唇にキスさせて。すぐにその真っ赤な花びらは、
病んで枯れて、白くなるのだから・・・・・・冷たくなってしまうのだから。さよならをいって!
もうじき死神に首を絞められて、そのやさしい声も出なくなってしまうのだから! ねえ、
何かいって! 声を聞かせて!

ベアトリーチェ:
さようなら、ベルナルド。こんなふうに死ぬのは悲しいけど、
でも、とり乱したらダメよ。
ひどい、かわいそう、って思うくらいならいいけど、
でも、悲しくてもがまんするのよ。絶望して荒れたりしたらダメだからね。
泣いて、そして耐えるの。あと、もうひとつ、
お願い、わたしたち家族を思う気持ちを
忘れないで。そして信じて、
変な雲みたいな罪と恥にまみれてしまったけど、
わたしはいつも清らかに、汚れなく生きてきた、って。たぶん
口の悪い人たちが、わたしのこと、ひどくいうと思うわ。わたしの家族だから、
罪のないあなたも額に烙印が押されて、
後ろ指をさされることでしょうね。でも、ごめんなさい、
がまんしてね。わたしたちのこと、
悪く思わないで。お墓に入っても、あなたを愛してるんだから。
死ぬまで安らかに生きていくのよ。恐怖と悲しみに
打ち勝つの。今のわたしみたいにね! さようなら・・・・・・さようなら!

ベルナルド:
いやだよ! さよならなんて!

カミルロ:
ベアトリーチェさま!

ベアトリーチェ:
悲しんでいただくことなんてないわ、
枢機卿さま。お母さま、この帯を
結んで。それから、髪もあげてくれる?
かんたんでいいからね。・・・・・・ありがと、これでいいわ。
お母さまの髪も落ちてきてるわよ。よく
ふたりでこんなふうにしてたよね・・・・・・でも
今日が最後だわ。さあ、枢機卿さま、
準備ができました。行きましょ。

[おわり]

* * *
Percy Bysshe Shelley
From The Cenci, Act 5, Scene 4

BEATRICE [WILDLY]:
O
My God! Can it be possible I have
To die so suddenly? So young to go
Under the obscure, cold, rotting, wormy ground! _50
To be nailed down into a narrow place;
To see no more sweet sunshine; hear no more
Blithe voice of living thing; muse not again
Upon familiar thoughts, sad, yet thus lost―
How fearful! to be nothing! Or to be. . . _55
What? Oh, where am I? Let me not go mad!
Sweet Heaven, forgive weak thoughts! If there should be
No God, no Heaven, no Earth in the void world;
The wide, gray, lampless, deep, unpeopled world!
If all things then should be . . . my father's spirit, _60
His eye, his voice, his touch surrounding me;
The atmosphere and breath of my dead life!
If sometimes, as a shape more like himself,
Even the form which tortured me on earth,
Masked in gray hairs and wrinkles, he should come _65
And wind me in his hellish arms, and fix
His eyes on mine, and drag me down, down, down!
For was he not alone omnipotent
On Earth, and ever present? Even though dead,
Does not his spirit live in all that breathe, _70
And work for me and mine still the same ruin,
Scorn, pain, despair? Who ever yet returned
To teach the laws of Death's untrodden realm?
Unjust perhaps as those which drive us now,
Oh, whither, whither?

LUCRETIA:
Trust in God's sweet love, _75
The tender promises of Christ: ere night,
Think, we shall be in Paradise.

BEATRICE:
'Tis past!
Whatever comes, my heart shall sink no more.
And yet, I know not why, your words strike chill:
How tedious, false, and cold seem all things. I _80
Have met with much injustice in this world;
No difference has been made by God or man,
Or any power moulding my wretched lot,
'Twixt good or evil, as regarded me.
I am cut off from the only world I know, _85
From light, and life, and love, in youth's sweet prime.
You do well telling me to trust in God;
I hope I do trust in him. In whom else
Can any trust? And yet my heart is cold.

[DURING THE LATTER SPEECHES GIACOMO HAS RETIRED CONVERSING WITH CAMILLO, WHO NOW GOES OUT; GIACOMO ADVANCES.]

GIACOMO:
Know you not, Mother . . . Sister, know you not? _90
Bernardo even now is gone to implore
The Pope to grant our pardon.

LUCRETIA:
Child, perhaps
It will be granted. We may all then live
To make these woes a tale for distant years:
Oh, what a thought! It gushes to my heart _95
Like the warm blood.

BEATRICE:
Yet both will soon be cold.
Oh, trample out that thought! Worse than despair,
Worse than the bitterness of death, is hope:
It is the only ill which can find place
Upon the giddy, sharp, and narrow hour _100
Tottering beneath us. Plead with the swift frost
That it should spare the eldest flower of spring:
Plead with awakening earthquake, o'er whose couch
Even now a city stands, strong, fair, and free;
Now stench and blackness yawn, like death. Oh, plead _105
With famine, or wind-walking Pestilence,
Blind lightning, or the deaf sea, not with man!
Cruel, cold, formal man; righteous in words,
In deeds a Cain. No, Mother, we must die:
Since such is the reward of innocent lives; _110
Such the alleviation of worst wrongs.
And whilst our murderers live, and hard, cold men,
Smiling and slow, walk through a world of tears
To death as to life's sleep; 'twere just the grave
Were some strange joy for us. Come, obscure Death, _115
And wind me in thine all-embracing arms!
Like a fond mother hide me in thy bosom,
And rock me to the sleep from which none wake.
Live ye, who live, subject to one another
As we were once, who now . . .

[BERNARDO RUSHES IN.]

BERNARDO:
Oh, horrible! _120
That tears, that looks, that hope poured forth in prayer,
Even till the heart is vacant and despairs,
Should all be vain! The ministers of death
Are waiting round the doors. I thought I saw
Blood on the face of one . . . What if 'twere fancy? _125
Soon the heart's blood of all I love on earth
Will sprinkle him, and he will wipe it off
As if 'twere only rain. O life! O world!
Cover me! let me be no more! To see
That perfect mirror of pure innocence _130
Wherein I gazed, and grew happy and good,
Shivered to dust! To see thee, Beatrice,
Who made all lovely thou didst look upon…
Thee, light of life … dead, dark! while I say, sister,
To hear I have no sister; and thou, Mother, _135
Whose love was as a bond to all our loves…
Dead! The sweet bond broken!

[ENTER CAMILLO AND GUARDS.]

They come! Let me
Kiss those warm lips before their crimson leaves
Are blighted…white…cold. Say farewell, before
Death chokes that gentle voice! Oh, let me hear _140
You speak!

BEATRICE:
Farewell, my tender brother. Think
Of our sad fate with gentleness, as now:
And let mild, pitying thoughts lighten for thee
Thy sorrow's load. Err not in harsh despair,
But tears and patience. One thing more, my child: _145
For thine own sake be constant to the love
Thou bearest us; and to the faith that I,
Though wrapped in a strange cloud of crime and shame,
Lived ever holy and unstained. And though
Ill tongues shall wound me, and our common name _150
Be as a mark stamped on thine innocent brow
For men to point at as they pass, do thou
Forbear, and never think a thought unkind
Of those, who perhaps love thee in their graves.
So mayest thou die as I do; fear and pain _155
Being subdued. Farewell! Farewell! Farewell!

BERNARDO:
I cannot say, farewell!

CAMILLO:
Oh, Lady Beatrice!

BEATRICE:
Give yourself no unnecessary pain,
My dear Lord Cardinal. Here, Mother, tie
My girdle for me, and bind up this hair _160
In any simple knot; ay, that does well.
And yours I see is coming down. How often
Have we done this for one another; now
We shall not do it any more. My Lord,
We are quite ready. Well, 'tis very well. _165

THE END.

* * *
父に性的虐待を受けてきたベアトリーチェは、
義母ルクレティアや兄弟の支援を得て父を殺す(史実)。
(この劇では暗殺者を使って殺す。)
この罪(?)に問われて彼女たちは処刑されることになる。

その最後の場面より。

* * *
シェリーの著作中、彼が生きているあいだに
売れた(二版が出た)唯一のもの。

* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。

ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。

商用、盗用、悪用などはないようお願いします。


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