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Jonson (tr.), Horace, Ode 4.1 (To Venus)

ベン・ジョンソン (訳)
ホラティウス、オード 4.1 (ウェヌスに)

ウェヌス、また君は戦いをはじめようとしている。
長く休戦中だったのに。頼む、頼むから、やめてくれ!
わたしはもう違う、かつて、
あのすてきなキナラの虜だったころのわたしではない。やめてくれ、
甘い恋を生む意地悪な女神よ、やめてくれ、
男を虐げるのは。もう50なんだ。
凝り固まっていて、そんな甘い命令には応えられない。
他のところに行ってくれ。ほら、若い奴がやさしい声で君を呼び戻そうとしているぞ。
そうだ、輝く君の白鳥といっしょに
パウルス・マクシムスの家に行けばいい。
彼の客になって、いろいろごちそうになって、そして楽しくおしゃべりでもすればいい。
彼は恋に燃えたがってるから。
彼は身分が高くて、ルックスもいいし、何より若い。
困ってるときにいろいろ口を利いてくれたりもする。
まさに多才多芸で、君の旗持ちとして
あっちこっちで君のために戦ってくれる。
君が、他の男の贈りものより
彼の笑顔のほうをとるなら、
大理石で君の像をつくってくれるぞ、
アルバ湖の近く、オレンジの木の下に。
そこにいって、あふれんばかりのいい香りで
鼻をくんくんさせながら、君は
ハープとリュートにのせたやさしい歌でも聴けばいい。
フリギアのオーボエやフルートもあるだろう。
一日に二回、清らかなメロディにのせて、
少年少女たちが君への讃歌を歌うんだ。
そして軍神マルスの信者たちみたいに、
一日に三回集まって、象牙のようなきれいな足で踊るんだ。
わたしには、もう若い女の子や恋する少年なんて
どうでもいい。愛しあって楽しむ、なんてことはもう期待していない。
からだも健康ではないし、
きれいな花を頭に飾ろうとも思わない。
でもどうして? どうしてなんだ、リグリヌス君、
どうしてわたしの色あせた頬を涙がつたって流れるのだろう?
どうしてきれいな言葉が
口から出てこなくなる? どうしてみじめに黙ってしまう?
君は冷たいよ、リグリヌス君! 毎晩わたしは
君を抱きしめてる夢を見る! でも、君は夜明けとともに逃げていく。
でも、君が鳥になってマルスの野原へ飛んでいこうと、
魚になって曲がりくねったテヴェレ川を泳いでいこうと、わたしは君を追いかける。

* * *
Ben Jonson (tr.)
Horace, Ode 4.1 (To Venus)

Venus, again thou mov’st a war
Long intermitted, pray thee, pray thee spare!
I am not such, as in the reign
Of the good Cynara I was; refrain
Sour mother of sweet Loves, forbear
To bend a man, now at his fiftieth year
Too stubborn for commands so slack:
Go where youth’s soft entreaties call thee back.
More timely hie thee to the house
(With thy bright swans) of Paulus Maximus:
There jest and feast, make him thine host
If a fit liver thou dost seek to toast.
For he’s both noble, lovely, young,
And for the troubled client fills his tongue:
Child of a hundred arts, and far
Will he display the ensigns of thy war.
And when he, smiling, finds his grace
With thee ‘bove all his rivals’ gifts take place,
He’ll thee a marble statue make,
Beneath a sweet-wood roof, near Alba lake;
There shall thy dainty nostril take
In many a gum, and for thy soft ear’s sake
Shall verse be set to harp and lute,
And Phrygian hau’boy, not without the flute.
There twice a day in sacred lays,
The youths and tender maids shall sing thy praise!
And in the Salian manner meet
Thrice ‘bout thy altar, with their ivory feet.
Me now, nor girl, nor wanton boy
Delights, nor credulous hope of mutual joy;
Nor care I now healths to propound
Or with fresh flowers to girt my temples round.
But why, oh why, my Ligurine,
Flow my thin tears down these pale cheeks of mine?
Or why my well-graced words among,
With an uncomely silence, fails my tongue?
Hard-hearted, I dream every night
I hold thee fast! but fled hence with the light,
Whether in Mars his field thou be,
Or Tiber’s winding streams, I follow thee.

* * *
すべての、道を踏みはずしそうな中年以上の方に。

(ちなみに、「リグリヌス君」は男性。
実在かフィクションかは不明。
古代ローマの社会について、
別の意味でちょっと考えさせられる。)

* * *
19世紀末の詩人アーネスト・ダウソンの「シナラ」の
タイトルは、この詩の3-4行から。

Non sum qualis eram bonae
Sub regno Cinarae. . . .

* * *
英語テクストは次のURLのもの。
http://www.poets.org/poetsorg/
poem/book-4-ode-1-venus

* * *
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