馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

必要のないときは外科結びしない方が良い

2017-03-02 | How to 馬医者修行

習慣的に外科結びしている獣医さんが居て、私はときどき注意する。

いつも外科結びするのはやめた方が良い

そう言うと、「エッ?じゃあ外科結びっていつやるんですか?」と訊かれる。

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Equine Surgery
Jorg A. Auer
W B Saunders Co

1992年出版のEquine Surgery。1st ed. この版では結紮と縫合について、Tenessee大学のLee Ann W. Blackford先生がお書きになっている。

square knot (男結び、こま結び、かた結び)の最初の結びが、テンションが強くて傷を引き寄せたまま維持できないときは、最初の結びとして2回捻る外科結びを使うことがある。

しかし、他の場合は、外科結びは避けた方が良い。外科結びは結ぶのに時間がかかり、より多くの縫合材を傷に残すからである。

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この章の筆者、Lee Ann W. Blackford先生は小動物外科の臨床准教授、ということだ。

どうしてEquine Surgeryの外科の基本の章を小動物の先生に書かせたのかわからない。

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Equine Surgery, 4e
Jorg A. Auer Dr Med Vet MS,John A. Stick DVM
Saunders

2012年に出たEquine Surgeryの4th ed. では、結紮と縫合の章はZurich大学のEquine Hospital のJan M. Kummerle先生がお書きになっている。

一般にsquare knots はもっとも信頼できる結紮法だと考えられている。

1回目の結びで傷の端を寄せたのを維持できないときは、外科結びするかもしれない。

しかし、必要があるとき以外は外科結びは避けるべきである。それは傷の中により多くの縫合材を残し、ある縫合糸では結紮の強さを弱めることがあるからである。

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それから、

血管の結紮には、外科結びではなくsquare knot を使うべきである。

とも書かれている。

つまり、外科結びは2回糸を巻くので滑りにくいが、必要なとき以外は使わない方が良い。

糸が余計に創内に残るし、結び難い、というのが理由に挙げられているが、一番の欠点はほどけ易いことだ。

とくに血管の結紮のように、小さいものを結紮すると、結び目が大きい分、ほどけ易い。

そのことを指摘している人の消化器外科のお医者さんもいる。

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金沢で、小動物の外科医たちが手術している動画を観ていたら、外科結びはしていなかった。

ちゃんと基本が守られている。

大動物の獣医師あるいは外科医が基本を守らなかったり、知らなかったら残念じゃないか。

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今日は暖かかった。

春の陽気だった。

生産地の馬の獣医師になって30年余り、春にウキウキしたことはない。

 

 

 

 

 

 

 



10 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2017-03-02 21:16:10
 以前縫合糸のことを記事にしていましたが、それを含め選択肢は結構あるけど、大まかには決まっているのでしょうね。外科医って、かなりこだわりがあって、道具をオーダーしたり、というイメージではありますが、基本大事でオリジナリティーに走って治療成績落ちゃダメですね。
 抜糸のお手間はおかけしたくないはとぽっけはちゃんと治って、抜糸しなくてもいいか、痛くなく自分で抜糸できるのが一番ですけど。
 いつか、うきうきと春を堪能する時がくるのでしょうか、それを心待ちにするときもあるのでしょうか。
 オラ君も四季を感じているのでしょうね。人とは違う感情かもしれないけれど。
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>はとぽっけさん (hig)
2017-03-03 05:57:51
基本はsquare knot ということです。surgeons knotは名前が名前ですから、手術では外科結び、となんでも外科結びしている外科医、獣医師がいます。そして、糸が解ける要因になっています。それではイカン。と成書には書かれているのですが、そんな基本の章から読む人は少ないのかもしれません。
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Unknown (anko)
2017-03-03 19:03:48
確かに大学の先生は無駄に糸を残置するなと仰ってたと思います。

うーん、分けてやってるつもりですがもしかしたら無意識に外科結びしてるかもしれません。
後輩にもどこまで指摘できているか。
気を付けます。

私も金沢行きました。
小動物の消化管外科、聞きました。自分には大変勉強になる内容でした。先生をお見かけしたのでなにかコメントがあるかな!と期待しちゃってました。
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>ankoさん (hig)
2017-03-03 19:43:37
外科結びの欠点は糸が長くなることよりほどけ易いことだと思うのですよね。大動物獣医師は習慣的に外科結びをしている人が多いと思います。強い張力に耐える縫合をしないといけないことが多いからかもしれませんが、いつも外科結びをするのは間違いです。

小動物の消化器外科のセッションは・・・・馬の方が腸管手術が多いのでしょう。この程度か、が実感でした。
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Unknown (ゆめ)
2017-03-06 09:09:22
小動物臨床に戻った頃、まだ絹糸もカットガット!さえあって、上から言われて外科結びしてました。
色々あって今はほぼ合成吸収糸ですが、そこで外科結びは弛むことに気付き、今はほぼスクエアノットです。
その反面外科結びが滑らないことに感動してます。
で、何が言いたいかと言うと、何故滑らないしよく締まる絹糸やガットで外科結びやってたんだろう…と。
ガット使いやすかったのに復活…しないですよね。
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>ゆめさん (hig)
2017-03-06 17:48:17
カットガットはとくに外科結びしてはいけないとEquine Surgeryには書かれています。切れるからだそうです。私は使ったことがないのでわかりませんが。
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Unknown (ゆめ)
2017-03-06 22:05:56
そうですね。確かに他のよりは切れやすいかもです。外科結びだから切れやすいとは思いませんでしたが、摩擦の関係かも知れません。
ただ、張力のかからないところならば、ガットが勝手に水分吸って膨張して自ら締まってくれるのでこんな便利なものはない!って当時思いました。
どちらにしても復活はないでしょうし、腕を磨くしかないのですね。
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>ゆめさん (hig)
2017-03-07 05:20:46
ほう、カットガットはそういう感じでしたか。

現在は、モノフィラメントでない縫合糸を使う理由はない、というモノフィラメント派の外科医も多いようです。緩み易さ、切れやすさなど、扱いにチョット注意が必要でしょうね。
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Unknown (anko)
2017-03-14 16:47:58
あれから1週間、注意して手術してみましたが、やはり無意識にやってたなーと分かりました。
牛は糸も無駄に太いなと感じます。
四変再発とか、自分はあまり経験ないですがもしかしたら糸の緩みという目も当てられない原因があるのかもしれません。
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>ankoさん (hig)
2017-03-15 05:08:08
習慣になっていると、意識しないままやってしまいますし、やめるにはかなりの注意が必要ですよね。そして、さしたるトラブルにはならないので、多くの獣医師が習慣的に外科結びをしていると思います。しかし、血管結紮や、皮下織の縫合など、小さい組織を縛るときにはほどける要因になっています。
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