馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

回虫症 切らない選択

2022-09-05 | 急性腹症

ソルビーシロップ(ピランテル製剤)がまだ販売されていた頃、駆虫すると死んだ回虫が詰まるのだろう、疝痛を示して、翌日には馬房内でうどんの丼をひっくりかえしたように回虫が出ることがあった。

疝痛がひどかったり、治まらなかったりすると、手術に連れて来られることもあったが、

小腸を切開して詰まっている回虫を排泄させても、癒着により1年後に生きている馬は半数足らずだった。

重積を起こしていて、小腸を切除・吻合した馬は、長期生存率はもっと低かった。

考えられる理由は、先日までに書いた。

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最近は、イベルメクチンでしか駆虫されておらず、回虫が生きていて疝痛を起こしている子馬が多い。

重積を起こしていることがほとんどなのだが、手術しても成績はよろしくない。

以前の死んだ回虫によるパターンよりさらに悪いと感じている。

手術している最中、手術したあと、も回虫が悪影響を及ぼすからだ。

細かい理由は、先の記事に書いた。

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先日、子馬の疝痛が連れてこられた。

イベルメクチンで1回駆虫されているが、フルモキサールはまだやってない。

やらなければと思っていたけど、子馬が下痢したりで、やっていなかった、とのこと。

超音波で観ると小腸が膨満している部分があり、中で回虫が泳いでいる部分もあった。

ただ、腹底で観ても、右膁部で観ても、重積像は見つからなかった。

(小腸重積を起こした部分は重いので腹底で見えることが多い。

空腸回腸が盲腸へ重積すると右膁部で見えることが多い。)

フルモキサールで駆虫して様子を観てもらうことにした。

翌日の分もフルモキサールを渡しておいた。

そして、他の子馬もすぐ駆虫するようにアドバイスした。

翌朝、担当の獣医師に電話をしたらまだ痛がっている、とのこと。

しかし、翌々日には回虫が排泄され、疝痛もおちついたようだった。

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もう20年も前、回虫症で疝痛を起こした子馬が入院し、重積は起こしていないようだったので開腹手術はせず様子を観たことがあった。

腸管手術しても予後は良いとは言えないことを知っていたから。

2日後くらいだと思うが、回虫が排泄され、疝痛は落ち着いたが、子馬は死んでしまった。

回虫が詰まっていた部分が壊死したのだろう。

「入院させているのに、どうして死んでしまったんですか?」と牧場の社長に聞かれたが、

「正しい駆虫をしないからこうなったんです」

「死んでしまった子馬は仕方がない。同じことをしていたら他の子馬もこうなりますよ」と答えた。

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回虫が疝痛を起こすほど増えてしまったら、子馬も、牧場も、獣医師も、辛い判断と経験をすることになる。

何度も、何度も、毎年、このブログにも書いている。

正しく、有効な、駆虫を。

そして、駆虫だけに頼らない寄生虫対策を。

子馬の回虫症多発時季は、9月から、とされている。

私の経験ではもっと早いけどね。

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園内一周に疲れて出口へ向かっていたら、たまたまキリンのモグモグタイム。

キリンは馬医者にとってもとても興味深い動物だ。

頚や肢が長い馬を選抜してきたがゆえのサラブレッドの障害を考えるとき、

じゃあキリンはどうなってるの?と思うからだ。

動物園でキリンに高いところで採食させずに育てるとキリンの頚は少し短くなってしまうらしい。

馬は地面の草を食べて生きてきた動物だ。

私は、「飼い桶は胸の高さに吊る」は、望ましくないんじゃないかと昔から考えている。

 

 



4 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2022-09-05 07:02:41
 これまでも具体的に正しい駆虫や駆虫薬だけに頼らない環境への提言があったのだから、実践してほしいですね。できない理由の一部は獣医さんが解決してくれることかもしれないし。元気に健康に育てて高く売れるといいですね

 キリンでは蹄のことを考えたのかと思っていたので、ちょっと意外。
 採餌姿勢はそこまで考えたことがなかったけど、キリンのご飯を地べたに置くのは不自然かなと。馬のこと、具体的な弊害事例、予測があれば訊きたいです。
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>はとぽっけさん (hig)
2022-09-05 07:14:46
先月、回虫症で死んだ牧場には、獣医師が駆虫指導していたそうです。しかし、「面倒だからやりたくない」との回答だったとのこと。子馬が死んでからは改善されたようです。

アフリカでのキリンは、ほとんど樹の葉を食べているのでしょうか?
馬は、むかし高いところにある草架に入れた草を食べさせている牧場もありました。呼吸器にも良くないそうです。ホコリを吸い込むからでしょう。
床に餌を置かないのは、踏みつけて無駄になるからです。しかし、高い所の餌を食べるのは歯の磨耗にも良くない、という説もあります。
馬は12-16時間採食行動をします。頭を下げ採食するのが自然な動物なんじゃないか、と思います。
乗馬や競走馬が床のものをいっさい食べないなら、頚のストレッチ不足にならないでしょうか??
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Unknown (風来坊)
2022-09-06 13:35:35
北海道本店の育成場は、かなりマメに虫下しを依頼されます
イベルメクチン以外のやつ持ってこいと指名つきで・・・
本州本店の育成場さんには、虫下しの話こちらからしないとあまりしてくれていない
と言う、傾向があると過去のカルテひっくり返して、先週わかりました
はてさて、どうしよう・・・
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>風来坊さん (hig)
2022-09-07 05:30:28
北海道本店の育成場には生産地からいろいろ情報が入っているのでしょうね。育成馬、現役競走馬の駆虫状況、その必要性がどうかは実にさまざまだと思います。ぜんぜんやってない、はよろしくないでしょうね。

2歳以上はまず回虫は居ないと思うので、イベルメクチンとプラジクワンテルの合剤で良いと思いますが・・・
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