苫小牧で開かれた社台ホースクリニック症例検討会に、昨年に引き続いて参加させてもらっ た。
たいへん勉強になるし、刺激になるし、楽しい時間だった。
臨床家にとって症例から学ぶことこそもっとも大切なことだろう。
そして、1例1例を大切にしていくことは当たり前のようでいて、なかなか難しいことだ。
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ちょっと思ったこと・・・
Salmonellaの馬群への侵入はUSAの獣医大学病院など常時入院馬がいる病院でも問題になっている。
入院する馬は培養とPCRでsalmonellaをチェックされていて、保菌しているとわかると入院を拒否されたり、隔離病棟へ入れられたりもする。
PCRなどはかえって鋭敏すぎるので解釈が難しいくらいらしい。
日本ではPCRによるsalmonellaの保菌検査の実施は難しいのだろうか?
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術後感染の予防にセフェム系の抗生物質を使うのは、私は必要ないと思うし、反対だ。
海外では、獣医師には効能をとっている動物薬以外のセフェム系抗生物質の使用を禁止している国もある。
病原菌の薬剤耐性が進み、人医療で問題になるのを防ぐためだ。
そうならないように(人医療での耐性を促進してしまわないように・それを恐れて動物への使用が画一的規制されないように)、馬の獣医師も考える必要があるのではないか。
安易に人体薬を使うべきではないし、まして予防的に投与するについては必要性を慎重に検討すべきだと思う。
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うちでも2000頭を超える関節鏡手術をしてきたが、関節鏡手術そのもので細菌性関節炎を引き起こしたことはない(と思っている)。
もし、幸運なだけではないとしたら、術野の毛を剃らないこと、吸収性モノフィラメントの糸で縫合すること、灌流液にマイシリンを入れていること、術前に抗生物質を投与すること、などが意味があるのかもしれない。
術後もほとんどすべての症例でマイシリンしか使っていないはずだ。
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細菌性関節炎であっても関節液から菌分離できないことは多い。
まだ抗生物質を投与していなくても、カルチャーボトルに採材しても、菌分離できることのほうが少ないくらいだろう。
viable but unculturable (生きているが培養できない) は、しばしばあることだ。
牛の乳房炎の検体でも20%以上は培養陰性だ。
しかし、原因菌は嫌気性菌でもなければ培養できない特殊な菌でもなく、ありふれた好気性菌なのだろう。
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1例1例をきちんと診断し、治療し、結果がどうあれ記録を残しておくことの大切さをあらためて認識した。
そう、それがEvidence(根拠)として使えるように。
帰り道、ちょっと休憩。
一口に馬と言っても、種類や飼われている環境や、与えられるストレスや、対象とする疾病がちがうと一概には云々できないのですが、いろんな意味で慎重に根拠に基づいて治療法や薬剤の選択をしたいものです。
強い抗生物質、新しい抗生物質、より多い投与量。になりがちですが、原因菌の分離、同定、感受性試験も含めて、感染の病態をできるだけ正確に把握して治療したいところです。もちろん、それがなかなか難しいことは知っています。
きれいな夕焼けは一日のご褒美のようですね。
初診からゲンタマイシンやセフェム系を選択する人がいます。
効を焦っているようで、私は好みません。
後輩や同僚には、マイシリンから入れと言っています。
症状をよく診なくなるおそれもありますし。
牛の乳房炎では、ファーストチョイスを皆うるさく言っているのに
馬となると焦って早く済ませようとする傾向にあるのは
こちらの獣医師の自信のなさの裏返しのような気がします(苦笑)
高価な馬だからいきなり高価な人体薬というのは安易だと思うし
重輓馬や小型馬の現場では付いて行けません。
馬への効能の明確な薬剤を大事に使いたいものです。
昨日の夕焼けは綺麗でしたね。