真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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オトナのしをり とぢて、ひらいて
加藤義一
/
2021年12月15日
「
オトナのしをり とぢて、ひらいて
」(2020/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/演出部応援:小関裕次郎/撮影助手:赤羽一真/撮影部応援:酒村多緒/スチール:本田あきら/協力:広瀬寛巳・鎌田一利/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:神咲詩織・雪乃凛央・大原りま・細川佳央・折笠慎也・竹本泰志)。加藤映像工房のクレジットが地味に難敵なのが、友愛学園音楽部の担当が音楽と選曲とで映画毎にブレる。
神咲詩織の朗読で“リョウと今、ひとつになる”。イメージ風の絡みは語り部の胸キュン女子高生―劇中用語ママ―が栗原良、あるいはジョージ川崎、もしくは相原涼二に抱かれてゐる訳では残念ながらといふか無論なく、矢張り劇中用語ママで“ビブリオワーク”なる要は文学フリマに本名で参戦する叶章子(神咲)の、執筆中新作のハイライト。一見冴えない同級生の田尻が、覆面アイドル・マサキリョウの正体。とかある意味清々しい類型的な内容に煮詰まつた章子が、愕然とPCに項垂れる背中にタイトル・イン。に、しても。結構な高頻度で首を傾げさせられるのが、その部屋一体何畳あるのよ?といふ一介の事務員に過ぎない章子居室の広さ。自宅のあばら家もあばら家、破屋界的にも結構ハードコアなあばら家で撮影する、といふかしてゐた―現状を追認するものでは断じてない―荒木太郎もそれはそれであんまりだけれど、ピンクの中の日本、経済政策間違つてなさすぎだろ。別の意味での、夢物語の趣さへ漂ふ。
毎日定時でザクッと離脱する、章子の理想的な職場は零細不動産会社「藤山不動産」。理想的な職場とかつい何となくな流れでキーを滑らせてしまつたが、土台労働が賃金の発生する時間の無駄でしかない以上、如何なる環境であれイデアの名になど値するものか、解放されるに如くはない。非人道的極まりない残虐卑劣な第二十七条一項の削除こそが、改憲のいの一番である。
激越に叫ぶ真理はさて措き
、国語教師の職を辞し亡父の遺した会社を継いだ、社長・藤山正彦(竹本)の理解にも恵まれ締切前には有給もほいほい貰へたりする中、頻りに口説いて来る、ウェーイな営業・増永(折笠)のウザさに章子は頭を悩ませてゐた。
配役残り、雪乃凛央は藤山が多分運転資金を無心する、元妻で同じく教職に就いてゐた高子、復元した旧姓不明。元夫に貸すほど高子が金を持つてゐるのが、単なる塾講師なのか、経営してゐるのかは例によつて遣り取りが不鮮明。その辺りを埋めて呉れないから、締まらない。細川佳央は合鍵も渡されてゐる割に章子と男女の仲には全くない、大学時代からの文クラ親友・水島来夢。今時珍しい威勢のいゝ詰めぷりの大原りまは、当初章子には知人と称される、増永の要は彼女・佐藤マリア。二言目には「うむ」をアクセント的な口癖に、一人称が“あたい”のズベ公口跡を大仰に操る傾(かぶ)いた造形が、狙つたものにせよ決して外してはゐないし、もしも仮に万が一、初陣女優の壮絶な台詞回しに頭を抱へた、苦肉の起死回生であつたなら加藤義一超絶大勝利。その他、藤山と高子が常用するレストランに、鎌田一利(a.k.a.筆鬼一)が見切れてゐるのは楽勝につき兎も角、声だけ聞かせる、増永が応対するヤサ探しの来客がひろぽんであるのか否かには辿り着けず。
鎌田一利とのコンビも
漸く安定
して来たのか、
相ッ変ら
ず
木端微塵
なのかよく判らない加藤義一2020年第二作。神咲詩織がAV引退後も、ピンクには継戦してゐる模様。
水島の助言に従ひ一度だけの前提で増永との食事に付き合つた章子は、結局その夜のうちにサクサク喰はれた挙句、翌日には自室に連れ込む始末。設定上は章子が抱へてゐる筈の恋愛に関するトラウマなんて何処吹く風、腐女子がヤリチン野郎にチョロ負かされる無体な写実主義であつたとしても、神咲詩織の裸さへ潤沢に確保してあれば、水島が流す血の涙といふ我々の琴線を激しく弾き千切らずにはをれない、切札的エモーション込みでお話が成立し得なくもなかつた気もしつつ。結局物語を、三本柱で案外三等分。増永の手垢に関しては概ね等閑視して済ませた上での、上手いこと実る水島と章子オタク同士の一応純愛に、そもそも何でこの二人が別れたのかが映画を観てゐてまるでピンと来ない、高子と藤山がライオンファイアする焼けぼつくひ。と、あれだけ執拗に章子を口説いてゐた姿に正直齟齬か便宜みは否めない増永の、エキセントリックな本命に唯々と振り回される悲喜劇。ミスキャストすれッすれに若い二番手と、主に竹本泰志の口から散発的に放り投げられるばかりで、芽吹くなり根を張るどころか、木に竹も接がない人間交差点か黄昏流星群か、まあ似たやうな人生訓的モチーフに鼻白む点に目を瞑れば、寧ろ馬鹿正直にドラマを三分割した結果、一撃の威力も三分の一に。破綻はしてゐない程度の、漫然とした三者三様といつた印象が強い。とりあへず、締めの濡れ場を腰を据ゑて完遂に至らせない、十万億土の彼方へカタルシスを放逐する悪弊は如何なものか。もひとつ呆れ果てて匙を投げたのが、藤山不動産のパラノーマルかロステクな通信環境。画面逆さにした扇の要に座る藤山の、即ち電話機の端子口が正面を向く画角に逃げ場のない、机上の固定電話が物理的にすらオフラインの大概な無頓着に、加藤義一は銀幕の大きさで観客が気づかないとでも思つてゐるのか、二十年間何をしてゐたんだ。といふか百歩譲つて俳優部はまだしも、撮影部も撮影部で立ち止まらなかつたのかな。
筆の根も乾かぬ反面、感心したのはカミナリ信用金庫―漢字だろ―から融資を切られた藤山が、例によつて高子から金を借りての帰途、高子の方から膳を据ゑる件。藤山が突かれた不意に合はせカットを跨いだロングで、一拍おいて二人の脇を電車が通過する。当然、即座にもう一回カットを跨いだ先は藤山の寝室。全く以て紋切り型的な繋ぎを、あくまで紋切り型は紋切り型のまゝ、それでも綺麗に撃ち抜いてみせる馬鹿にならない地力は、満更二十年も伊達ではなかつたらしい。
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