真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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女ざかり 白く濡れた太股
小川欽也
/
2021年12月07日
「
女ざかり 白く濡れた太股
」(2020/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/撮影助手:赤羽一真/協力:小関裕次郎・鎌田一利/スチール:本田あきら/音楽:OK企画/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:可児正光・しじみ・平川直大・小野さち子・西森エリカ・初美りん)。いつそ倒立させた方がピンと来さうなビリングに関しては、出演順と明示される。脚本の水谷一二三は、小川欽也の変名。
伊豆急行伊豆高原駅に降り立つた大学院生の武石和生(可児)が、母親の四十九日―父は先に没―も済ませた一段落ゆゑ冬休みを別荘で過ごす旨、大きく伸びでもしがてら説明台詞で全部語る。当然ロンモチ自動的に花宴の武石家別荘に到着した和生改め、劇中呼称で若旦那を別荘番の山田武(平川)と、お手伝ひの小川佳代(しじみ)が歓待。しじみのロイドが狂ほしくキュートで琴線を激しく掻き鳴らす一方、もしくはもしかすると、もーしーかーすると―しねえよ―さういふ造形なのか、平川直大はセットのおかしなツーブロックが、変に老けて映る。その夜、書名が見えさうで識別出来ない文庫本に厭いた和生は、戯れに庭を散策。離れなのか和生が佳代の居室を覗いてみると、山田相手の奔放が豪快の領域に跨いだ情事を目撃。翌日、東京に忘れて来たPCを取りに行かせる方便で、二三日分の小遣ひも渡し山田を人払ひした和生は、敷居の乾く間もなく佳代に朝風呂の背中を流させる。山田が出発した玄関の扉が閉まるや否や和生が佳代を呼ぶ、脊髄で折り返す速さはギャグの空気に片足突つ込みかけつつ、夢なり理想を形にする営みの、ひとつのメルクマールといへるのかも知れない。
人外の強精を誇る和生が超速でリロードする、連戦が永久(とこしへ)に終らないかに思はせた佳代との濡れ場明け。配役残り、本篇キャプションまゝで“隣の後家”とかぞんざいなイントロで飛び込んで来る小野さち子が、花宴の隣に暮らすだから後家・鈴木枝里。予告に於いては“圧倒的ヒロイン”だなどと称される通り越して賞される、西森エリカが枝里の娘のリカで、初美りんは鈴木家のお手伝ひ・久保芳子。ちなみにポスターでの序列は、西森エリカが頭で以下初美りん・小野さち子・しじみと続く。それと定位置の座をナオヒーローに譲つた大旦那の姿良三(=小川欽也)は、官憲の出る幕があるでなく、今回はお休み。
コロニャン禍の皺が寄つたか単なる公開待機なら別に構はないが、気づくと今年この期に沈黙してゐるのが地味に気懸りでもある小川欽也の、伊豆で始まり伊豆で終る2020伊豆映画は、五本柱の扱ひが大体均等な前作「
5人の女 愛と金とセックスと…
」(2019/
実質主演:平川直大
)からの、西森エリカ主演出世作、一応。今作とは全く関係ない純然たる世間話的な余談ではあれ、従来月の半分しか新作が来ないKMZこと小倉名画座が、新居に通信回線が繋がらないオフ島太郎から現し世に帰還したところ、先月がよもやまさかの五連撃、藪から棒にどうしたんだ。御蔭で前の週に来てゐた、石川欣の三十二年ぶり帰還作を知らなくて逃がす始末、落ち着いたら外王で拾つて来る。地元駅前ロマンでも新東宝が放り込んで来るど旧作とロマポが渋滞してゐる状況につき、降つて湧いた火事場が何時収束するのかは正直知らんけど。
和生に対し明確に性的な食指を伸ばす枝里は、ジュエルリングみたいな素頓狂な指輪で佳代を籠絡。“将を討つには”―将はリカを指す―云々と和生をハチャメチャに言ひ包めた佳代が、枝里に対する夜這ひをけしかける一方、リカはリカで和生に向ける、仄かな想ひを芳子も酌む。アクティブに暗躍する両家の家政婦に背中を押され、可児正光が棹の萎える暇もなく只々ひらすらに、母娘丼に止(とど)まらず女優部を総嘗めし倒す最早抜けるほどの底すら存在しない、淀みなく絡みの連ねられる一作。開巻第一声の方法論が結局以降全篇を貫く、展開の逐一を随時俳優部にしかもなダイアローグで開陳させる懇切作劇が割りかけた徳俵を、的確な選曲で神憑り的に回避。首から上は全然さうでもないのに、体の肌が妙に汚いしじみのコンディションと、木に竹を接ぐ山田の帰伊―もしくは帰豆―を除けばツッコミ処らしいツッコミ処にさへ欠く、限りなく透明に近い物語がこれで眠りに誘はれるでもないのが我ながら不思議ではあれ、勝手気儘な外様を中心に、銘々が時代に即したピンク映画の在り様を摸索する中、プリミティブな原点に堂々と回帰してのける姿はある意味頼もしく、同等のポジションで映画を撮り続けられる人間が今や事実上小川欽也しかゐない以上、寧ろさうであつて貰はないと困る。ともいへるの、かな、あんま自信ない。とまれ、新奇な手法ないしアプローチばかりが、新しいとは必ずしも限らない。既に通り過ぎたつもりの道で、何某かを完成させたあるいは、これから凌駕してみせるといふのは大抵大概不遜な思ひ込みに過ぎず、万物はしばしば円環を成す。女の裸を、銀幕に載せる。観客の、観たいものを見せる。本義を見失つた―か最初から一瞥だに呉れない―量産型裸映画が、総数自体大した数でもない割に目か鼻につくきのふけふ。小川欽也が辿り着いた現代ピンクの案外到達点・伊豆映画のそれはそれとしてそれなりの清々しさが、穏やかに際立つ。さうは、いつてもだな。流石にこれだけお話が薄いと、七十分の尺は如何せん長からう。一本四千二百秒で撮らせないと家族が死ぬ呪ひをかけられてゐる訳でも別にあるまい、大蔵は今上御大―と希望する者―には従来通りの一時間を特例で認めては如何か。
西森エリカは相変らず心許なく、ex.持田茜は体調不良。小野さち子は今時よくこの人連れて来たなとさへ思へなくもない、熟女枠の範疇でも更に灰汁の強いマニア専用機。実は作中最強の輝きと安定感を煌めかせるのは、二番手にして三戦目の初美りん。ハイライトは朝食を持つて来た佳代を捕まへ和生が致してゐたところ、佳代お手製の人参酒を持参し、芳子が勝手に上がり込んで来てゐる件。水を差され要は生殺しにされた格好の和生が、芳子の有責を方便に覆ひ被さるのを合図に一旦止まつてゐた、ズンドコ劇伴が再起動する何気に完璧なカットには声が出た。
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