真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「看護女子寮 凌された天使」(昭和62/製作:《株》フィルムキッズ/提供:にっかつ/監督:堀内靖博/脚本:加藤正人/企画:角田豊/プロデューサー:千葉好二/撮影:志賀葉一/照明:金沢正夫/編集:鈴木歓《J.K.S》/助監督:大工原正樹/色彩計測:三浦忠/監督助手:勝山茂雄・田山雅邦/撮影助手:林誠/照明助手:関野高弘/音楽:金刺勝治/スチール:田中欣一・長内昌利/現像:IMAGICA/録音:ニューメグロスタジオ/出演:瀬川智美・小林あい・小川真実・くまもと吉成・下元史朗・長谷川誉・西本健吾)。出演者中、小林あいにポスターではロマン子クラブ No.4特記。あとポスターにのみ、内藤忠司の名前も並ぶ。
 歩道橋越しの仰角で捉へた観覧車にクレジット起動、アスファルトに絵を描く幼女(クレジットなし)と、観覧車を背負ひフレームに入る主演女優。ほてほて歩くロングのタイトル・イン経て、新人看護婦のササノ由加里(瀬川)が辿り着いた先は、白百合総合病院寮「シオンの家」。自室に入り、念願叶つて戴帽した由加里が改めてナース帽を載せてみた鏡の中に、同室の君江(小林)が咥へ煙草のサングラスで映り込んで来る。そんなこんなな実務風景、飯田健治(西本)を健診した由加里のパンティを、ベッドの下に潜り込んで覗く相部屋のサイトー役で、飛び込んで来るのがまさかの内藤忠司。確認出来る資料が見当たらず、もしかすると今回が内藤忠司の俳優部初仕事となるのかも知れない、堀内靖博と何か繋がりでもあるのかな。閑話休題、病院から近いのか、白百合関係の客が無闇に多い下元史朗がマスターの店。君江らが由加里の歓迎会を開いてゐると、腹を開く手術をしてゐた割に、後の台詞では当該患者を指して複雑骨折だとか、脚本がやらかしたか内科なのか外科なのかよく判らないハンサム医師・村岡(くまもと)や、婦長的なポジションにあると思しき小川真実も来店する。君江が寮に男を連れ込み中につき、帰るに帰れず公園で黄昏てゐる由加里を、急患を手伝つた縁の村岡が拾ふ。配役残り、長谷川誉は君江の彼氏くらゐしか役らしい役も見当たらないが、何せ夜這ひを敢行するシークエンスゆゑ殊に男の面相如き闇に沈み、誰であらうと識別出来る形で首から上が抜かれはしない。
 五年後に「8マン すべての寂しい夜のために」(1992)でリム出版に引導を渡す格好となる堀内靖博の、昭和62年第一作にしてロマポ通算五作の第三作。この人日活入社でキャリアをスタートさせたサラブレッドの割に、今作と次作の二本、買取系を撮つてゐたりもする、退社した?その辺り元来専門外のよしなしはこの際さて措き、寧ろより重要なのが、小川真実デビュー作といふ何気でないトピック。
 村岡宅に直行で連れ込まれた由加里はサクサク喰はれた上、ケロッと関係を深めて行く。一方、退院したぽい健治が由加里にラブレターを渡してみたり、結局因縁の内実には欠片たりとて踏み込まないまゝ、村岡から捨てられた小川真実が、由加里に対する横槍を拗らせる。一応深夜の院内に於ける大立回り的一幕も設けられるとはいへ、看護婦と医者とex.入院患者が織り成す3.5角関係―0.5はオガマミ分―が基本娑婆で他愛なく繰り広げられる、白衣要素は案外薄い一作。アバンで幼女が描いた落書きを、特機感の清々しい土砂降りで洗ひ流す。ダサさも微笑ましいラストで一皮剝けた由加里の、いはゆる大人の階段的なプログレスを描く物語は手堅く纏まつてはゐる程度で、面子の中で西本健吾のところに開いた軟弱な穴も否み難く、特段喝采するほど面白くは別にない。反面、由加里と村岡の二戦目を、様々な趣向を尺も費やし入念に展開。ストロングスタイルの素晴らしい濡れ場は、裸映画的に確かなハイライト。たださうなると、徐々に性質の悪い加虐嗜好者の相を露呈する村岡に、若さを弾けさせる小川真実―の絡みは下元史朗が介錯する―がコッ酷く責められる。エクストリームな回想を設けておいて欲しかつた、画竜点睛レスに心を残す。

 とこ、ろで。この映画が小川真実の初陣で、ほんなら引退試合は何かといふと、愛染恭子の脱ぎ納めも兼ねた「奴隷船」(2010/監督:金田敬/福原彰=福俵満と共同脚本)。二十有余年と元号はおろか世紀をも超え、何れにも内藤忠司が紛れ込んでゐる単なる偶然にしてはな奇縁が、そこはかとなく琴線に触れる。


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