真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ドM卒業 さよなら、ご主人様」(2015/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:小山悟/脚本:当方ボーカル/撮影・照明:田宮健彦/編集:有馬潜/録音:岩倉雅之/音楽:膳立煙猫/助監督:小鷹裕/視覚効果:漆埼稔則/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:高嶋正人/スチール:阿部真也/MA:EEスタジオ/仕上げ:東映ラボ・テック/ロケ協力:渋谷ディザイア・スタジオair garage/エンディング曲『仰げば尊し』歌:ラブリバー肉彦with小山組オール駄馬ーズ/出演:佐山愛・神咲詩織・森羅万象・中田暁良・和田光沙・津田篤・井尻鯛・バルカン・膳立煙猫・シャークしゃめやま・阿部さん・サーモン鮭山)。出演者中、井尻鯛から阿部さんまでは本篇クレジットのみ。
 「仰げば尊し」を断片的に歌ひながら、ほんの少し前まで女子高生の坂上愛実(佐山)が、判り易くビルの屋上の縁に立つ。手には赤いネクタイの巻かれた、卒業証書の筒。“今こそ 別れめ”まで辿り着いたところで、“いざさらば”とサーモン鮭山の声が飛び込んで来る。一年前、愛実は上山蒼太(サーモン)に安アパートの一室に拉致され、通ひ奴隷として数々の被虐嗜好を仕込まれる。ところが、ある意味筋金入りの変態で女子高生にしか関心を持たない上山は、卒業を機に赤ネクタイ一本寄こし愛実を放逐。仕込むだけ仕込んでおいていはば梯子を外された塩梅の愛実が、屋上に至つたといふ次第。改めて、愛実が“いざさらば”と歌ひきりタイトル・イン。ところが、“好きな場所”の大雑把な一点突破でその場に現れた、他校の制服を着た森口歩美(神咲)に愛実のダイブは阻止される。同じ方向の帰り道がてら歩美と仲良くなつた愛実は、歩美を手本に“普通”にならうと、なかなか抜けぬドM性癖と悪戦苦闘する。
 詰めきれない配役残り、何があつたのか左足の膝の皿が割れてゐるとの井尻鯛(=江尻大)は松葉杖で愛実を責める、ポジションのよく判らない男。俳優部を賑やかすのもいいけれど、早く―ピンクでも―単独監督デビューして欲しい。中田暁良は歩美のバイト先「air garage」のオーナー?てこたないか、従業員の松澤貴士。歩美の彼氏となり、傍から眺める愛実の焦燥に火に油を注ぐ。森羅万象は愛実就職先の高島部長、三こすり半レベルの早漏と極厚コンドームを愛用し、ノーマルの味を覚えたい愛実に不満ばかり残す。脱ぎはしない和田光沙は、ネットを介した愛実のドM卒業遍歴の中で、行為を撮影させられるカッ飛んだガングロ帰国子女・半田由佳、津田篤がそのパートナー。問題がこゝから、顔出しと台詞ありのビリング推定で、バルカンが会社を辞めた愛実が門を叩く、SMクラブの男?同じく顔は出さないが台詞はあるビリング推定で、膳立煙猫は正体不明の配信男?因みに膳立煙猫といふのは、小山悟前作「いんらんな女神たち ~目覚め~」(2014/永井吾一=永井卓爾と半分づつ監督/主演:友田彩也香)に於いても使用した小鷹裕の変名。となると完全不完全消去法で、シャークしゃめやまと阿部さんが、意を決して訪ねた愛実の目前で上山をショッ引く刑事と、遠目に取り残される制服の上から縄をかけられた愛実の後釜か。普通に渋い男前の阿部さんといふのは、もしかして阿部真也?
 計六人の新人監督が合同初陣に挑んだいんらんな女神たち勢の中で、その後沙汰を聞かない中川大資に続く小山悟の一人立ち作。以降順調に二作を発表、しかも最新第三作では栄えある大蔵伝統の新春痴漢電車をも務めた小山悟が飛び抜けた格好だが、江尻大だけでなく、私見では「いんらんな女神たち」二部作を通して最高の仕事を刻んだ、永井卓爾の単独監督デビュー作も早く観たい。
 漫然とながら最終的には派手にやらかした中川大資に対し、小山悟が地力の差を見せつけたといつたところか、貴士とそれこそ普通にイチャラブする歩美と、堂々巡りの末に変態から足を洗ふどころかますます拗らせて行く愛実の対比は、潔く三番手を廃した布陣込みで、裸映画的にひとまづ十全に成立する。結局百まで踊りを忘れられなかつた雀が、豪快な力技とともに開巻に立ち返る大胆な構成には、さう来やがつたかと驚きついでに胸が躍つた。それだけに、これはことによるとデッドなエンドを嫌つた大本営の横槍との妥協点なのかも知れないが、見映えから甚だ中途半端な、虹ラストには一体何がやりたかつたのかと感嘆符をオミットした巨大な疑問符だけが残される。滑つたオチが、全体に影響を及ぼさぬ訳もなく。となると配信男を頂点に、由佳の件辺りの徒な俳優部の頭数の多さは諸刃の剣で焦点の絞り込めなさを際立たせ、そもそも、捨てられるや自死を思ひたつほどの、愛実が上山に調教される過程がイントロダクション程度で丸々スッ飛ばされて済ますのも、ピンク映画としてはなほさら物足りない。そこそこには面白いものの、なかなかしつくり来ない一作ではある。

 以下は「情炎の島 濡れた熱帯夜」(脚本・監督:山内大輔/主演:朝倉ことみ・川瀬陽太)を通つた上での付記< 不明分の配役の内、イコール小鷹裕の膳立煙猫がSMクラブの男。となると配信男はバルカンで、小関裕次郎?
 再付記< バルカンは小関裕次郎でなく、菊嶌稔章の変名。何故バルカンなのか、あるいはどのバルカンなのかは知らん
 虹ラストに関する備忘録< 結局歩美にも匙を投げられるのはスーサイド落下途中の幻想かと思ひきや、謎バンジーからの大潮噴きにヤケクソなCGでかゝる虹


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