真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美人セールスレディ 後ろから汚せ」(2006/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影:調所紀芳/照明:岩崎豊/助監督:加藤義一/監督助手:横江宏樹/撮影助手:吉田剛毅/照明助手:小山悟/効果:東京スクリーンサービス/音楽:OK企画/出演:@YOU・島田香奈・風間今日子・竹本泰志・ヒョウドウミキヒロ・平川直大・石動三六・天磨・なかみつせいじ)。脚本の水谷一二三は、小川欽也の変名。撮影の調所紀芳は、ex.図書紀芳。出演者中、天磨は本篇クレジットのみ。
 開巻、主人公の美人セールスレディたる小林裕子(@YOU)と恋人・高橋健二(平川)の、行はれてゐること自体は何といふこともない濡れ場に、いきなり度肝を抜かれる。何に驚かされたのかといふと、画面のルックにである。2006年の映画にはとても全く恐ろしく見えない。確かにそこに登場してゐるのは今時のAVギャルと平川直大であるのだが、画面から匂ひ立つものからは“昭和”の二文字しか感じられない。一体何をどうすればかういふ撮影が出来るのか、個人的にはこのことは、実は肯定的に評価したい、半分少し程度は。御大小林悟既に亡き今、新田栄は画(ゑ)そのものだけならば、割と普通の画を撮る。要は普通のカメラマンを使つてゐる、といふだけのことでもあるのだらうが。かういふ一種の魔法を繰り出すのは、小川欽也あるいは関根和美くらゐしか最早居まい。これで映画の中身も面白ければ、何もいふことはないのだが。
 裕子は輸入浄水器のセールスレディ、親戚縁者の類には既に売り尽くし、まるで上がらぬ売り上げに頭を抱へてゐる。けふも部長(石動)に、トップの加藤一美(島田)を見習ふやうにとハッパをかけられる。そこで一美に教へを乞ふと、色気の足りないことをいきなり指摘されたりなんかする。さあて、そこで手取り足取り半ば一美に翻弄されるままに、裕子のお色気セールス奮闘記がスタートするのか、と思へばあに図らんや。
 ここで、寄り道して正直に降伏する。今作は、既に料理し尽くされてしまつてゐる。とはいへ、ピンクは観ただけ全部感想を書く、ことが当サイトの唯一にして絶対の基本方針である。ゆゑに如何なる醜態を晒さうとも、ここは頑として前に進む。

 話を戻して、“あに図らんや”から。会社にかゝつて来た顧客から電話で呼び出された、男性営業の杉村和夫(ヒョウドウ)と、上得意の水上玲子(風間)の露出プレイも絡めた濡れ場、OKエクストリーム(後述)が虚しく鳴り響く。あと、鏡麗子にでも教へて貰つたかのやうな、今作に於ける風間今日子の出鱈目なメイクはどうにかならないものか。ところでこの件、リモコンバイブを装着した怜子から道を尋ねられ不審げに応答する、妙に派手なパーカの男は加藤義一。どうでもいい件も挿みつつ、今度は一美と、夫・雅夫(なかみつ)の夫婦生活。一美は雅夫の紹介で、大量の浄水器の受注を得たといふが、ところで一体、主人公の筈の裕子は何処へ行つたのか。まるで成績の上がらぬ裕子が、如何にセールスレディとして大成して行くのか、といふテーマは何次元の狭間に消えたのか。以下の文脈に於いてのトップ・ランナーは誰をさし措いてもまづは坂本太であるが、当サイトは、他の一切が女の裸を銀幕に載せることのみに献身的に奉仕するやうなピンクの、潔さを真正面から評価するものである。ただそれも、基本的にはあくまで統一的な物語や、明確な起承転結が存在する場合の話である。かういふと、実に当たり前のことしかいつてゐないやうな気もするが。ただこの一美と雅夫の絡みに際しての、映画を一切選ばず、なほかつその映画映画に直結した七色の演技の幅を巧みに使ひ分ける、なかみつせいじの見上げたプロ根性だけは評価しておきたい。要するに、底の抜けた映画では底の抜けた演技を、といふことではあるのだが。
 一体何がしたいのだか、観客を何処に連れて行きたいのだかサッパリ判らぬままに。尺も半分以上を消化したところで、漸く裕子は一美とセールスに出る。一緒に回つて貰へばいいものを、一美と裕子とはそれぞれ単独行動。裕子が最初に門を叩いた家は、折悪しく留守であつた。ただ偶々、その家にはその時空巣(竹本)が侵入してゐた。室内を物色してゐるところを不意に裕子の来訪を受けた竹本泰志は、応対に窮しひとまづは裕子を家に招き入れる。ここで一応は裕子も御座成りなセールスを展開するものの、若い女の魅力に色気を出した竹本泰志に、裕子は手篭めにされてしまふ。この、空巣パートの一連も自由奔放。雨戸をこじ開け、台所に侵入した竹本泰志は、いきなり家人が旅行に出てゐることを察する。頼むから観客に、竹本泰志がさう辿り着いた根拠を提示して呉れ。この映画、最早かうなつたら楽しむほかはない、泣きながらでも。
 浄水器は全く売れないは手篭めにされるはで、裕子は落ち込む。といふか最早、浄水器とかどうだとかいつてゐる場合ではない。すると、どうして斯くも大らかな映画の撮り方が出来るのか。明日また頑張りませう、と前の晩に一美と別れた筈なのに、次の日は休みなのか、昼間から健二が裕子の部屋を訪れてゐる。指輪を持参した健二は、裕子に求婚する。浄水器も売れないし、このまま仕事は辞めて健二のお嫁さんにならう♪と裕子はハッピーにオッケーする。えええええ、何だそれwwwwwwwwww!?挫折を描いた映画である、とでもいふことにしておかう、しておくべきだ、さうでもしないとやつてゐられない。あるいは直截に、観客を挫折させる映画か。げに恐ろしき、小川欽也の繰り出す黒魔術。
 と、これだけで既に観客の腰を粉微塵にするに十分過ぎるほどでもあるのに、小川欽也は余計なところで妥協を知らない。性に消極的な―さういふ風に見える描写といふのも、これまで特段見当たりもしないのだが―裕子の為にと、健二は指輪と同時に四十八手を描いたAVを持参し、二人でそれを見ながらセクロスするのである。どんなプロポーズなんだよwwwwwwwwww!何だこれ、小川欽也がボケて、それを観客がツッコムといふ演芸か?
 かうして考へてみると、繰り返すが小林悟既に亡き今、これほどの明後日を向いた破壊力を有する映画を撮るのも、関根和美すら容易くさし措いて小川欽也しか居ないのかも知れない。06年の、裏ナンバー・ワン筆頭候補である。“明後日を向いた”といつたが、正当な破壊力といふ意味では、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦の名を挙げたい。あるいは“最強”山邦紀か。山邦紀の新作は、まるで追へてゐないところが何分にも心苦しいところではあるのだが。といふか、あれ?フと調べてみると、山邦紀は2006年は一本しか撮つてゐないのか!?薔薇族映画がもう一本あるが。バカヤロー、何やつてんだオーピー!
 配役中残り天磨は、杉村以外にもう一人少しだけ台詞もある男性営業か。

 後述注:OKエクストリームとは。ウッドベースとフルートと木琴とで渋い旋律を聴かせた後、サビに入るとトランペットが♪パパパーパーパパー♪とド真ん中のエモーションを炸裂させる、OK企画が有する必殺音源。いふまでもなく、勝手に命名したものである。

 裕子に求婚した健二が指輪と共に持参したのが、“四十八手を描いたAV”であると先に書いた。が正確には、画面のルックから窺ふに中身はAVではなく恐らく劇場映画である。若輩者につき、それが何の映画であるかまでは、小生には判らなかつた。ただ、この睦み合ふ男女をモデルに筆を走らせる絵師は、(凄く)若い久須美欽一か?


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