真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「絶倫老年 舐めねばる舌」(2008/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影・照明:小山田勝治/撮影助手:大江泰介/照明助手:藤田朋則/助監督:横江宏樹・府川絵里奈/助監督応援:沈恩京・小松原唯/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:華蝶楓月・淡島小鞠・池島ゆたか・荒木太郎・佐々木基子・牧村耕次)。
 素晴らしく晴れた河原、草叢の中をツイスト風のジェット・ストリーム・アタックで行進する、ゲートボール・ゲーターズの画にて開巻、若干誇張あり。ともに還暦を迎へ、会社を潰し妻には逃げられた平助(池島)と、こちらはガンで先立たれた六蔵(牧村)。二人に比べると幾分若いが、餅を喉に詰まらせた妻と死別して以来世を捨てた栄吉(荒木)を加へた、欲ならばあり余らせつつ、金も力も挙句に色男も、更に六蔵と平助に至つては余生すらあまり残されてゐないノー・フューチャーな三人組が、暇だけは持て余し何時もつるんでゐた。六蔵・平助は兎も角、栄吉は仕事はどうしてゐやがるのか。けふもヤル気があるのかないのか、それで玉が見えるのか見えないのかよく判らないラフの中で、三人は不毛なゲートボールに興じる。楽しさうにも、別に見えはしないのだけれど。明後日に転がつて行つた玉を、通りかかつた栄吉命名の肉感X(華蝶)が、拾ひ返して呉れる。六蔵を筆頭に肉感Xに劣情の琴線を激しく掻き鳴らされた三人は、栄吉の発案で、こんな俺達でも女にモテるためにはどうすればよいのか、専門家を招き講義を受けることにする。ところで、肉感的でなほかつミステリアスな女だから“肉感X”て・・・・
 そんな次第で六蔵の自宅こと浜野佐知邸に呼ばれた佐々木基子が、生理学専攻のマルグリット。オナニーの勧めを説くマルグリットに促され自慰時の体勢を取らされた三馬鹿の内、とりわけ平助に扮する池島ゆたかの果てしなくだらしないニヤケ顔は絶品。冒頭から折に触れ繰り返し登場する、九十度に曲げた腕を八の字を描くやうに振りながら、胸を前に反り反動として突き出された腰も左右にシェイクするツイスト・ストリーム・アタックも、マルグリットから“フランスで大流行”と紹介されたセクシー・ウォーク。先刻の肉感Xといひ、山﨑邦紀といふ人はインテリなのかバカなのか、時々判らなくなる。続けて登場する、淡島小鞠は社会学専攻のジャンヌ。ここはギミックとしての唐突な威力はさて措き、少し退いて冷静に検討してみると論理が必ずしも十全に繋がつてゐる訳ではないが、老人の性生活を、現実世界に対する諦観の下に妄想の世界に生きるほかないといふ意味合に於いて、ネット上の電脳空間と同一視する過激なジャンヌの議論に、平助と六蔵は臍を曲げ距離を取る。声の張りと凛とした佇まひとが、淡島小鞠はいよいよ形になつて来た。後は横好きの脚本を捨てるのと引き換へに、作品を選ばぬフットワークの軽さが具はればかなり強力な存在たり得ると思はれるのだが。ところで確か主演女優の筈の名前が目出度え華蝶楓月は、ヒールが高すぎて不格好甚だしい歩き方同様、お芝居の方も全方位的に覚束ないものの、そこはどうにか、謎めいた美女属性で回避しようとした苦心は窺へる。
 賑々しいジジイ共の「グローイング・アップ」―別に「ポーキーズ」でも、近くは「アメリカン・パイ」であれ別に何でもいゝ、『どくだみ荘』でも―は、山﨑邦紀一流の諸々ファンタスティックな意匠が鏤められた上で、愉快痛快に楽しく見させる。三人組の中では、荒木太郎が若輩のハンディを些かも感じさせないばかりか、寧ろ牧村耕次が羽目を外しきれてゐないやうにさへ映る。関根組なり深町組で、既に十分に実績はあらう筈なのに。一方、楽しくて仕方がない風が看て取れる池島ゆたかは水を得すぎ、いゝ意味で。それゆゑ、単純な順番からいつても最も主軸を担ふべき、六蔵のパートが最も弱い、といふ物足りなさは残らぬでもない。とはいへそこかしこで入念にヒント―といふか殆ど答へ―も配布済みの、物悲しくも一欠片のユーモアを摘んだラストは、好き放題のスラップスティックを穏やかに着地させる。お腹一杯のエロに飾られた特異な趣味性と攻撃的な笑ひとを、最終的には頑丈な論理が束ねる、久方振りに山﨑邦紀の本領を見せて貰つたともいふべき快作。残り三人の、現し世での姿を置いておいて欲しかつたやうな気持ちも残らなくはないが、それをするとゴチャゴチャと煩雑になつてしまふのと、逃げ場なくただ一人が取り残され、小屋を後にする足取りを幾分重たくしてゐたのやも知れない。

 見慣れない肩書ではあるが助監督応援の沈恩京といふ名前を、これで何か出て来るのかと駄目元でグーグル先生に訊いてみたところ、シム・ウンギョンといふ韓国人が出て来た。ところがこの人がといふかこの子が、子役俳優で十五歳の、しかも女の子。大人の映画の撮影になんて参加させて大丈夫なのか?そもそも法的にも。映画ミニコミ誌『SPOTTED 701』にピンク映画絡みの連載を持つてもゐるやうなので、単なる同姓同名の別人といふ可能性もあるが。
備忘録的付記< 全ては六蔵の恍惚のイマジン。荒木太郎が息子で、華蝶楓月は息子嫁。アバン始め散発的に種は蒔かれる


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