真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若妻官能クラブ 絶頂遊戯」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:伊藤秀裕/脚本:那須真知子/プロデューサー:林功/撮影:森勝/照明:直井勝正/録音:伊藤晴康/美術:柳生一夫/編集:鍋島惇/音楽:本多信介/助監督:中原俊弘/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作担当者:沖野晴久/出演:日向明子・マリア茉莉・林理恵・鶴岡修・今井久・宇南山宏・八代康二・大川まり・秋山百絵・野末直裕・北川レミ・小見山玉樹)。出演者中マリア茉莉に、ポスターがしのざき・さとみ的な要らん中点を入れる。
 カメラマンの朝倉浩一郎(鶴岡)と、朝倉の婚約者の姉で、偶さか東京に来てゐたみどり(林)のロング、上京の目的は等閑視。朝倉の結婚が、次で三回目。一回目は十六歳の処女と結婚したところ、北海道でのハネムーン中トラピスト修道院に逃げられる。話は続き、二人は大正義イースタンの車を拾ふ。二回目は四十一の女盛りと結婚してみると、箍の外れた多淫に今度は朝倉が死にかける。さうかう話してゐるうちに、多分女子大の表でタクシーは停車。一人目で落胆、二人目で払拭しきれぬ不満を抱へ、三人目で男を悟る。朝倉があれこれ考へ抜いた結果達した、男を三人体験してゐる女が、最もよき妻になれるとかいふ適当な結論まで開陳した流れで、テニスの練習場に到着。バッセン的な機械が、テニスボールを吐いてタイトル・イン。こゝまで五分を跨ぐアバン、朝倉の婚約者にしてみどりの妹・小夜子(日向)が、タイトルバックで満を持しての大登場。翻つたスコートの下に覗く、おパンティのストップモーションでクレジットが俳優部に入る、勘所の突き具合が麗しい。
 名なしモデル(大川)と、アシスタントの広瀬(今井)。スタイリスト(北川)に、もう一人カメアシ(野末)まで俳優部がほゞ出揃ふ撮影風景を経て。婚約指輪―と花束―を携へ小夜子のマンションを訪ねた朝倉は、いはゆる社会の窓も開けたまゝ、小夜子の部屋からそゝくさ出て来た小見山玉樹と交錯する。
 配役が、残らないのが問題。医者役とされる八代康二と、少女役とされる秋山百絵が何処にも見当たらない。もしも仮に、万が一。テニスコートのロングにでも紛れ込まれたとて、秋山百絵は兎も角、八代康二ならば見つけられさうな気がしなくもない。
 出演作を順にぼちぼち見進める、マリア茉莉映画祭。デビュー作から二本連続してゐた、伊藤秀裕第二作。マリア茉莉自身の初陣を撮つた林功にとつては、初のプロデュース作にあたる。小夜子・朝倉のペアと、みどりと夫の水原(宇南山)が対戦。審判を広瀬が務める、夫婦混合ダブルスの試合、小夜子と朝倉には(予)がつくけれど。コートの傍ら、テニス審判台の隣にマリア茉莉が立つてゐる画の、遠近法をも軽く狂はせるタッパがヤベえ。
 みどりは東京から“帰る”と称してゐるゆゑ、別荘の類でなく、其処に常住してゐると思しき山の中に、小夜子と朝倉が招かれる。デルモを大川まりからルナ(マリア)に変更した撮影も兼ね、スタイリストと野末直裕まで引き連れ総勢六人で、馬鹿デカい左ハンドルのオープンカーと、広瀬が駆るサイドカーで景勝地に繰り出す中盤が今作の本丸。外車は野末直裕が運転し、側車には小夜子が乗る。北川レミはまだしも、マリア茉莉の場合足が長すぎて入らなかつたのかも知れない。女優としての資質と反比例するかのやうな、途方もない股下に関してはさて措き。北川レミと野末直裕は大人しく蚊帳の外、あと要は小夜子と朝倉以外全ての組み合はせを摸索する勢ひの、ひたすらに濡れ場を連ねる遮二無二連ね倒す、腰の据わつた裸映画ぶりが清々しい。とりわけ、パーティーを離脱した小夜子を水原が追ひ、開戦するサシテニス。劣勢の小夜子が、動き辛い方便でドレスを脱ぎ―端からヒールは脱いでゐる―下着だけの半裸に。そこまでは、まだ千歩譲つて徳俵一杯蓋然性の範疇にせよ。なほも攻撃の手を緩めない、水原のスマッシュで小夜子のブラが弾け飛ぶ。グルッと一周した馬鹿馬鹿しさが、一種のスペクタクルに昇華するカットが一撃必殺。観るなり見るなり、兎に角触れた者の心に鮮烈な記憶を焼きつけるにさうゐない、伊藤秀裕一世一代のシークエンスが素晴らしい、ピークそこ?そのまゝ、物語ないし主題なんぞシネフィルにでも喰わせてしまへと、女の裸の一点突破で走り抜いてみせたとて。にしては六十八分は些か長いかなあ、程度の生温かい不満で納まつたものを。帰京後、小夜子に焦がれ朝倉が半ば以上に錯乱する件で明確に失速、しつつ。真実の愛に辿り着いた朝倉と小夜子の二人は、目出度く結ばれました、的な。適当な導入で締めの婚前交渉に突入、流石にそのまゝ駆け抜ける心ないラストで、それなりに持ち直す。
 散発的に火を噴く側面的な見所が、朝倉が軽口を舌先三寸で結構な長尺転がし続ける、何気な長回し。如何にもらしい鮮やかな一幕・アンド・アウェイで、こゝにありぶりを叩き込む小見山玉樹共々、高いスキルを事もなげに披露してのける、鶴岡修クラスタも必見の一作。などと明後日か一昨日なレコメンドをしてみせて、別に罰もあたらぬのではなからうか。


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