真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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女浮世風呂
あ行
/
2023年12月20日
「
女浮世風呂
」(昭和43/製作:青山プロダクション/配給:日活株式会社/監督:井田探/脚本:山崎巌/製作:児井英生/撮影:岩崎秀光/美術:黒沢治安/編集:金子半三郎/音楽:大森盛太郎/ 考証:小川欽也/照明:石田清三郎/助監督: 森河内長康/録音:アオイスタジオ/製作担当:永野保徳/スチール:花沢正治/出演:葉山良二、二本柳敏恵、内田高子、岡崎二朗、名和宏、谷村昌彦、二本柳寛、火鳥こずえ、美矢かほる、谷ナオミ、清水世津、林美樹 辰巳典子、大月麗子、乱孝寿、S・クリケット、泉田洋志、冬木京三、大原譲二、鶴岡八郎、国創典、美舟洋子、椙山拳一郎、二階堂浩、種村正、里見浩二、新井麗子、福田トヨ、大塚弘二、久本由紀)。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
今回、公開当時のタイトルロール原版が現存しない、とかいふぞんざいな理由で、上映素材のタイトル表示とクレジットを、海外公開版から持つて来る豪快仕様。尤も、打ち慣れないアルファベットを叩くのが面倒ゆゑ、その点に関しては平然と胡坐をかいて済ます。挙句、俳優部は林美樹で打ち止め、スタッフもスタッフでポスターにも載つてゐる考証の小川欽也―時代には非ず―以下、派手に端折つてのける断裁クレジットではある。ちなみに国内版ポスターに、名前が載るのはS・クリケットまで。
荘厳なおピアノを鳴らし、堀からの上ティルトで江戸城を望む。「徳川五代将軍綱吉の頃」、都健二に匹敵する手堅い名調子でナレーション起動。士農工商の堅守を目論む幕府が、台頭する商工階級を抑へ込まうと娯楽を禁ずる法度を濫発。鬱積した町人の間で、湯女と呼ばれる女流三助が最終的には春をも鬻ぐ、湯屋が流行した背景を述べた流れで江戸時代のピンサロ的なロングに、「GAMES FOR LOVERS」の洋題でタイトル・イン。元来向かうでは案外さういふもの、といつてしまへばそれまでながら、グルッと一周してポップカルチャー的に一種の真理にでも到達しかねない、霞より薄いタイトルの無意味さが清々しい。あと、英題が「TOKYO BATH HAREM」ゆゑ、「GAMES FOR LOVERS」は米題なのかも、「TOKYO BATH HAREM」の方が十万億倍カッコいゝ。
参拝する武家の娘・初瀬(二本柳敏恵)が、黒兵衛(鶴岡八郎/赤)と勘太(椙山拳一郎/黄)に六助(二階堂浩a.k.a.伊海田弘/青)、三人組の町奴に拉致される。続けて門付芸人のとよ(美矢)と、巫女のしゅん(林)も信号機三連星の餌食に。攫ふだけならまだしも、境内で巫女を犯すのは不味いだろ、“まだしも”ぢやねえ。一方、大奥中臈の初瀬(内田)が、翠光院に尼僧の妙照尼(火鳥)を訪ね百合の花を咲かす。ヅカの男役ばりの、パッキパキにソリッドな火鳥こずえの美貌には軽く驚いた。ところが百合を咲かせてゐる最中に、寺社奉行の藤枝外記(名和)が出し抜けか豪快に闖入。その時この御仁は其処で何を探つてゐたのか、隠密の梶野新三郎(葉山)も天井裏に潜んでゐた。あのさ、あんたら、そもそも尼寺なんだけど。
気を取り直して、配役残り。冬木京三と大原譲二に泉田洋志は、金貸しの大和屋と廻船問屋の備前屋に、設定上は藤枝邸隣家の御家人―当人の自称だと“直参旗本”―とされつつ、傾(かぶ)いた着流しの造形的には浪人の用心棒くらゐにしか見えない神林半三郎。往時は抜け荷と呼ばれたオランダ相手の密貿易に、湯女を人身売買しようといふのが藤枝らの随分な悪巧み、ズイブン・ブン・ブン。S・クリケットは、何処から連れて来たのか備前屋が藤枝に献上する白人娘・クリスティーナ。如何にも拾つて来られた馬の骨ぶりを発揮しながらも、一応爆乳、全体的もとい全身的に過積載ともいふ。大塚弘二は、新三郎が遊び人の新三と素性を偽り、潜伏する長屋に暮らす按摩・宅一。里見浩二も長屋の住人で矢鱈色男のトギ安、新井麗子がトギ安の女房。谷村昌彦と福田トヨも、同じく悟道軒とその女房。悟道軒は講談師かね、好男子ではない。岡崎二朗が、新三にとつて相棒格の大工・太吉。清水世津は、初江ら同様湯女の補充に拐かされたひで。国創典は、藤枝一派が根城もしくは養成所とする、長屋近くの湯屋「さくらゆ」の主人・嘉助、美舟洋子が多分嘉助の女房・かね。久本由紀は、「さくらゆ」での入浴中藤枝に目をつけられる小間物屋の若嫁。南蛮渡来のギヤマンと称した、マジックミラーで覗ゐてゐるのが微笑ましい御愛嬌。更に、藤枝らが女体に垂涎してゐると、混浴の湯船に太吉が入つて来るネタは普通に可笑しい。乱孝寿・辰巳典子・谷ナオミ・大月麗子もカッ攫はれたみなさん、順につる・なつ・きよ・ちせ、なつは経産婦できよは妊婦。二本柳敏恵の実父である二本柳寛は、新三郎を指揮下に置く目付役・秋本加賀守。秀役とされる種村正が、どの人を指すのかどうしても判らない、ヒデなのかシュウなのかも知らん。
ロマンポルノの産声に遡ること三年、日活が量産型裸映画を摸索してゐたその名も“日活本能路線”の第一弾、ブランド名から奮つてゐる。“本能路線”、それこそ根源的な欲求に、敢然とフルコンタクトで当てに来る姿勢が雄々しい。ロマポ第1.5作「
色暦 大奥秘話
」(昭和46/監督:林功/脚本:新関次郎=大工原正泰+松本孝二/主演:小川節子)の次の番組で、地元駅前ロマンに着弾したものである。話を戻すと日活本能路線は全て児井英生率ゐる青山プロダクションの製作で、一月後の第二弾「ある色魔の告白 色欲の果て」(監督:江崎実生)、更にその二ヶ月後の第三弾「秘帳 女浮世草紙」(監督:井田探)まで続く。国外にも売れただけあり結構当たつた模様、こゝでの時代劇ポルノの成功がのちの「色暦 大奥秘話」に繋がつた沿革を踏まへると、前後が逆とはいへ二作の連続上映とは、駅前にしてはなかなか味な真似をといつた趣。何せ平素はコロナ禍にあつても無防備な性愛が苛烈に火花を散らす、ゴッリゴリのハッテン場につき。考へてみれば性病上等の命知らずが、たかゞCOVID-19を懼れる道理もないのか。どがな世界なら、映画館は戦場だ。
風来坊ぶつた正義の味方が、非道な巨悪と果敢に対峙するありがちな活劇。台詞の形でも二度明示される、新三郎の正体は御庭番。と、ころで。御庭番といふのは八代吉宗が創設した役職であつて、綱吉の治世下には未だ存在してゐない旨、半ば脊髄で折り返すツッコミも巷間には散見されなくない。尤も、野良犬一匹殺しても死罪の町人に対し、侍ならば如何なる悪行も許されるのか。太吉が振り絞る、明確に政治的なプロテストを成立させるためには、綱吉の制定した天下の悪法と名高い、生類憐みの令が必要であつたのにさうゐない、高かねえだろ。劇映画が最も弾む太吉のエモーションと秤にかけた上で、この頃御庭番はゐなかつた類のぞんざいに片づけると些末な史実には、囚はれるべきでは必ずしもないとする南風を当サイトは吹かす。何れにしても、猥らに御庭番なんぞ持ち出さず、単に隠密で事済むではないかといふならば、全く以て御尤も。
女の裸的にはわざわざ今上御大を要は特技ならぬ濡れ場監督で招いたにしては、時期的な限界か絡みの訴求力は決して高くはない。どころか、ナンジャコリャの範疇にすら俵を割る。結局叶ひはしないものの、神林の篭絡を試みたとよが、自らが燃えたら逃がす謎ルールで事に及ぶ一種の据膳。神林がとよの首を絞め喜悦させるメソッドは理解に難く、幾ら奉行とはいへ、といふか奉行風情が大奥の中臈を手篭めにする、大概言語道断な一幕。よもやそこは江戸城―のつもり―なのか、本格的な日本庭園にて初瀬と再び接触した藤枝が、そのまゝ屋外で独楽のやうに女の帯を解く所謂「あ~れ~」を敢行、流石に「あ~れ~」とはいはんがな。ロケ地の制約か内田高子を満足に剥きもせず、苦悶がてら喜悦する初瀬のアップ。と諸肌までは脱ぐ妙照尼の凛々しいイメージ、に名和宏の悪党面。を連ねる破天荒なカットバックは煽情性の喪失ないし忘却も通り越し、前衛性の領域に易々と突入する。そ、れ以前に。何某か大人の事情でもあつたのか、紙一重ないし薄皮一枚の回避で、実は内田高子が脱ぐといふほど脱いではゐない。ついでで二本柳敏恵は、元々裸仕事の人ではないので脱がない。不発気味の入れポン出しポンよりも、浴場で気前よくか無造作に放り出す乳尻の方が、見せ方はプレーンにせよ寧ろ潤沢。あと当サイト的には、オッパイを持ち上げ却つて強調するかの如く隠す、辰巳典子の神々しいカットに琴線を激弾きぴんぴん丸。息するのやめればいゝのにな、俺。
一応クライマックスに足るそこそこの大立ち回りも経て、憎き藤枝は無事処断。賑々しい日常を長屋は取り戻しました、目出度し目出度し。とはならないんだな、これが。初瀬を篭絡した藤枝が、上様相手に糸を引く荒業が逆の意味で見事に爆裂。大したダメージも負はず、藤枝こと名和宏が名悪役らしい憎々しさで高笑ふのと対照的に、一件を落着させ損ねた格好の新三郎はまるで敗れ去つた体でしんみり長屋を去る、物悲しいラストは勧善懲悪を完全否定。雅な色気をさて措くと、娯楽映画としては相当な変化球である反面、上手く勘違ひか下手に曲解した場合、虚無に片足突つ込んだ、冷酷な現実主義の可能性を残すのかも知れない。
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