真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「怪談 回春荘 こんな私に入居して」(2020/制作:不写之射プロ/提供:オーピー映画/脚本・編集・監督:古澤健/撮影:山田達也/照明:玉川直人/録音:臼井勝/音響:川口陽一/音楽:宇波拓/ヘアメイク:堀たえこ/スチール:平野敬子/助監督:島崎真人・菊嶌稔章/撮影助手:髙嶋正人・及川玲音/制作協力:高杉孝宏/衣裳協力:纐纈春樹/協力:株式会社バイハート・クリッパーエンターテイメント株式会社・日本照明株式会社・サボロッカ・梅宮不動産・佐川絹子/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:石川雄也・桜木優希音・加藤ツバキ・細川佳央・美園和花・古川博巳・古澤健・馬場誠・島崎真人・菊嶌稔章・及川玲音)。出演者中、古澤健が本篇クレジットのみ。
 黒バックのタイトル開巻、下水道をヘッドライトで探索する画に、クレジットが先行する。明けて矢張り地下の暗がりにて石川雄也と、ピンク映画的には意表を突く三番手が熱い一戦。歯痒さを感じさせるでなく、意外と的確にピンスポが美園和花の爆乳に当たり、寧ろ文字通り全体的に余つた肉を闇に隠す。事こゝに至る顛末を、石川雄也が語り始める、体裁を取りはする。とこ、ろで。石川雄也がダーリンから名義を元に戻したのも、佐々木浩久ピンク映画第三作「好色男女 セックスの季節」(2019/主演:栄川乃亜)から、廣田正興のどうせヒット・アンド・アウェイ作「魔性尻 おまへが欲しい」(2020/ベビーブーム・マサ名義/今奈良孝行と共同脚本/主演:知花みく)、山内大輔2020年第一作「はめ堕ち淫行 猥褻なきづな」(主演:佐倉絆)を経てかれこれ四本目。
 滞納した家賃の苛烈な催促を、村田吾郎(石川)が煙草を燻らしやり過ごす、やり過ごせてゐるとはいつてゐない。窓の下では、アパートの敷地内に村田が並べたゴミに、大家の桑山妙子(加藤)と店子の山田(古澤)が眉を顰める。村田は働きもせず、拾つて来たゴミを売りつけ日銭を稼がうとした結果、山田以外の住人は皆退去。重ねて村田宅にはDV夫から逃げて来た新山千尋(桜木)が居つき、挙句マッチングアプリで客を取り日々訳の判らない人間が出入りしてゐた。多分自分対策と思しき飛び道具的人物を、妙子が招聘する様子を村田は目撃。終に出て行つた山田の部屋に、品田徹(細川)と細川知絵(美園和花)のカップルが越して来る。
 配役残り、多分当たるビリング推定で馬場誠が、桜木優希音の初戦を介錯する劇中一人目の客。最中、チャチい相対性理論みたいな謎トラック―クレジットも素通りする―がしかも歌詞スーパーつきで起動したかと思ふと、桜木優希音と馬場誠が目線をカメラにビッシビシ送り始め腰遣ひより曲のリズムを尊重するPV風演出は、今は亡き荒木太郎に劣るとも勝らない超絶駄意匠。主演女優の絡みナメてんのか、下位番手でも許さんがといふ以前に死んでもゐねえ。つか復権させてやれよ、圧殺したまゝはあんまりだろ。表に出てゐない出せない、荒木太郎側の粗相でもあるのか。たとへばエクセスから逆襲するためのクラファンなら、十万くらゐであれば出す旨当サイトは公言する、リターンは赤いTシャツがいゝな。素で着られるTシャツのセンスを、荒木太郎に求め得るのか否かは知らん。閑話、休題。菊嶌稔章は千尋が家を空けておくやうメールしたにも関らず、村田がゐたため踵を返す二人目の客、当然千尋激おこ。古川博巳は万札を拾つた村田に、「あんたのか?」と下水道から尋ねかける紳士。消去法で及川玲音は千尋と品田が致してゐた筈なのに、玄関から出て来た男が細川佳央ではなかつた三人目の客。それゆゑ字面だけだと絶妙に不鮮明な、性別はエックスワイ。最後に島崎真人が恐々現金を差し出すと、得物の大ぶりなナイフを柄を向け渡して呉れる強盗の癖にジェントルな目出し帽、あるいはエクストリーム押し売り。
 のうのうと、もとい堂々と。“夏の怪談”なる文言で予告の幕が開ける古澤健ピンク映画第二作は、佐々木浩久の第二作「情欲怪談 呪ひの赤襦袢」(2018/主演:浜崎真緒)に続き外様に撮らせた恒例の大蔵怪談。当サイト調べの通算成績は、「変態怪談 し放題され放題」(2019/脚本・監督・編集:山内大輔/主演:星川凛々花)までで二分けがともに山内大輔の一勝五敗二分け。なかなかの死屍累々を晒す看板シリーズに加へ、2019年は角田恭弥の「淫美談 アノコノシタタリ」(主演:なつめ愛莉)と、塩出太志の「童貞幽霊 あの世の果てでイキまくれ!」(主演:戸田真琴)がお化け映画の渋滞を起こし、年を跨いで2020年も今作のみならず、竹洞哲也の「温泉情話 湯船で揉みがへり」(脚本:小松公典/主演:きみと歩実)なり佐藤周の「若妻ナマ配信 見せたがり」(主演:山岸逢花)が、ただでさへ僅かで少ない総制作数の割に目立ちもする。コロニャン禍にも火に油を注がれたこの期・オブ・この期に及んで、何の弾みか誰の因果か、幽霊譚ばかりが量産されてゐるのは何気なリアル怪異。
 さうは、いふものの。何が途轍もなく凄まじいといつて、ポスターでは常にも増して如何にもなドヤ顔をキメる桜木優希音が、何時この人本当は既に死んでゐました展開に突入するものかと思ひきや、思ひきやー。普通に荷物をまとめた千尋は、生きて回春荘(仮名)を離脱。その他人死にこそあれ一人も化けて出て来はしない、即ち、何処が怪談なのかサッパリ判らないのは当たり前、幽霊も妖怪も怪物も出て来ない、そもそも怪談でない盛大な羊頭狗肉には度肝を抜かれた。先に挙げた通算成績に追加するならば、斯様な、鉄道が敷設されてもゐない痴漢電車の如き代物ノーコンテストである。
 兎も角、もクソもない気も否み難いけれど渾身の強ひてで話を進めると、自らのこのこ出撃して映画を詰んだ、前作にしてピンク筆卸作「たわゝな気持ち 全部やつちやはう」(2019/主演:松本菜奈実)に於けるヒロイン同棲相手のモラハラ野郎同様、自身を万事の中心に都合よく操作した―没―道徳を滔々と捏ね繰り回し続ける、自堕落といふ概念を擬人化したかのやうな村田の感情移入に果てしなく遠い造形は、かういふ不快指数の高い―だけの―男が主人公か主要人物の映画を二本続けられては古澤健の娯楽作家としての資質―本人の自覚が仮にさうでなくとも、ピンクの本義は量産型娯楽映画にさうゐない―を疑ふほかないが、タイは巻いてゐたりゐなかつたりなワイシャツの上にツナギを着た更に上に、恐らくオーバーサイズのジャケットを羽織る。真似しようにも素人にはまづ無理な難易度の高いファッションを、石川雄也が流石の役者力で着こなしカッコいゝダメ人間をギリ成立させてのける。裸映画的には桜木優希音は腹は立たない程度、美園和花は乳の暴力で有無をいはさず些末を捻じ伏せる。オッパイは、ジャスティス。果たして本当に脱ぐのか結構本気でハラハラさせられた加藤ツバキは、確かに濡れ場は刹那的にせよ、妙子の海千山千なキャラクターにも増幅された、ただフレームの中にゐて呉れさへすれば濃厚に漂ふ、エッジの効いた色気は最後に今作を救ふ徳俵防衛線。表面的なテイストは全く異なれど、先に挙げた「温泉情話 湯船で揉みがへり」と大体似たやうな構図で飛び込んで来るのが絶好調のその先で驀進する細川佳央。村田のブルータルなふしだらさに、食傷どころで済まなくなりかける中盤。呼び寄せられた品田が、乾いた暴力で村田をやつゝけ始めるや煮詰まりかけてゐた映画が俄かに躍りだし、退散した村田の部屋に、今度は邪気もなくロケット花火を撃ち込む。ストレートに面白可笑しい、猛毒を以て毒を制する件が再加速、臆面もなく村田が助けを求めた妙子のベランダに、品田が現れ二人は軽く乳繰り合ひ始める。のを、村田家屋内の鏡に映り込ませる凝つた画に、昨今その手の手間を費やす本隊がおいそれとは見当たらないのもあり、貧しいといへば貧しい新鮮さを覚えた。再びさうは、いふてもだな。目撃者を捜す村田が大家の家から盗んだ鍵で、品田と知絵宅に忍び込んだ直後のカットで火蓋を切る、小出しされる真実、真実?矢継ぎ早に繰り出されるもしくは虚実で現実的な着地点を朧気に窺はせながらも、最終的にはオッ広げたかトッ散らかした支離滅裂を逆の意味で見事に畳みもせず、始終は虚空に消滅。根本的な牛頭馬肉の果てに、雪崩れ込んではみたサイコサスペンスも釈然としなさしか残さない壮絶な空中分解を遂げる。遂げた自作に関し古澤健はある意味それが一番恐ろしいほど自信満々で、曰く“映画の無意識が作らしめた傑作”につき、“次の20年も俺はいける!”と確信するに足るらしい。論理的ないし技術的な娯楽映画をピンクに求める当サイトの立ち位置からは、“映画の無意識”だとか高邁な理論、もしくは紙一重の独善を振り回されたところで呆れる気力も雲散し、霧消して屁も出ないがこれで腸を煮え繰り返らせもせず、案外ニュートラルな心持ちで小屋を後にしたのも、実は偽らざる感触である。正負のベクトルが上手いこと原点に収束してしまふ、これで稀有な平衡感覚を有した一作ともいへようか、まあゼロはゼロなんだがな。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )