真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
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若妻ナマ配信 見せたがり
さ行
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2022年02月10日
「
若妻ナマ配信 見せたがり
」(2020/制作:ノストロモ/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:佐藤周/撮影:橋本篤志/照明:鈴木馨悟/録音:山口勉/効果・整音:吉方淳二/メイク:坂口佳那恵/衣装:佐藤彩奈/造形:土肥良成/監督助手:川辺崇広・佐々木勝己/撮影助手:市来聖史/照明応援:高津健裕・鴨居玲央奈/メイク助手:川尻麻央/制作進行:木村直樹/スチール:富山龍太郎/仕上げ:東映ラボ・テック/編集協力:酒本悠資・秦敏樹/機材協力:山﨑玲・ミックビジョン・Kurosawa Film Studio/照明機材コーディネーター:藪野裕太郎/協力:小谷不充穂・谷口恒平・松野友貴・上野オークラ劇場・「東京でとつて食べる生活・ドキュメンタリー」/出演:山岸逢花・小梅えな・吉根ゆりあ・宮原尚之・木村直樹・梁瀬泰希・志藤佑輝・馬場眞桜華・古谷蓮・安藤昴・掛石智彦・吉田剛士・柴田一樹・石原絵美子・有希・毘真未・金丸真子・矢野まなみ・柘植美咲・松川千紘・東山康平)。出演者中、宮原尚之から松川千紘までは本篇クレジットのみ。
ノストロモロゴ時から弾む女の息遣ひは開巻即の初戦、ではなくジョギング。走者視点が一回来た道を引き返し、再度振り返るとカメラを構へた男が不意に現れる。のは、動画サイト「WVideo」にて夫婦で「たちばなチャンネル」を配信する、橘圭介(東山)と妻・綾子(山岸)の撮影風景。何が面白いのかサッパリ判らない動画の撮影を圭介が続ける傍ら、御々足の汗を拭いてゐて、自らに近づかうとする何某かの気配に身を固くした綾子が、聞こえて来た「ごめんなさい」といふ女の声に戦慄して暗転タイトル・イン。アルファベット三文字でいふところのPOV“point of view shot”、カメラの視線と登場人物各々の視線が一致する一人称視点で全篇貫かれる。
タイトル明けが騎乗位の要はハメ撮りといふのは、弁へた清々しさ。夫婦生活の最中にも、綾子は正体不明のけわいに戦く。時制は意図的に前後、料理動画の虚飾に溢れた撮影風景経て、圭介は十万人の登録者数を誇る「たちばなチャンネル」で売つた名前も営業職に利す、「WVideo」活動を公認する職場に出社。威圧的な爆乳を聳えさせる総務担当の内田優子(小梅)と、ラブホテルでの逢瀬を圭介が楽しんだ事後。その日無断欠勤した経理の早川沙織が、事故死してゐたとの急報が部長(後述)から入る。
在りし日の沙織(吉根)はサトルと性別から偽り、口元をマスクで隠すエイコとのチャット―サトル側から送られるのは文字情報のみ―に、勤務中も周囲の目を盗みのめり込んでゐた。誰もアタシを見て呉れない、愛して呉れない。自身にも似たありふれた寂寥を拗らせるエイコに、沙織は侘しい汚部屋で入れ揚げる。ある日、沙織が一人でコーヒーを飲んでゐるパスタ店を、綾子と圭介が動画の撮影で訪れる。既に圭介に喰はれてゐた沙織は、綾子の指にエイコがしてゐたものと同じ柄物の絆創膏を発見。逆上し圭介に掴みかゝつた沙織が、飛び出した往来。昭和の時代から数十年一日で進歩しない無調法な繋ぎで、呆然自失と車道によろめいた沙織は車に撥ねられ絶命する。新しい手法で積年の課題をどうにか克服出来ないものかといふ以前に、轢かれた直後の沙織視点、車が後方から通り過ぎて行くのは位置関係が些かおかしかない?配役残り、何処にそんな見切れてゐたのか名前数の多い気も否めない、本クレのみ勢は部長の宮原尚之以下社内と、パスタ店要員、圭介と会話も交すエレベーター女がどうしても特定出来ず。あと、繰り出す零距離戦闘術が多分世界最速のアクションスター・坂口拓(a.k.a.TAK∴)も所属する、芸能事務所「ワーサル」の人間が多いのは佐藤周と何らかの関りがあるのかしら。
三回目となる「OP PICTURES 新人監督発掘プロジェクト 2019」で優秀賞受賞、ホラー畑を主戦場とする佐藤周の恐らく、もしくはどうせ最初で最後の賑やかし作。
POV案件に関しては場数を然程ですらなく踏んでゐないのもあり、優劣を論じる能力を当サイトは有しない。乳舐めは兎も角、尺八なりハモニカを何故吹かせんかといふ根源的な疑問ないし不満、より直截には原初的なジャスティスに基づく義憤さへさて措けば、女視点による自分のオッパイは、なかなか新鮮な破壊力。さうはいへそもそも大きなロングをさうさう抜けもしない以上、カットを適宜割れる程度で、「
天使のはらわた 赤い淫画
」(昭和56//監督:池田敏春/原作・脚本:石井隆/主演:泉じゅん・阿部雅彦)を彷彿させる鮮烈なラスト・ショットを除けば、特筆するほど見応への煌めく画は別段見当たらない。終に沙織の霊が本格起動しての橘家浴室と、逃げ込んだ圭介が優子を呼び出したラブホの、矢張りバスルーム。沙織が手を伸ばす綾子に、当然裕子と圭介。うつてつけに並走するシークエンスをあつらへておきながら、本来であれば激しく応酬して然るべき筈の、クロスカッティングが手数も尺自体も攻めが甚だ甘いのは大いに惜しい。何より、終に心通はせた綾子と沙織が絢爛と狂ひ咲かせる、極大輪の百合の花。たとへば我等がナベならば全力のその先で轟然と突つ込んで行つたにさうゐない、一撃必殺も必殺、大必殺にして格好の大魚を事もなげに釣り逃がしての、締めの濡れ場の欠如が裸映画的には筆舌に尽くし難く勿体ない。さうは、いへ。全員映画初陣のエクセスライクな三本柱に、僅かな綻びにも観てゐて躓かない少なくとも最低限十全なお芝居をさせた上で、綺麗に且つ十二分にどエロく撮る。東山康平も、終始尊大にドヤる圭介の綾子に対する傲岸不遜としたモラハラぶりは、往年の松原正隆にも匹敵する劇中この男が死なずには気の済まない大概な憎々しさ、目出度く死んだけど。佐藤周の着実な演出力の高さは、案外不安定な外様部の中群を抜いてゐる。それ、だけに。その後現在に至る状況を眺めるに、ヒット・アンド・アウェイで佐藤周が終りさうな空気が改めて重ね重ね惜しい。腕を見込んでの、覚悟を極めたピンクを言葉巧みにでも何でも兎に角連れて来た人間に撮らせられる、辣腕が大蔵にはゐないのであらうか。
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