真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 いけないこの指」(昭和60/製作・配給:新東宝映画/監督:渡辺元嗣/脚本:片岡修二/製作:伊能竜/撮影:倉本和人/編集:酒井正次/音楽:芥川たかし/出演:大滝かつ美・田口あゆみ・しのざきさとみ・風見玲香・ジミー土田・池島ゆたか・久保新二)。スタッフはナベと倉本和人(a.k.a.倉本和比人)のみ、俳優部に至つては男主役であるにも関らずジミー土田の名前がない、絶望的なビデオ版クレジットに匙を投げる。残りとビリングはjmdbにひとまづ従ひ、ついででVHSは田口あゆみ・しのざきさとみ・大滝かつ美・久保新二・池島ゆたか・風見玲香の順、責任者か担当者は土に還れ。
 星空で開巻、JAL69便、の玩具。パイロットが管制と連絡を取らうとしてゐると、操縦席の外側から逆さにフレーム・インした田口あゆみが、「東京て何処ですか?」。下を指差した操縦士が首を傾げる一方、キャンディ(田口)はパラソルでゆるゆる降下。続いて高層ビルの窓拭き―但し内側から―に渋谷、烏には月見荘の場所を尋ね、当の月見荘。チャップリンTの小林松太郎(ジミー)が、明日の告白と結婚とを満月に期す、開けた窓からキャンディが松太郎の部屋に墜落する。電磁加速砲を喰らつた鳩のやうな松太郎に対し、キャンディが“世界で一番惨めな男”の松太郎を幸せにするやう神様に命じられた、天使である旨素頓狂か無礼千万な自己紹介をしてタイトル・イン。松太郎の部屋に、キャンディが文字通り飛び込むシークエンスは奇跡的なカット割りで案外見させるのと、パイロット共々、窓拭きが内トラにしては馬鹿にといふか、本職の男優部三本柱よりも寧ろ男前。
 配役残り、巨大なロイドに戦慄を禁じ得ない池島ゆたかは翌朝の通勤電車、松太郎について来たキャンディに痴漢する男。セットなんて組むのが面倒臭いとでもいはんばかりの、フリーダムな実車輌撮影―カメラ位置が妙に高い―が清々しい。話を戻して池島ゆたかに基いた松太郎いはく痴漢の定義が、「女が好きな癖に女をモノに出来ない内気な助平さ」、実も蓋もない。主要キャストの筈なのに、序盤かつ斯様な形で使つてしまつて池島ゆたかはどうするのか。と激しく疑問に思つてゐたら、月見荘住人の新劇俳優とかいふ形で力技の再登場を果たす。大滝かつ美は慌てて階段を駆け上がる松太郎が食パン感覚で激突する、段ボールに溢れるほど書類を抱へ下りて来た同僚の野沢か野澤未来、松太郎意中の人。何気に歯がガッチャガチャの久保新二は、松太郎に殺すだ何だ出鱈目な雷を恐らく毎日落とす園山課長。未来で野沢を切つてゐるゆゑ、新劇の苗字は本命が轟で対抗は江藤かな。しのざきさとみと風見玲香は、松太郎に激おこすると決まつて最後は鼻血を噴く園山を、介抱すると称して抱かれる画面手前のアスカと、真ん中に未来挟んで奥のキョーコ。絡みの順番的にはキョーコが先、といふかアスカはギリギリのスレスレまで温存する。あと、未来の机上に算盤が置いてあつたりするのは、有線電話以上に今の若い子達には理解し難いレガシーかも。忘れてた、最終盤聞かせる神様の二言三言は、混同もものともせず池島ゆたか。
 「マイ・フェア・レディ」の次は、「メアリー・ポピンズ」と来た渡辺元嗣昭和60年第三作。未来と松太郎の物語であれ、主演女優は大滝かつ美、ではなく田口あゆみ。松太郎から贈られたダサい三日月のペンダントを気に入つた未来が訪ねて来たところ、月見荘に転がり込んでゐたキャンディを見て恋路が拗れる、といつた方向に当然展開する。相変らずワン・ノブ・ロケーションに過ぎない電車が本筋には掠りもしない無頓着は兎も角、内気な新劇クン(仮名)をキャンディが筆卸し一皮剝く中盤の見せ場を最大のハイライトに、裸映画的にはとりあへず安定。風見玲香にしのざきさとみ、巨乳部を二枚並べた豪華な濡れ場要員は、全く同じ手口を厭ひも構ひもせず、久保チンが堂々と介錯する。今でいふパワハラ糞上司に連日怒鳴り散らかされる以外には、松太郎がそこまで“世界で一番惨めな男”にも見えない根本的な疑問は、豪快かつ小洒落たオチで回収してみせ素のお話もそこそこに纏まる。銀幕―ないし液晶―の此岸の“世界で一番惨めな男”に対し、キャンディが本当に「それー!」と飛んで来る爽快なラストもお見事。さうなるとなアキレス腱が、ナベは相当に惚れ込んでゐたらしいものの、酷いパーマ頭に絵に描いたやうな団子鼻で、精々ビューティー・ペアに憧れた全女の練習生といつた風情の大滝かつ美。星空に松太郎の名を叫ぶ、壮大か壮絶なロングには悶絶した。そこかしこの臆面もない安さは雀の覚えたダンスにせよ、今となつては如何せん厳しい、無造作なミソジニーは一旦さて措くに流石に難く、とかく初期ナベが持て囃される風潮に関しては、厳密な現在は未だ当地に着弾してゐないゆゑ兎も角、全般的に近年の方が普通にプログレスしてゐるのではなからうか。狙ひを定めると確実に低調してゐた2000年前後十年くらゐに醸成された、過去の過大評価であるやうにも思へる。


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